パスワードを入力してください!
ハア、ハア、ハア、ハア
もう少しだ、もう少し走ればあいつ等から永遠におサラバできる。
俺を追って来ているのはゾンビ。
何処かの国の軍事施設から流出したウィルスに感染した人間の成れの果て。
あ! 爺さんが俺に残してくれた家って言うか襤褸小屋が見えて来た。
爺さんの家の隣に襤褸小屋とは対照的にどデカい蔵が建っている。
俺の目的地はその蔵。
爺さんは蔵を核シェルターに改造して中に大量の食料などを備蓄。
核戦争が勃発したら立て籠もるつもりでいたらしい。
つもりでいたらしいが、五年前に老衰でくたばっちまった。
それでただ1人の親族の俺が、広大な土地と襤褸小屋と蔵それに襤褸小屋や蔵に電気を供給していた数基の風車、それと貯金通帳を爺さんの顧問弁護士だった男から渡される。
3桁億円の貯金を5年で使い切って山奥にある襤褸小屋が建っている土地は売れるかな? なんて思っていたら全世界にゾンビウィルスが蔓延したって訳だ。
弁護士の男に貯金通帳と共に渡された鍵で蔵の扉脇にあるボックスを開ける。
ボックスを開けた途端、大音量で「パスワードを入力してください!」って合成音が流れ出た。
ヒィ! 止めろー音を出すなー、奴等音に集まる習性があるんだぞ。
俺の息遣いと足音だけだったから奴等を何とか引き離していたのに、水の泡になるー。
なんて俺の思惑は関係無いとばかりにボックスから大音量の合成音が流れ続ける。
「パスワードを入力してください! パスワードを入力してください!」
爺さん凄え難聴だったからな。
こんな山奥で1人暮らししていたのも、人と会話すると補聴器越しでも何度も聞き直さなくてはならない事を嫌ってだったから。
早く早くパスワードを打ち込まなくては、ドタドタドタドタと後ろから奴等が走り寄ってくる音が聞こえて来る。
「ピー! 正確なパスワードが打ち込まれた事を確認! 扉の錠が外されました! 30秒以内に扉を開けてください!」
「ウワァ! ギヤァァァーー!」
「30秒以内に扉が開けられない場合扉の錠がロックされます! ロックされたらまた最初からパスワードを入力し直してください!」
「ウ…………」
「30秒経ちました扉がロックされます! 扉を開ける場合また最初からパスワードを入力してください!」
クチャクチャクチャクチャ
「パスワードを入力してください!」
バキバキボキ
「パスワードを入力してください!」
グチャグチャグチャグチャ
「パスワードを入力してください!」