それぞれ
その後ライン交換をし、天野さんに餌と草だけを見てもらい、それを購入する。
値段は千円ちょっとで、確かに安かった。
「たしかに……これなら払えそうだ」
「そうですよね。あとは、私がすぐにケージを送ります……その、住所とか……」
「ああ、そうだね。それじゃ、送っておくよ」
「……よしっ」
「うん? ガッツポーズしてどうしたの?」
「い、いえ! なんでもないです!」
うーん、最近の女の子はわからん。
それにしても……なんか、どっかで会った気がするんだけど。
「本当にありがとね。お礼にお昼でも食べさせてあげたいけど、今は荷物があるし……」
「お、お昼……魅力的……す、すみません、これから仕事があって」
「あっ、そうなんだ。バイトしてて偉いなぁ」
「少し嫌なこともありますけど、楽しんでやってますから平気です」
「いや、本当に偉いよ。それじゃ、バイト頑張ってね」
「はいっ! あとで連絡します!」
きちんとお辞儀をして、駆け足で去っていく。
きっと忙しいのに、俺に付き合ってくれたのだろう。
「サクラ、良い子だったな?」
「プー!」
「うんうん、また会えると良いな」
しかし、うちの子に癒されたか……。
これは、お金云々ではなくて、そういうことを考えていいかも。
あとは、俺も何かしらのバイトをしないとかなぁ。
そんなことを思いながら、俺は家への道を歩いていくのだった。
◇
……ど、どうしよう? ずっと、ドキドキが止まらない。
「久しぶりに、カズマさんに会えた……!」
走りながらも、嬉しさで身体が熱くなってくる。
この五年間、ずっと探してたから。
「でも、覚えてくれてなかったなぁ……仕方ないけど」
あの時は小学生で、身長も小さくて幼かったし。
あと、今回は変装もしちゃったし。
それでも気づいて欲しかった乙女心です。
「でも……もしも、カズマさんに迷惑がかかったらやだし」
一応、それなりに有名なのでファンの方がいます。
それを裏切るとかはないけど、カズマさんにヘイトが向かうのは嫌かなぁ。
それに最近では、どこで人に見られてるかわからないし。
写真でも取られたら、面倒なことになっちゃう。
「それにしても、相変わらず優しそうだったなぁ」
身長も百七十ちょっとで、体型もすらっとしてた。
決してイケメンってわけじゃないけど、笑うと目がなくなる感じが昔から好きだった。
私が魔物に襲われた時も、あの笑顔で『大丈夫?』って言ってくれた。
「私、にやけてなかったかな? 変な子だと思われてたらどうしよう?」
うさぎさんをダシにして、連絡先を交換しちゃったけど……大丈夫かな?
こいつ、やけにグイグイくるなとか思われてないかな?
……うぅ〜不安だよぉ〜。
「でも、これで次に会う約束もできるし……あっ」
その時、私のスマホが鳴る。
通知には、チームリーダーの名前がある。
きっと、私がこないからかけてきたのだろう。
「はい、もしもし」
『ハルカー! 今どこー?』
「す、すいません! 今、ダンジョンに向かってます!」
『ううん、無事なら良いのよ。貴女が遅刻するなんて珍しいから。それじゃあ、気をつけて来なさい』
「はいっ! 心配かけてごめんなさい!」
『良いのよー、むしろ休んでも良いわよ? 最近の貴女、少し疲れてるし』
「いえ! 行きますっ! やる気に満ちてるんで!」
『そ、そう? それじゃ、待ってるわ』
そこで電話が切れる。
そして私は、タイミングよくきたタクシーに乗り込む。
「そうだ、思い出した」
私は探索者であるカズマさんに憧れて、それで探索者を目指すことにした。
私も人助けをしたり、人に勇気を与えられる存在になりたいって。
それが人気者だとかアイドルと言われ……少し嫌になってた自分がいた。
でも、それでも勇気を貰ってくれる人がいるなら……それでも良いかな。