デート?
そのまま、サクラを撫でつつぼんやりと過ごす。
しかし、ふと気づく……隣に若い女の子がいるということに。
しまった、話してないでぼんやりしてしまった。
「ごめん、退屈だよね」
「えっ? そんなことないです! すっごく楽しいですっ!」
そういい両手を握りしめて、身を寄せてくる。
ふと女性特有の甘い香りがして、年甲斐も無く動揺してしまう。
……十代の子を相手に何をしてんだ、俺は。
「そう? それなら良いけど……」
「プー?」
「ご、ごめんなさい、大きな声出して……でも、こうしてゆっくり過ごすなんて久しぶりなんです。だから、楽しいです」
「そっか……ただ、ここでじっとしててもアレか。この子を飼うなら、色々と準備をしないと」
「はい、餌とかお部屋とか用意しないとですね」
「んじゃ、買い物に行くとするか。それじゃあ、色々とありがとね」
張り紙等を貼らないなら、この子の用事は終わったはず。
これ以上、俺みたいな男に付き合わせるわけにはいかない。
いくら、相手が成人しているとはいえ。
「えっ? あっ、そ、そうなっちゃうんだ……どうしよう?」
「ん? まだ何か用があったのかな?」
「えっと……私、餌とかお部屋探し手伝いたいかなって。カズマさん、そういうのわからないと思うんですっ」
「まあ、確かに。ただ、悪いよ。きっと忙しいだろうし」
「暇なんでやらせてください!」
「わ、わかったよ」
あれ? さっきこんなにゆっくりできるのは久々とか……最近の女の子は分からん。
◇
とにかく助かるのは事実なので、ご好意に甘えさせてもらう。
俺は天野さんに案内されるままに、すぐ近くあるペットショップに入る。
「へぇ、こんなところにあったのか。ここなら、家からも近いし良いな」
「意外と、自分が用がなかったりすると見落としたりしちゃいますよね」
「ああ、そういうのはあるかも。いざ服を買おうと思って遠出したら、意外と近くにあったり」
「ふふ、わかります。それじゃあ、まずはお部屋から見ましょう。確か、こっちにあります」
腕の中でスヤスヤ寝ているサクラを抱きつつ、天野さんについていく。
すると、そこには多種多様なケージが置いてあった。
それこそ、大型犬も入るくらいのやつとか。
「うーん、こいつの成長率がわからないしなぁ」
「フスフス……ピスー」
「ふふ、よく寝てますね。でも、見た目はネザーランドですよ? だから、そこまで大きくならないと思います」
「あっ、そうなんだ? いや、君にきてもらって良かったよ」
「え、えへへ……やった、褒められちゃった。それになんだか……デートみたい」
「ん? どうかした?」
「い、いえ! なんでもないですっ!」
「そう? それにしても……高いな」
大きくならないとはいえ、どのケージも値段は安くはない。
最低でも、きちんとしたやつは一万から二万円はする。
ここから餌代とかって考えると……稼がないといけないか。
「結構しますよね……急に来ちゃいましたけど、カズマさんって手持ちあるんですか?」
「いや、恥ずかしながらあんまりないんだ。うーん、どうしたものか」
「……その、良かったら私の使ってたケージを使いますか?」
「えっ? い、いや、それは流石に……」
「別に使ってないから平気ですよ。そしたら、あとは餌だけで良いですし。実は、うさぎさんって餌代はそんなにしないんです」
……ぐぬぬ、どうする?
いくらヒキニートとはいえ、こんな若い子にたかるのはどうかと思う。
しかし、現時点でお金がないのは事実だ。
……そうなると、あとで借りを返す形にすれば良いか。
「わかった、ありがたく使わせてもらうね。その代わり、何かお礼がしたいんだけど……」
「い、いえ、私にしてもらったことに比べ……あ、あの、何でも良いですか?」
「まあ、俺にできることなら」
「それじゃあ、カズマさんの連絡先を教えてください!」
なんでも言うから身構えていたが……よくわからない願い事を言われた。
でもケージをもらうなら、連絡先は交換しておいた方がいいか。
「えっ? あ、ああ、そんなことなら」
「や、やったぁ!」
「えっと……何がそんなに嬉しいんだい?」
「あっ……い、いえ、その……サクラちゃんのファンになったんです! 見てたらすごく癒されるっていうか……だから、カズマさんと連絡先を交換したらいつでも撫でに行けるかなって……」
「ああ、そういうことね。じゃあ、撫でたくなったらいつでも言って。タイミングさえ合えば、散歩に出かけるし」
「わかりました! 絶対に行きますっ!」
「おいおい、サクラよ。はやくもファンができたみたいだぞ?」
「フスフス……」
俺は寝ているサクラの頭を撫でる。
すると、心がすうっと軽くなる気がした。
多分、天野さんも似たような感じなのかもしれない。