バズる
はっきりいって、俺のフォロワー数は大したことはない。
未だに数百人はいるが、もう五年以上もツイートしてないし。
アクティブユーザーは、ほとんど残っていないだろう。
ただ、何故俺がSNSで動画配信をしたかというと……もしかしたら、あの人が残っていたらワンチャンあると思ったからだ。
「今じゃ人気のあの子が、俺のフォロワーとして残ってるか疑問だけど……あった、未だに相互フォロワーだったのか」
うさぎさんを撫でつつ、自分のフォロワーを確認すると目的の名前を見つけた。
それは昔、俺のファンと言ってくれた女の子だった。
今では、人気探索者として配信活動もしているアイドル的な存在だ。
「ただ単にフォローを外してないだけかもしれないし、反応をしてくれるかはわからないけど」
ただ、もし反応来てくれるなら……彼女のフォロワー数は五百万人を超えている。
それはもう立派なインフルエンサーの一人だ。
なので、拡散でもしてくれたらいいけど。
だが、中々『いいね』や『リツイート』がつかない。
「まあ、流石にそう上手くいかないか。そんなもんだよなぁ……そうなると、地道に張り紙とかを貼るしかないか」
「プー?」
「ごめんね、まだまだ時間はかかりそう……ん?」
その時、物凄い勢いでいいねとリツイートの数が増えていく。
その原因は……間違いなく、あの子だった。
今ではJKアイドル探索者にして、有名配信者のハルカちゃんだった。
「おおっ、まだ俺のことを覚えていてくれたのか……嬉しいな」
大体有名になったりすると、それまで付き合いのあった人を遠ざける人もいる。
しかし、彼女はそういうことはしなかったのだろう……俺とは違い。
俺は有名になっていく人達を見てるのが辛くて、自ら遠ざけて行ったから。
彼女からも、励ましのDMとか貰ってたのに。
「おっ、次々とコメントが来た」
『可愛いうさぎさん!』
『迷子なんですか? 随分と懐いてますけど……』
『めちゃくちゃ小さくて可愛い!』
『飼い主がいたら心配しますよね……』
『でも、文章には迷子かわからないから確認したいって書いてあるな』
『なるほど、自分で飼いたいけど人のだったら悪いってことか』
『へぇー、良い人じゃん』
そんなコメントが溢れかえっていく。
「よしよし、この感じならすぐに拡散してくれるな。もし飼い主がいるなら、すぐにわかりそうだ」
「プー?」
「それでもいなかったら……お前、うちの子になるか?」
「フンスッ」
その顔は『当然ですわ!』とでも言っているかのようだ。
俺に懐いてくれているのか、もしくは前の飼い主のところから逃げ出し……。
「そうか、その可能性もあったか。もしそうなら、逆に守って……ん?」
その時、妙なコメントが目に入る。
『なあ、これってアルミラージに似てない?』
『やっぱり? 黄色というか、どっちかというと黄金色だしね。でも、こんなところにいるわけなくない?』
『確かに、気のせいかも』
『そもそも、いるかもわからない魔物だろ?』
『それもそうか。いや、悪い悪い』
『いるよなー。そうやって水を刺すやつとか』
『いるいる〜今はいい話だってのに』
『ツノもないし、違うに決まってるじゃん』
そんな、何処にでもあるようなコメントが流れていく。
「アルミラージ? なんだそれ?」
気になり、検索してみると……伝説の生き物のことだった。
神話の世界でうさぎの神と呼ばれ、似たような生き物がダンジョン内にいるらしい。
その身は黄金色に輝き、頭には一本のツノが生えているとか。
「……まさかな」
「プー?」
「いや、気にしなくて良いさ……というか、短時間でめちゃくちゃバズってるな」
万超えでリツイートの嵐に、すでにインプレッション数は百万を超える。
この調子だと、夜になる頃にはえらいことなりそうだ。
「このままずっと見てるのもアレか。とりあえず、昼飯にするか」
「フンスッ」
「よし、決まりだ」
俺は立ち上がり、昼ごはんの支度を始めるのだった。
……その裏で、何が起こっているかも知らずに。