天野さんがやってくる
あれから、約二週間が過ぎ……ようやく、俺も生活に慣れてきた。
バイトは火水土の週三日で固定して、何とか頑張っている。
それまでは起きられない日もあったのに、今ではそんなこともない。
「これも、お前のおかげだな?」
「プー?」
「ははっ、本人にはわからないよなぁ」
「フスフス」
座っている俺の脇にきて『そんなことはどうでも良いから撫でなさい』と言われる。
バイト終わりで疲れているが、こうしていると癒される。
「はいはい、わかりましたよ……ん?」
「プー?」
「ああ、すまんすまん。大丈夫、寝てなさい」
「フスフス」
片手でサクラを撫でて、もう片方の手でスマホを操作する。
先程通知が来たので、ラインを確認すると……。
『カズマさん、お久しぶりです。急ですみませんが、明日のご予定は何かありますか? もしよかったら遊びに行っても良いですか?』
「おっ、天野さんからか」
あれから連絡はなかったが、テレビで活躍は見ていた。
確か昨日辺りに、例の新規ダンジョンの低層階を攻略したとか。
そうすれば、魔物達が地上に現れにくくなるから一安心という訳だ。
だからこそ、休みができたって感じかな?
「プー?」
「ああ、天野さんからだよ。この間言ってたろ? 彼女が明日、うちに来たいって言ってるんだけど、良いかな?」
「フスッ」
どうやら『別に構わないわ』と言っているようだ。
「んじゃ、返事をしとくかね……それにしても、お前のファンは多いな?」
「フスッ?」
「いや、youtubeのチャンネル登録者数とTwitterのフォロワー数がえらいことになってるし」
すでにyoutube登録者五万人に、総再生回数二十万超えをしていた。
Twitterも二万フォロワーを超えているし。
いわゆる、中堅クラスというやつだ。
そろそろ、色々な人の目に入ってくるレベルになっている。
「フンスッ」
「あらら、ドヤ顔ですね」
その顔は『当然ねっ!』と言っていた。
本当に、わかりやすい子だこと。
◇
次の日、三時過ぎになるとインターホンが鳴る。
俺が急いで玄関を開けると……そこには眼鏡姿の天野さんがいた。
「こ、こんにちは、カズマさん」
「こんにちは、天野さん」
「……むぅ」
「あの? なんでふくれっ面なのかな?」
「な、なんでもないですっ」
全くわからない……女の子って不思議である。
「……とりあえず、中に入ろっか」
「お、お邪魔します……」
中に入り、部屋の扉を開けると……サクラが飛び出してくる。
「プー!」
「わぁ……! サクラちゃん! こんにちは!」
「フスッ!」
「うぅー……もちもちしてますぅ……幸せ……」
はい、幸せなのは俺ですね。
美少女ともふもふが抱き合ってると、めちゃくちゃ癒されます。
「おっと、見てる場合じゃない」
俺はその間にお茶と茶菓子を用意して、テーブルの上に置く。
「あっ、何もせずにすみません」
「いえいえ、サクラの相手をしてくれてるし」
「フスッ」
「その顔は……私が相手をしてやってるのよ、だな?」
「フンスッ!」
「えへへ、そうですね。私が遊んでもらってます」
そして天野さんが優しく撫でると……すぐに寝始める。
「本当によく寝るよなぁ」
「うさぎさんって、一日のほとんどを寝るって言いますもんね」
「そうらしいね。そういえば、動画がすごいことになってるんだよ。ほら、この数字とか」
「どれですか……わぁ……! すごいですっ!」
パソコン画面を見るために彼女が側に寄ってくると……ふわりと良い香りがする。
それが、ここ数年意識してなかった部分を刺激した。
……いかんいかん、相手は俺を信頼してるからこうしてるんだ。
「いや、天野さんに比べたらあれだけどね」
「いやいや、そんなことないですよ? 私だって、こんなにすぐには増えませんでしたし」
「いや、そもそも天野さんが……あっ、そうだ、いい忘れてたね。拡散してくれてありがとうございました」
すっかり忘れていたけど、天野さんはハルカちゃんなんだよな。
テレビではハキハキとしてて、イメージが大分違うけど。
「ど、どういたしまて……あの時は嬉しかったです。あの時の人が、まだ元気だとわかって」
「その節は心配をかけてごめんね。あの後、色々とメッセージもくれてたのに無視して……」
あの時は責められてるように見えて仕方なかった。
今ならわかるが、この子は善意で心配してくれていたのに。
「いえ、無事だったからいいんです」
「そっか……そういえば、ダンジョン攻略お疲れ様」
「あ、ありがとうございます。その、見てくれました?」
「うん、見てたよ。めちゃくちゃかっこよかった」
「えへへ……嬉しいですっ」
あれからは、割と普通に見ることが出来た。
胸の痛みや頭痛もしないし……サクラのおかげもあるけど、多分この子のおかげだよな。
心配もかけてしまったし、何かお詫びをしたいところだ。
「何かあれば言ってね。俺でよければ協力するからさ」
「……ほんとですか?」
「ああ、もちろん」
「そ、それじゃあ……私とデートしてくださいっ」
そう言われた瞬間、俺の頭がフリーズしたのだった。




