記憶の少女から女の子に
本当に良かった。
今のこの子は、まさしく俺の憧れたヒーローだ。
何者にもなれなかった俺だけど、この子が探索者となるきっかけを作れたんだ。
「ふえっ!? あ、あの……」
「ん? どうかした?」
「い、いえ、その……涙が」
「……本当だ」
どうやら、知らないうちに涙を流していたらしい。
いい歳こいて、何を感傷に浸っているんだか。
「わ、私、何か悪いこと言いましたか?」
「いや、そんなことないよ」
するとタイミングを見計らってたのか、淳さんがラーメンを持ってきてくれた。
目の前には味噌ラーメンが置かれ、その香ばしい香りがお腹を刺激する。
そういや、めちゃくちゃ腹が減ってたな。
「ほらよ、まずは飯を食え」
「ありがとうございます」
「探索者のお二人もどうぞ。うちの看板である味噌ラーメンだ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとさん」
「では、まずは食べますか」
二人も頷いたので、俺は我慢しきれず麺をすする。
空きっ腹に濃厚なスープと絡み合った麺が入り、お腹が幸せに満ちていく。
「相変わらず美味いな……!」
「わぁ……! ここの味噌ラーメン美味しいですっ! 濃いだけで苦手なお店もあるんですけど……」
「そうだね、ここのラーメンはシメに食べるんだよ。それでも胃もたれがしないからいいね」
その理由は知ってる。
普通なら味噌ラーメンのスープに使う出汁は、煮干し系や鳥の骨、その他の調味料を使う。
しかしここのスープは、本来なら家系に使う豚骨と鶏ガラ系を使っているからだ。
いうなら、家系味噌ラーメンってところか。
そして、ひたすら食べ進め……ほぼ同時に食べ終わる。
「はぁー美味かった」
「とっても美味しかったですっ」
「相変わらず美味いねー……んで、これからどうするんだい?」
「「えっ??」」
俺と天野さんの声が重なり、水無月さんに視線が向く。
「いや、お互いの正体つーか、アレがわかったんだろ?」
「えっと……どうしよう?」
「どうしましょう?」
「……どうやら似た者同士らしいや。はぁ、仕方ない、こういうのは柄じゃないんだけど。とりあえず、あんたに聞きたい」
急に雰囲気が変わり、その目は真剣みを帯びる。
「はい、何でしょうか?」
「この子が探索者ハルカと知って、アンタはどうするつもりだい? 世間にこの子のヒーローとして扱ってもらって、チヤホヤされたいのか……もしくは、この子との関係を秘密にしとくか終わらせるとか」
「……今更、そんな気持ちはないですね。助けたのは事実であっても、そこからの努力は彼女の力ですから。関係は秘密の方がいいでしょうね、彼女のファンも多いですし。これからの関係については……彼女さえ良ければ、普通の友人としてお付き合いできたらなと。うちのサクラも懐いていますし」
水無月さんは俺の目をじっと見つめ……やがて視線をそらす。
「ふーん……だそうだよ、ハルカ。 私の目から見ても、こいつは平気そうだね」
「むぅ……」
「ちょっと、何を不満そうな……ははーん、そういうことだね。膨れっ面しちゃって、可愛いところあんねー」
「も、もう! ほっぺをつつかないでくださいっ!」
「良いじゃん、まだまだこれからなんだし」
……なんの話だ? 女の子の会話についていけない。
そもそも、女性と話すことも得意ではないし。
……不思議と、天野さんは平気だったな。
もしかしたら、あの女の子だったからかもしれない。
「そ、そうですねっ……! カズマさん、こんな私ですけど……また、遊びに行っても良いですか? できるだけ、ご迷惑をかけないようにしますから……」
「ああ、もちろん。いつでも構わないから連絡してね。サクラも喜ぶよ」
「っ〜! はいっ! えへへ……」
すると、彼女が花が咲いたように微笑む。
不覚にも、その笑顔にドキッとしてしまうのだった。




