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昔の記憶

その子を見ていると、封印していた記憶の蓋が開きそうになる。


あれはいつだっただろうか?


俺が一流の探索者を夢見て、何も考えずに突っ走っていた頃か。


いや、自覚はないけど……今思えば、あの頃から気づいていたのかもしれない。


ただ、それを自分が認めるのが嫌だっただけ。


自分が何者でもない、ただの人だったということに。


それを思い出した時……記憶の蓋が開いた。




……ここがダンジョン出現予測地付近か。

だだっ広い自然公園の中、俺は指定された地域の範囲で、それらしきものを探していく。


「ったく、この公園広すぎだろ。探すにしたって一苦労だ」


政府から緊急の知らせがあり、この辺りに磁場の歪みを発見したと。

ただ、正確な位置はわからないので、近くにいる探索者達に指令が出た。


「まあ、だから俺みたいな下っ端にも仕事が回ってきたって訳だけど」


本来なら、ダンジョン発見探索は危険度が高いのでC級以上でないといけない。

上からS,A,B,C.D,E,F,G,Hのランクで、俺はF級だ。

だから発見だけしたら、すぐに逃げろと言われていた。


「ダンジョンが出現するとき、下層域の魔物が溢れるって話だったな。まずはそれを倒して押し留め、ダンジョンの内部に閉じ込める。それから、ダンジョン攻略をすると……」


緊張を誤魔化すために、最初の頃に聞いた探索者の心得を思い出す。

そうしないと、足が震えそうになる。

今にも、何処からか大量の魔物が襲ってくるのではないかと。


「いや……やれる……やるんだ。俺だって、誰かを助けたり勇気を与えられる人に」


俺には何か特別なことがあった訳じゃない。

病気の妹もいないし、両親が死んだわけでもないし、お金に困ってるわけでもない。

ただ、単純に馬鹿みたいにヒーローに憧れただけ。

馬鹿にされることもあったけど、それは辛くはなかった。

ただ、それを成す力と勇気がないことが辛かった。


「……いや、まずは一歩ずつだ。ここで手柄を立てて、それでスポンサーについてもらえばいい。そしたら強い武器とか、支援金なんかももらえるはず」


そんなことを考えていると、ふと誰かの声がした気がする。


「……どこだ? この辺りは避難指示が出ているから、誰もいないはずなんだが。同業者だとしたら、地区担当区域から出てきてるってことになる」


ひとまず、ダンジョンに関係があるかもしれないので向かうことにする。

一応、無線で本部にも通達はした。

そして、声のする方へ行くと……そこには泣いている小さな女の子がいた。

俺は怖がらせないように、ゆっくりと近づく。


「ひぐっ……あぁぁ!」


「ど、どうかした? 怪我をしたのかな?」


「はぇ? だ、誰?」


「ああ、ごめんね。俺の名前は吉野和馬っていうんだ。もしよければ、君の名前を教えてくれるかな?」


辺りにダンジョンらしきモノはないので、ひとまずは安心だが油断はできない。

今のうちに、この子を安全な場所に連れて行かないと。


「は、春香です」


「春香ちゃんだね、教えてくれてありがとう」


「う、ううん……」


「あのさ、ここは危険なんだ。だから、お兄さんと安全な場所に行こう?」


「そ、そんなのないもん! お母さんとお父さんは喧嘩ばかりしてる! 私は何処にも居場所なんかない!」


なるほど、詳しくはわからないが……ひとまず、家庭内暴力の類ではなさそうだ。

ただ、子供にとっては笑い事ではないだろう。

俺も小さい頃、両親が喧嘩をしているとどうして良いかわからなかったし。


「そっか、それはしんどいね」


「……うん……なんかお金がないとか、治療費がどうとか……よくわかんない」


「うんうん、そうだよなぁ。きちんと説明をしてほしいよね」


「……お兄さんは、子供だからって馬鹿にしないの? そんなことは知らなくて良いって」


「別に関係ないかな。相手が真摯に聞いてきたら、それに向き合うのが良いに決まってる。少なくとも、俺はそうでありたいかな」


子供だって、子供なりに考えているんだから。

それを否定されるのは辛い……俺がそうだったように。


「えへへ、お兄さん優しい」


「そうかな? さあ、とりあえずここから出よう」


「……うんっ」


そう言い、笑顔を見せる。

俺は一安心して、その子を連れて行こうとした時……異変は起きた。

あたりに強風が吹き、ぐにゃりと周りの空間が歪む。

それは……ダンジョン出現の合図に違いなかった。


「きゃ!?」


「しっかり掴まってて!」


そして、次の瞬間……奴らが現れた。

下級魔物の一種である、スカルポーンの集団だ。

人間の骨が、剣を持って動いている。


「カタカタカタ」


「ケタケタケタ!」


「ひぃ!?」


「へ、平気だ。お兄さんがついてる」


「う、うんっ……!」


女の子が、俺の腰回りに強くしがみつく。

その小さな身体は、小刻みに震えていた。

それが、俺の臆病な心に火を付ける。


「……やるしかないか。良い子だから、俺の後ろにいてね?」


「お、お兄さんはどうするの?」


「戦うよ、君を守るために。それが——俺の目指したヒーロー(探索者)だから」










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