うさぎさんを拾う
植え込みに転がるように飛び込んだ俺は、改めてその生き物を確認する。
暗闇でよく見えないが、ふわふわした触り心地がして気持ちいい。
「大丈夫か? 生きてるか?」
「プー」
「……よかった、生きてたか。それにしても可愛らしい鳴き声だったな」
「プスー」
ひとまず、明るいところに行き、その姿を確かめる。
すると、その生き物は……黄金色の可愛いうさぎさんだった。
その大きさは両手に乗るサイズと小さく、まだ幼体に違いない。
「お前、母親からはぐれちゃったのか? 流石に、ペットショップから逃げ出すことはないし……もしくは迷子かな? まさか、誰かが捨てたとか?」
「プー」
すると丸いお目目をくりっとして、俺に視線を向ける。
その姿に、俺の胸がときめく……可愛い。
えっ? うさぎって、こんなに可愛いの?
今まで間近で接したり、見たりしてこなかったけど。
「まあ……とりあえず、うちで保護するか」
誰か探しているなら、後日この辺りで張り紙とかあるだろう。
そうじゃなかったら……どうするかね?
◇
二階建てのアパートに着いた俺は、こっそりと部屋へと戻る。
なるべく、他の住民にはバレたくないからだ。
一応、ペットは禁止になってるし。
もちろん、ハムスターくらいなら良いとは言ってたけど。
「ただ、うさぎはわからないし……それに、まだ飼うと決まった訳じゃないし」
「プー?」
「うっ、そんな可愛い瞳で見ないでくれ……」
「フスフス」
「ぐぉぉぉ……」
俺の体の匂いを嗅いで、何やらフスフス言ってる!
何これ!? めちゃくちゃ可愛いんですけど!?
「と、とりあえず、まずは洗うか」
風呂場に行き、シャワーで全体を洗い流していく。
「あれ? そういや、洗って良いのか?」
「フスー」
その様子は気持ち良さそうで、嫌がっている感じには見えない。
だが、流石に洗剤系を使うのはやめておこう。
洗い終えたら、洗面台の横のスペースに置いてタオルで拭く。
「よく拭いて……ドライヤーして。どうだ? 熱くないか?」
「プー」
ブォーという音と共に、よく乾かしてやる。
相当賢いのか気持ちいいのかわからないが、大人しくされるがままになっていた。
「よし、乾いたな」
「フスッ」
「このまま、ここで待てるか?」
「フンスッ」
少し元気が出たのか、その顔は得意げな表情に見える。
そんなはずはないが『ふんっ、当たり前じゃない』とでも言っているかのようだ。
うさぎには声帯がないから、確か鼻を鳴らして意思表示をするとか。
「良い子だ。それじゃあ、お前の寝床を用意しないと」
部屋に戻った俺は、ひとまずダンボールの中に毛布を入れる。
一緒に皿に入れた水を入れ、常温で置いてある人参を用意しておく。
用意を終えたので、うさぎを抱っこして、そのダンボールの中に入れる。
「フンフン……」
「おっ、お部屋確認か?」
顔を段ボールにスリスリして、しきりに辺りを見回している。
そういや、うさぎは縄張り意識が強いとか聞いたことあったな。
なるべく、多頭飼いをしないほうがいいとか。
すると、満足したのかこちらに顔を向けてくる。
「フンスッ」
「おっ、気に入ったかな? さて、ご飯は食べれるか?」
ダンボールの中に、直接人参を持った手を入れると……食べ始めた。
「シャクシャク……シャクシャクシャク!」
「おおっ、勢いがいいな。よしよし、食べられるなら良かった」
それにしても食べている姿も可愛い。
何か、心が洗われるようだ。
そのまま眺めていると、あっという間に1本分の人参を食べきる。
「足りたかな?」
「フンスッ!」
「足りたみたいだな……ふぁ……安心したら眠くなってきたな。まだ夜の十時半だが、ひとまず寝ることにするか」
俺はダンボールの上に、少しだけ隙間を開けて毛布をかぶせる。
確か水は警戒心があると飲まないと聞いたことあるし、彼らは暗い方が落ち着くらしい。
部屋の電気を消し、俺も布団の中に入る。
すると、いつもと違い……すぐに気持ちいい眠気がやってくる……。