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少しずつ前に

 天野さんを見送った後、サクラのお部屋を掃除して、一緒に遊ぶ。


 四時間は働くから、寂しがらないように。


 そして、いよいよバイトの時間が迫ってくる。


 すると、情けないことに俺の心臓がばくばくと鼓動を早めていく。


 人前で仕事ができるだろうか? 失敗をしないだろうか?


 頭の中を色々なことがフラッシュバックする。


「へ、平気だ。あそこは、元々バイトをしてたし……きちんとやれる、きっとやれる」


「フスッ」


 すると、座ってる俺の横にサクラが寄り添う。

 もしかしたら、心配してくれているのかもしれない。

 ……情けないことを言ってる場合じゃないな。

 そろそろ貯金も危ないし、しっかり稼がないと。


「サクラ、お父さんはバイトに行ってくるから良い子でな?」


「プー?」


「まあ、言ってもわからないよなぁ。とりあえず、お前の餌代くらいは頑張って稼ぐさ」


「フンスッ!」


 俺の膝に手を置いて『うむ、頑張りたまえ』とでも言いたげだ。

 なんと生意気で可愛い子だろうか。


「このっ!」


「グー」


 両手でほっぺをグリグリしてやると、うっとりした表情になる。

 同時に、俺の心も軽くなってきた。

 さっきまでの恐怖が、まるで嘘みたいに。


「よし、気合い入ったし行くか」


「プー!」


「ありがとな。それじゃあ、行ってくる」


 最後に頭を撫でたら、家から出てバイト先に向かう。

 自転車をこいで、十分かけて到着する。

 そして、懐かしい裏口の扉から中に入ると……。


「おはようございます……」


「おっ、来たか。おはよう、カズマ」


「あら、きたのね」


 そこには、店長になった淳さんと、その奥さんになったあかりさんがいた。


「改めて、よろしくお願いします」


「おいおい、そんなにかしこまんなって。仕事内容は変わらないから、気楽にやってくれ」


「まあ、確かに一から教えるよりは楽ね。それじゃあ、まずはこれに着替えてお客さんが来る前に軽く研修するよ」


「はいっ」


 その後は懐かしの制服に袖を通し、あかりさんの指導の元、かつて親しんだ作業を行う。

 皿洗いからオーダー取り、片付けや席案内の仕方。

 幸い特には変わっていなかったので、それ自体は問題なさそうだ。

 あとは……俺のメンタルが保てば。

 ただ、不思議と怖くはなかった……少し前まであんなにダメだったのに。

 これも、サクラのおかげだろうか?



 ◇



 十七時からお客さんがやってきて、本格的にバイトが始まる。


 俺は注文にどもりながらも、何とか与えられた仕事をこなしていく。


 自分が鬱だと考える時間もないほど、忙しく時間が過ぎていった。


 そして、あっという間に二十二時を過ぎピークが終わる。


「つ、つかれたぁ」


「おいおい、これくらいで疲れちゃいかんな」


「す、すいません」


「冗談だよ、初日にしてはよく頑張ったな。最近は、平日は三人で回す感じでやってる。だから、気心知れてるお前だとこっちも助かるよ」


「ほんとだね。これなら、少しやれば勘を取り戻すでしょ。人件費の問題とかあって、中々増やせないからさぁ」


 この店はカウンター席が四つ、二人席が二つ、四人席が三つの計二十人で満席となる。

 店自体もそこまで広くはないので、平日は三人でもどうにかなるらしい。

 といっても、結構ギリギリだけど。

 注文から片付け、洗い物や会計などをやらないといけないし。


「はは、そう言ってくれると助かります。とりあえず、やれるだけやってみますね」


「ああ、無理はしなくていい。ひとまず、やれそうで一安心だ」


「そうね。そういや、週に三回は出れるのかい?」


「はい、まずはそれくらいでお願いします」


 情けない話だが、いきなり週四とか五は無理である。

 こちとら、それなりにヒキニート歴があるから。

 ここで無理をして、逆戻りになる方が困るし。


「はいよ。それじゃあ、今日はここまで……あら、お客さんだね」


「そうみたいだな。じゃあ、これが最後の仕事だ」


「了解です」


 椅子から立ち上がり、もう一踏ん張りする。


 そして、ガラガラと店の扉が開くと……。


 そこには、《《テレビで見たことある女の子が立っていた》》。


正確には、数年前に俺が助けたことある女の子が。








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