面接
動画を編集する作業は意外と大変である。
これが俺が収益化する人を否定しない理由だ。
正直言って、初めは動画を撮るだけで儲けるとか楽な仕事だなとか思っていた。
そんなことは、始めた瞬間からなくなったけど。
何より、根性がいる……なにせ、一生懸命に作っても人が見にきてくれるとは限らないのだから。
「ふぅ……ひとまず、ここまで出来たな。残りは帰ってきてからやろう。おっと、もういかないとか」
「プー?」
俺の膝の上で昼寝をしていたサクラが、俺を見上げて『どうしたのー?』と言っている。
実に優秀な編集アシスタントで、俺は同じ姿勢でかれこれ二時間ぶっ通しの作業である。
多分、立ち上がるのに一苦労するだろう。
「あのぅ、お嬢さん。お父さんは、お出かけをしなくてはいけないのです」
「フンスッ」
まるで『仕方ないわね!』という表情をし、ダンボールの部屋に戻っていく。
「サクラ、ありがとな。さて、良い子にしててな」
「プー」
俺は着替えを済ませ、懐かしの場所に向かうのだった。
◇
アパートから自転車をこいで、約十分の目的地に着く。
そこは他県を中心にチェーン展開しているラーメン屋さんで、ここ十年くらいで店舗を増やしている店だ。
古風な雰囲気で、俺の知る当時のままで安心感がある。
「……緊張するな。なにせ、辞めて以来顔を出していないし」
「ちょっと? お客さん、店の掃除をしたいんですけど……」
「あっ、すみません。すぐ中に入りますので」
「あれ? ……カズマかい?」
その声に振り返ると、そこには懐かしの顔がある。
当時パートのお姉さんだった、白石あかりさんだ。
見た目はヤンキーっぽい人だが、姉御肌で面倒見が良い人だ。
当然、俺もお世話になっていた。
「あかりさん、お久しぶりです」
「なんだい、久々に顔を出したと思ったら……もしかして、面接の子かい?」
「はは、お恥ずかしながら」
「あいつ、私にも言わないで黙ってやがったな?」
「あっ、別に悪気はあって……もう遅いか」
店の中に入ったあかりさんの怒鳴り声と、懐かしい淳さんの悲鳴が聞こえる。
この二人は昔から仲が良く、いつもそんな感じだった。
確か、俺が辞める前辺りから付き合っていたから……上手くいってるのかな?
「おっと、ぼけっとしてる場合じゃない。淳さんを助けないと」
そう思った俺は、急いで店の中に入る。
幸い、緊張感は何処かに飛んでいた……あかりさんに感謝だね。
「おっ、きたか。カズマ、久しぶりだな」
「淳さん、ご無沙汰してます。今回は、急に連絡してすみません」
「良いって。んじゃ、面接をするか」
「そんなん必要ないじゃない。カズマは元従業員なんだよ? しかも、私が育てたし」
「んなこたわかってるよ。ただな、建前というものが……」
「かぁー、小さい男だね。それでも店長になった男かい」
「いや、だからこそだし。ええい! 話が進まんからどっか行ってろ!」
「わかりましたー、それでは失礼しますね」
そんな漫才みたいなやりとりも懐かしい。
これが、この店の日常的な風景だった。
なんやかんやあり、ひとまず面接を受ける。
「ったく、あいつめ」
「はは、相変わらず仲が良さそうですね」
「……いや、まあな」
その表情は、なにやら複雑そうだ。
「どうしたんですか?」
「いや、実は……あいつと結婚してんだよ」
「……あっ! お、おめでとうございます! それに、店長になられたとか」
「ありがとよ。ああ、やりたくなかったが、俺以外に適任がいなくてな。結婚もして子供も生まれたから、覚悟して骨を埋めようかと」
「お子さんまで……本当におめでとうございます」
……そりゃ、五年も経てば色々と変化があるのは当然だ。
それに比べて、俺は何をやっているんだか。
「まあ、それは置いといて……急にどうした? 今は無職とか言ってたが。確か、探索者になるとか言ってたよな?」
「ええ、そうですね……お恥ずかしい話ですが、夢を諦めることになりまして。色々と事情があったけど、結局は自分のせいです。そのあとは、社会人になって……色々あって、辞めてしまいました……すいません、こんな状態で頼ってしまって」
すると、突然脳天に衝撃が走る!
「イテッ!? な、なんだ?」
「ばかやろー! なんでもっとはやくいわねぇ! それならうちにくれば良かったじゃねえか!」
ふと顔を上げると、顔を歪ませた淳さんがいた。
どうやら、げんこつを食らったらしい。
そうだ、人情味あふれる人だった……きっと、本気で俺を心配したに違いない。
そのありがたさに、思わず涙が出そうになる。
「で、ですが、ご迷惑になるかなって……あの時だって、淳さんはバイトをしながらでも出来るだろって提案してくれたのに」
「んなんもん、覚えてない。ったく、連絡先も変わってるから連絡もつかねえし」
「す、すいません……あの時は全ての繋がりを消したかったんです」
「……まあ、良い。んで、働く意思はあると?」
「は、はいっ!」
「んじゃ、決まりだ。無職なら、明日からこられるな? ビシバシ叩き直してやるから覚悟しろ」
そういい、言葉とは違い、優しく俺の肩に触れる。
「っ〜! よろしくお願いします……!」
俺は涙腺が緩むのをこらえて、そう返事をするのだった。




