独白
家に帰った俺は、自分のお昼の前にサクラの分を用意することにした。
新しく買ったぽりぽりタイプの餌と、チモシーという草を皿に入れる。
「ほら、サクラ。食べられるかな?」
「スンスン……フスフス……ぽりぽり……フスッ」
最初はおっかなびっくりしていたが、一度食べると勢いよく食べ進めた。
うさぎさんは個体によって好みがあると聞いていたが、これでひと安心である。
「あとはペットシーツを敷いてと……そういや、この子は賢いよなぁ」
何も言っていないが、置いた新聞紙の上でうんちやおしっこもしてくれたし。
俺の言葉にも反応するし、まだ幼いのに中々である。
「プー?」
「ごめんごめん、気にしないで食べてな」
「フスッ」
ペットシーツを置いたら、今度は自分の飯にする。
といってもただのカップラーメンだが。
お金がないので、節約生活である。
「ズズ〜……さて、どうしたもんか」
稼ぐにはアルバイトや正社員になる必要がある。
だがしかし、今の俺の状態では厳しい。
なにせ一年のブランクがあるし。
そんな中、テレビを流し見していると、とある女の子が映る。
「おっ、ハルカちゃんだ……いやはや、立派になって」
そこにはダンジョンにて、薙刀を振り回して魔物を退治している彼女がいた。
巫女さんの格好に長い黒髪をポニーテールして、鮮やかに立ち回っている。
その姿は、見るものを魅了する。
「探索者にして配信者か……相変わらず、アイドルみたいな人気だな」
今やダンジョンは、人々の生活に欠かせないものになっている。
昭和後期、世界中で経済が崩壊しそうになった時、ダンジョンは現れたとか。
そこから魔物が溢れ、さらに混乱に拍車はかかったが……。
不幸中の幸い、そのおかげで世界が一時的に協力体制になった。
「それにダンジョンには、未知の食材や水に石油なんかもあったとか」
それにより人々は飢えを凌ぐことができ、戦争も回避されたとか。
まあ、今ではその資源の取り合いで揉めてるんだけど。
それでも、問題になるのはまだまだ先らしい。
「そして、探索者が生まれたんだよなぁ。」
銃も大砲も効かない魔物を直接攻撃で倒した時、身体に力がみなぎったと。
そして、次々と倒していくと更に強くなっていったとか。
しかしそれはダンジョン内、または魔物相手だけに発揮される力だ。
人に対しては使えないし、ダンジョン外で使うには条件がある。
なので最強の探索者も、普段はただの一般人だったりする。
「それから時は過ぎて、今ではみんなの憧れ職業か」
どんな人でも一躍有名になれるし、一攫千金のチャンスもある。
政府が人を雇って頼んだり、自ら望んで足を踏み入れた者もいる。
人それぞれ、色々な理由があって探索者になったのだろう。
「そこから派生して、今では配信者か……」
人は慣れる生き物だ。
今ではダンジョンが日常化して、その危険性や魔物とかに甘くなってくる。
それを危惧した政府が、配信という形で全世界に公開することにした。
同時に高位探索者には報酬も払い、配信者達も投げ銭などで稼ぐ時代だ。
年齢や性別問わず、誰でもできるのは良い点だろう。
「……俺も、あの中にいたんだよな」
五年前までは、俺も探索者兼配信者としてやっていた。
しかし強さの限界を迎え、夢半ばで諦めてしまった。
無論、両親の介護をしなければならないという理由もあったが。
ただ、それは言い訳に過ぎない。
俺は結局、周りの人達が結果を残していくのを見るのが辛かった。
それ以来、探索者や配信者関係の映像は見られなくなったっけ。
「そういえば、今は普通に見られてるな……なんでだ? 今までは、すぐに消したりチャンネルを変えたりしてたのに」
今もテレビでは活躍してるシーンが流れているが、俺の心は穏やかだった。
もちろん羨ましいとか、なんで自分はとか思ったりはする。
ただ、今までよりはマシになっていた。
「プー!」
「おっ、食べ終わったか」
「フスフス……プスー」
とたとたとやってきて、ソファーに座っていた俺の膝に乗る。
そして、すぐに目を瞑って寝てしまった。
「……もしかしたら、サクラのおかげかもな」
この子がいると、何やら安らぎを感じる。
それが、俺の心を穏やかにしてくれたのかもしれない。
「そういえば、配信を見てた人達も癒されたとか言ってたな」
無理もないことで、今の世の中はストレス社会だ。
格差はあるし、どうしたって変えられない状況はある。
そんな中、癒しの動画とかは需要がある。
「……サクラの配信チャンネルでも作るか」
そうしたら、それを見て癒されてくれる人がいるかもしれない。
もしかしたら、俺みたいに苦しんでる人を助けることも。
「俺は元々、誰かに勇気を与えたくて探索者になった。こんな自分でも、やればできるんだって」
俺自身の力ではないけど、サクラに協力してもらったら出来るかもしれない。
「それにハルカちゃん、頑張っていたな……今のあの子が、俺を見たらなんて言うかな? 結局、連絡とかは来なかったけど」
……よし、情けないこと言ってないで行動を開始しよう。
そんなことを決心しつつ、俺はサクラの頭を撫で続けるのだった。




