始まり
俺が何をしたというのだろう?
真面目にコツコツと生きてきて、頑張って何とか就職したのに……。
無能な上司のミスを押し付けられ、そこから首に追い込まれ……終いには彼女にも振られた。
結果的にうつ病を発生し、貯金を食いつぶして生きる日々。
頑張って何とかしようと思うが、身体がどうにも動かない。
こんな俺に生きる価値などあるというのだろうか?
「……いや、ないのかもしれない。俺は役立たずだ、何をしても上手くいかないんだ」
気がつくと、俺は車が走る道路脇に立っていた。
次々と車が通り過ぎ、夜のライトが俺の目を焼いていく。
「……ここに飛び込んだら死ねるかな? はは、転生とかできたりして……」
そんな思考になった俺を、ギリギリのところで理性が止めに入る。
「……いやいや、こんなことしたら田舎にいる両親に迷惑がかかる」
ただでさえ、俺は心配をかけてばかりだし。
うちの両親も、それどころではないし。
「はぁ……今日はやめとこう」
どうやら、俺には死ぬ勇気もないらしい。
こうやって、きては止めるを繰り返している。
「まあ、そんな勇気があったら今頃ダンジョンにでも入ってるか」
この世界にはダンジョンというモノがあり、それはすでに共通認識されている。
三十年くらい前に突如現れ、世界を混乱に陥れたとか。
なにせ、全世界で戦争が一時的になくなったくらいらしい。
ただ魔物は基本的にダンジョン内から出てこられないことがわかってから落ち着いたとか。
「俺が二十六歳だから、生まれる前からあるんだよなぁ……小さい頃は自分も探索者になれるとか思っていたっけ」
探索者……それは少年少女なら誰でも一度は憧れる職業だ。
魔物を倒したことで得る特殊な力によって、人外の存在となることができる。
危険な魔物退治をして、人々を救う。
それはまさしくヒーローであり、子供心をくすぐる要素が詰まっていた。
「まあ、俺には才能がなかったから無理だったんだけど……」
誰もが探索者になれる訳ではなく、それにも結局は才能が必要だった。
魔物を倒した時に、その力の一部を吸収するらしい。
そしてどんどんと倒していき、強くなっていく。
しかし、その限界値は人によって決まっており……結局、才能がモノを言う。
「昔は配信してるのを見てたけど……今は見る気がしないな」
眩しく活躍してる彼らをみていると、自分が如何に惨めな存在かと再確認できてしまう。
「……とりあえず、帰るか……ん?」
その時、暗闇の中で俺の視界に何かが入ってくる。
そして、それは道路の真ん中で倒れ込んでしまう。
多分、小動物かなんかだと思う。
「お、おい? あのままだと轢かれてしまう」
すると、遠くからトラックの音が聞こえてくる。
「ど、どうする? いや、助けないと……!」
その瞬間、気がついたら俺は走り出していた。
そして間一髪のところで、トラックが来る前に生き物を救出する!
「あぶねーぞ! ばかやろー!」
「す、すみません!!」
トラックの運転手には怒鳴られたが、俺の心は少し晴れやかになっていた。
こんな俺でも、小さな命を救うことができたのだと。