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61 卒業パーティ

 今日のドレスは紫と黒。オスカー様と色を合わせた。

 これは「紫の姫と黒の騎士」のお芝居の、ラストシーンのドレスと色が同じだ。叔父様が用意してくれたのだけど、実は母がデザインしたものだった。


 私はオスカー様にもらった黒ダイアのイヤリングと、紫の宝石のついたペンダントをつけた。そして髪には聖の魔石で作った髪飾りを飾った。オスカー様には聖の魔石の腕輪をプレゼントとした。これで守りは完璧だ。




「レティシアちゃん! すごく綺麗!」


「オスカー様とお似合いよ」


 会場に行く途中で、ルビアナちゃんとアニータちゃんに会った。二人ともパートナーの男性連れだ。ルビアナちゃんのパートナーは、王太子の学友だったロレンスだ。今では、側近候補は辞退して、ベアトリス様の派閥に入ったそうだ。私は二人に挨拶してから、オスカー様を見上げた。

 オスカー様は、にっこりと微笑み返してくれる。


「そろそろ会場に行こうか。準備はいい?」


「いいわよ」


 ほとんど通っていない学校には、特に思い入れはないのだけど、友達との別れは少し寂しい。ルビアナちゃんとアニータちゃんに、卒業しても手紙を続けたいと告げてから、オスカー様と一緒に会場に向かう。


「レティシア様。ごきげんよう」


 ベアトリス様がすっと寄って来た。後ろには派閥の生徒たちをぞろぞろ引き連れている。


 私達は、大人数で攻め入るように会場に入った。



「まあ、いやね。婚約者以外にエスコートされるなんて、身持ちが悪い女ね」


 相変わらずのスカラが、さっそく絡んでくる。大きな胸を王太子に押し付けるようにしてくっついている。王太子は私とオスカー様を見て、不快気に鼻を鳴らした。


「今日は私達の卒業を祝いに、帝国の皇妃が来てるんですって。未来の国王と王妃になるビクトル様と私に期待してるのね」


 スカラは、ずいぶんとおめでたい発言をした。

 本当に、この二人は頭大丈夫? 卒業試験には受かったのかな?


 オスカー様が、私を安心させるように手をぎゅっと握った。私は彼を見上げて微笑んだ。私たちは見つめ合った。


「! おまえ! 不敬だぞ! 元男爵令嬢と伯爵家ごときが!」


 無視されたと思ったのか、王太子に怒鳴られた。


「おまえは、紫の目の子を産むためだけに、王宮に監禁されるんだ。俺とスカラが愛し合う隣で、おまえはただ、子を産む家畜のように、首に縄をつけて俺に飼われるんだ!」


 悪辣でおぞましい王太子の言葉に、学生達は顔色を変えた。


 なんて、気持ち悪いことを……。


「おやめください。ビクトル様。この国では妻以外の女性を持つことを禁じられてます。王子が聖女リシアと結婚する時に、精霊王に誓われたのです。一夫一妻制を守り、決して浮気はしないと」


 ベアトリス様が、王太子の発言をいさめた。


「はっ、妻は1人だ。スカラだけだ。その女は子を産む道具にするのだ。妾や愛人ですらないのだから、誓いを破ることにはならない!」


「果たしてそうでしょうか?」


 保護者席から移動して来た伯父様が、私の横に立って王太子に対峙した。


「聖女リシアは王族の浮気を禁じました。聖女リシアの誓いを守った王族だけが、光の精霊王の加護を受けられるそうです。不貞行為は誓約の不履行にあたります。王族でありながら、王太子殿下が紫眼を持たないのは、誓約を破ったからではないと?」


 伯父様は眼の前の王太子ではなく、王族席の国王と王妃を見た。


「おまえ、宰相! よくも!」


 眼の色について触れられ、かっとなった王太子は、近くにあるワイングラスを伯父様に投げつけようとした。でも、その手は途中でつかまれて、こぼれたワインが、王太子とくっついていたスカラにかかる。


「きゃあ!」


 スカラはドレスを見て悲鳴を上げて、王太子の腕をつかむ父様をにらみつけた。


「無礼者! だれか、そいつをとらえて!」


 王太子の護衛騎士が動こうとするも、父様が威圧をかけたため、床に崩れ落ちた。


「ビクトル!」


 王妃があわてて王族席から降りてきた。


「ビクトルに何をするのです。控えなさい。ゴールドウィン」


「お母様!」


 父様につかまれた腕を振りほどき、王太子は王妃の方に逃げた。



「陛下! これがあなたが望んだ国ですか? 王族が臣下を虐げ、誓約を平気で破る。そんな国を、聖女リシアに子孫として誇れますか?!」


 伯父様が声を張り上げて、国王に向かって言った。王族席から、国王は伯父様を見下ろした。


「ハロルドも私に背くのか」


「当たり前です。姪を子を産む道具にするなどと言われて、黙っていられるわけがないでしょう」


「それが貴族の務めだ。王族だけが予言の王女を誕生させるために犠牲を払っている。貴族も同じ犠牲が必要だ」


「犠牲? あなたがそれを言いますか? 真実の愛を選んだではないですか」


「うるさい! 私は初めから、妻にするのはフローラだと決めていた。だが、父がそれを許さなかった。紫眼だけが取り柄のあの女と、無理やり結婚させたのだ。だから、それを正しただけだ。好きな女と結婚することの、何が悪い?!」


「問題は、陛下が不貞行為を犯したことですよ」


 伯父様がそう言った時、大広間の扉が開いて、大臣が大声で来賓の入場を告げた。


「バーレン帝国皇帝陛下、皇妃殿下のご入場です」


 え? 皇妃だけでなく、皇帝まで来てるの?! 


 たかが学生の卒業式に来るなんて、おかしいでしょう?

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