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60 母と娘

 2年生の終わり。学校の卒業式を来週に控えて、私達は久しぶりに王都に向った。

 公爵家では伯父様が私とオスカー様を歓迎してくれた。

 今日はオスカー様は王都の辺境伯の館ではなく、公爵家で泊まる。卒業式に出席するために一緒に来た彼の両親とともに、伯父様と話があるそうだ。


 そして、伯父様も私に重要な話をした。帝国の皇妃が卒業パーティに来賓として出席するそうだ。その皇妃が私に会いたがっていると。


 帝国ではつい最近、皇帝が退き、皇太子が即位した。新しい皇妃は、この国に「紫の姫と黒の騎士」の芝居を広めた女性だ。


「会いたくないのなら、無理にとは言わない。ただ、彼女は、ずっと、君のことを想っていたんだよ。君が生まれた後、君を守るために、帝国に行った。安全な居場所を作るためだ。君が王国では暮らしにくいだろうと予想して。でも、いつも誕生日には銀行に入金があっただろう。あれは彼女からだよ」


 ああ、そんな話を聞いたら、会わないわけにはいかない。どんな人なのだろうかと、いつも思っていた。初めは、堕胎薬を飲んだと信じていたから、会いたくなかったけれど。今では、そんなことはないと知っている。

 第三皇子のハーレムの一員から皇妃にまでなった、強くてしたたかな女性。

 私は彼女に会ってみたいと伯父様に告げた。





「はじめまして。お母様」


 卒業式の前日、転移陣で公爵家にやってきた帝国の皇妃に、私はカーテシーで正式な挨拶をした。


「ふふ、おおきくなったわね。初めはこんなだったのに」


 金髪に紫の目の美貌の皇妃は、両手で小さな丸を作った。

 いや、いくら何でも赤ちゃんはそんなに小さくはないよ。

 そう突っ込みたくなったけど、皇妃の紫の目は、涙があるかのように光っていた。


「私を恨んでもいいのよ。でも、……帝国にあなたの家を買ってあげる。結婚相手ができたんでしょう? 帝国の爵位もあげるわ。侯爵は無理だけど、伯爵あたりなら、私の下僕の伯爵家の養子にさせて、後を継げるようにしてあげるわ。財産も、たくさんあるわよ。あなたの名義で貯金してあるの。お金が好きだって聞いたから、投資して増やしたわ。あなたの名前で商会も作ってるの。そうそう、何が好きか分からなかったから、宝石とドレスをたくさん買って来たわ。それから」


「オリヴィア」


 怒涛のごとく話し続ける皇妃を伯父様がさえぎった。立ったまま私に話しかけていた皇妃は、やっと気が付いたという風に、椅子に座って私達にも座るようにうながした。


 侍女が紅茶とお菓子を運んでくる。


「なによ、もう。ハロルド兄様は相変わらず冷静ね。クリス兄様も変わらないわね」


 皇妃は二人を見て、頬を膨らませた。


「私、がんばったのよ。夫の側室を全員殺して、第一皇子と第二皇子を争わせて、両方殺して、先の皇帝も半分殺して。ようやく皇妃になれたわ。ちょっとは褒めてくれてもいいんじゃない?」


 どこを褒めればいいのか分からないけど、皇妃はやり手のようだ。


「オリヴィアは賢いな。今や、夫の皇帝はおまえのいいなりだ。反対勢力は全部つぶしたんだろう?」


「そうよ。夫は相変わらず私に夢中よ。王宮で私に逆らうものなんていないわ。夫が全て殺してくれるもの。息子2人も賢く育ったわよ。あ、」


 皇妃は私を見て、気まずそうに目を反らせた。


「わたしには異父弟が二人いるの?」


「え、ええ、あなたより3つ下と5つ下よ。二人にはあなたのことを話しているわ。帝国に来たら、あなたのことを姉として敬うように、しっかりしつけてるわよ」


 私にはいつの間にか弟が増えていた。

 でも、私にとって弟はたった1人だけ。


「わたしには、勇者になった弟がいるから、帝国の皇子の弟はいりません」


 これ以上ややこしい親族はいらない。異父弟二人と異母弟と異母妹、全員王族なんてめんどうだよ。


「そう? まあたしかに、勇者に比べたら、わたしの息子は全然まだまだね」


「そうだろう。俺の息子が最強だな」


 父様が自慢そうに皇妃に言った。そしてその後、皇妃がお土産に大量のドレスと宝石を私にくれてから、私はオスカー様を紹介した。「男を見る目はあるわね」と皇妃は私を褒めた。


 そして、私とオスカー様は学校の卒業パーティに出席した。

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