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56 二年生

 2年生になる頃、私とオスカー様はダンジョンの99階までを制覇した。聖の魔力を持たないオスカー様は、ここまで。私だけが上に進める。

 でも、その前に学校に行かなくてはいけない。



 半年ぶりの学校では、新一年生が入学してきた。新入生代表の王女マリアンヌが挨拶する。


「わたくしは、王女として、国民の光になります。今後、長く私の王国が続くように、精霊王の名において祝福します」


「予言の王女そっくりだ!」


「きっと王女様が光の精霊王の契約者よ!」


 王女を見た新入生たちは、その可憐な姿に心を打たれている。国王が、「本物の聖女リシア」の姿として国中に配った絵は、王妃をモデルにしているので、マリアンヌ王女によく似ている。彼女が予言の王女だと信じ始めている者もいる。


 変われるものなら変わってほしい。この王女なら、喜んでルシルに監禁されるんじゃない?



「レティシア様、ごきげんよう」


 オスカー様と一緒に教室に入ろうとしたら、ベアトリス様が王族に対するような綺麗なカーテシーで挨拶してきた。ちょっと、そういうのやめて。私は首をぶんぶんと振った。


「あ、ごめんなさい。敬意があふれてしまいました。ふふふ。お会いしたかったですわ」


「元気そうですね」


「ええ、長年の悩みがなくなって、新しい恋をしてますのよ。ふふ」


 ベアトリス様は幸せそうに笑った。彼女の恋の相手は誰だろう?


「レティ。行こう」


 オスカー様が私の手を取った。そのまま、3人で歩く。


「あの、オスカー様?」


 ベアトリス様が見てるのに、手をつなぐの? 私の問いかけの視線に、オスカー様はにっこり笑った。





 教室内は二つの派閥にくっきりと分かれていた。

 王太子とスカラの王族派と、ベアトリス様の貴族派に。でも、王族派の方が人数が少ない。


「ねえ、ビクトル様。辺境で魔物と遊んで、学校をサボってる怠け者が来ましたわよ」


 べたべたと王太子にくっつきながら、スカラが私をにらんだ。相変わらずだ。でも、王太子は今までと違って、スカラを抱き寄せた。


「ふん、放っておけ。次期国王に逆らう輩など、俺が王位についたら全員拷問の末、殺してやる」


 王太子のヤバさがレベルアップしてる。しかも、スカラとめちゃくちゃ仲良くイチャイチャしてる。この二人がくっつくと、国の未来に不安しかないんだけど……。





 新入生歓迎パーティには、出ないといけない。私は公爵家で準備をした。

 去年は毒を送った犯人をおびき出そうと、紫のドレスを着たけれど、今年は、あんまり刺激したくない。できたらもう、王族には関わりたくない。


 伯父様が用意してくれたドレスは銀色だった。ところどころ光る素材でできていて、虹色に見える。


 この色合いって、ルシルみたいだ。


 ちょっと、イラッとする。


「にゃあ」


 呼ばれてもないのに、猫の姿で現れた精霊王は私の膝の上に乗っかった。仕方ないからモフモフの毛並みをなでる。ああ、柔らかい。心地よい手触り。

 どうやら彼は、このドレスが気に入ったようだ。


「今日もおきれいです。綺麗な黄金の髪です」


 髪を整えてくれた侍女が、熱心に褒めてくれた。いつもはしない化粧をすると、私はそれなりに美少女になる。


「辺境伯令息様がいらっしゃってます」

 

 今年もオスカー様がエスコートをしてくれる。いちおう、私はまだ王太子の婚約者候補ってことになってるけど、王太子はスカラをエスコートするらしい。二人はこの半年の間で、かなり親密な恋人同士になったようだ。授業をサボって空き教室で二人きりで仲良くしているとか。ああ、想像したら吐きそうになるね。そういう時は、オスカー様のかっこいい顔を見て気分を直そう。うん。黒いタキシードを着ると男らしくてさわやかでかっこいい。



「とてもきれいだよ。レティ」


 去年と違って、オスカー様は私をじっと見つめて褒めてくれる。あんまりにもずっと見られてるから、ちょっと恥ずかしくなる。


「あ、ペンダント」


 侍女に命じて、机に置いているいつものペンダントを取ってもらった。オスカー様がくれた紫の宝石のついたペンダントだ。これをつけているとリョウ君を忘れない。


「レティ、これも」


 オスカー様が私に小さな箱を差し出した。開けられたその箱には、大粒の黒ダイアのイヤリングが入っていた。まるで、オスカー様の瞳のようにキラキラと輝いている。


「今日のパーティでつけてほしい」


 オスカー様があまりにも真剣な顔をしたから、私は断ることができなかった。鈍い私でも分かる。異性が自分の目の色の宝石を贈る意味を。

 私は、王太子の婚約者候補で、光の精霊王の契約者。だけど……。


 私はその黒い宝石を手に取ってしまった。そして、侍女がそれを耳につけるのを許してしまった。今日だけは、今夜だけはわがままを叶えさせて。




 パーティ会場の中心にいるのは王族だった。


「マリアンヌ様、なんて美しいの」


「本当に綺麗。光の精霊王は、きっとマリアンヌ様に一目ぼれするわ」


「予言の王女はきっとマリアンヌ様よ」


 乱暴な王太子と違って、王女は皆に好かれている。

 優しく美しく勉強もできる。ただ一つの欠点は、自分が予言の王女だと信じこんでいること。あと、人の言うことを何でも信じすぎること。


「みなさんのお気持ちはうれしいですわ。でも、わたくしは光の精霊王に嫁ぐ身ですから」


 王女に愛をささやく男子学生に囲まれて、困ったように笑っている。その横で、王太子とスカラはべたべたと、二人の世界を作っている。


「あら、お兄様の婚約者候補の方」


 ふいに、中心人物の視線が私の方を向いた。王女は取り巻きを引き連れて、私とオスカー様の方にやってきた。


「そのドレス、素敵ですわね」


 王女は私の目立つドレスを褒めた。


「ありがとうございます。王女様のドレスも、とても美しいです」


「そう? わたくし、光の精霊王の色のドレスを作らせたのよ」


 王女は金色のドレスの裾をつまんでくるりと回った。


「綺麗な金色でしょう? わたくしは、精霊王様の妻になるのよ。夫の色をまとうのは妻の務めですもの」


 本当のルシルは銀色で、金色の部分は全くないんだけどね。ああ、もう、ほんとに、ほんっとに、彼女がルシルの契約者だったらいいのに。実は異世界転生者だったりしない? 前世の記憶に目覚めてくれないかな。


「だめよ。マリアンヌ様。そんな女に構わないで。その二人は貴族の義務を無視して、学校に来ない不届き者なのよ」


 スカラが王太子をくっつけてやってきた。もう、なんで、いちいち私に構うの?


「まあ、それはいけないわね。ちゃんと学校に行きなさい。あなたと、それと、黒髪の……名前は何だったかしら?」


「ゴールドウィン公爵の娘、レティシアです」

「ブラーク辺境伯の息子、オスカーと申します」


 王女に挨拶していないことを思い出し、二人で並んで名前を名乗った。


「そう、レティシアさんとオスカーさんね。授業には出てちょうだい。王族として命令するわ。この学校は勇者と聖女リシアが貴族の教育のために作ったの。まじめに勉強してちょうだいね」


 どうやら、私達の授業免除を知らないみたい。でも、いちいち説明するのも面倒なので、黙っておくことにしよう。そうオスカー様と目で会話したんだけど。


「お二人は、全ての履修科目を終了させてるんですのよ」


 鈴の音のような声を響かせ、ベアトリス様が後ろから言った。


「とても優秀で尊敬するお二方ですの」


 ベアトリス様は挑発するように王女を見た。


「そんなに優秀だったら、やっぱりもっと授業に出た方がいいわ。学校は勉強だけじゃなく、お友達も作る場所だと習いましたもの」


 王女は無邪気に笑った。


「でも、学校もだけど、レティシアはどうして王宮に来てくれないの? スカラは毎日来てくれるのよ。婚約者候補なのでしょう? お兄様に愛される努力をしてちょうだいね」


 うわ、気持ち悪いことを言う。

 この子は本当に優しい王女様なの? 本当はものすごく性格悪いんじゃない? どっちだろうと思っていると、またベアトリス様が代わりに答えてくれた。


「まあ、マリアンヌ様は、紫の姫と黒の騎士の芝居を見たことがないんですの? 真実の愛のお芝居は、王族の方はお好きでしょう?」


「紫の姫? 何かしら? お母様のことをモデルにした真実の愛の物語は何度も見たけれど……、皆さんは見たことありますの?」


 本当に知らないみたい。ベアトリス様の嫌味が分からずにキョトンとしている。


「くだらない芝居よ。役者の首をちょん切ってやりたいぐらい、ふざけた芝居。マリアンヌ様はそんなものは見なくていいわ」


「スカラがそういうのなら。……そうだわ! では、わたくしがお芝居を書いてあげますわ。桃色の王女と金色の精霊王ってお話。どうかしら?」


「とてもすばらしいですわ」


「国一番の役者に演じさせましょう」


 周囲の生徒は王女をほめそやした。いい機会だから、これで退場しようと、オスカー様の腕を引っ張って別のテーブルへ向かう。


「おい! おまえ!」


 王太子に呼び止められる。

 ゆっくり振り向くと、ギラギラした目が私をにらみつけていた。


「なぜ、おれに挨拶しに来ない。おまえは、まだ俺の婚約者候補なのだろう?」


 仕方ないので、私は一歩前に出て、王太子に礼をした。


「ごきげんよう。王太子殿下。おそれながら、わたくしは、婚約者候補を辞退させていただきます。殿下にはマッキントン侯爵令嬢がふさわしいと思いますので」


「何を! おばあさまがそれを許すわけがない! 王族には、どうしても紫眼の子が必要だそうだ。それなら、おれがお前に子を産ませてやる! 光栄に思え! だが、王太子妃の地位は、もちろんおまえなどにはやらない。ははっ、知っているか? 愛がなくても子はできるのだ。愛されることのない哀れな妾になるがいい。王族の子を産むだけの道具にしてやる!」


 おぞましさで手が震えてきた。私は、王太子の発言の途中で背を向けた。オスカー様が私の手を握ってくれる。ベアトリス様たち公爵家の派閥が私の後に続いた。

 そして、パーティ会場から半数の生徒が消えた。

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