43 心がない男3〜クリストファー〜
「光の精霊王。教えてくれ、毒を送ったのは誰だ?」
目の前に浮かぶ、伝説の存在に俺は尋ねた。
まさか、レティシアが予言の王女だったなんて。そして、光の精霊王と契約をしたなんて……。
衝撃から立ち直るのにしばらくかかった。目の前の精霊王の魔力圧に耐えるだけで、精いっぱいだった。兄が先に倒れた。そして、レティシアも。
ゆっくり倒れこんだレティシアを精霊王は腕に抱いた。壊れ物を扱うかのように大切に抱きしめ、そして、そっとソファーの上に横たえた。
息子が死んでから、彼女は部屋にこもっていた。食事もとってなかった。睡眠が必要だと精霊王は言った。
俺は、精霊王のまねをして、魔力酔いで倒れた兄の呼吸を確認してから、担いで向かいのソファーに置いた。
そして、精霊王と向かい合い、質問した。毒を送った犯人について。
「人の世界のことには介入できない」
精霊王は淡々と答えた。
「僕は、様々な制約でしばられているんだよ。例えば、リョウを助けられなかったように」
息子のことを言われて、カッと頭に血が上った。そうだ! こいつなら、息子を助けられたはずだ。毒が入ってることを分かったはずだ! なぜ、助けなかった!!
そう、どなろうとして、すぐに気が付いた。
違う、息子を守るべきだったのは、俺だ。俺の目の前で、息子は死んだ。全部俺が……。
「彼のことは僕も気に入っていたけど、残念だ」
ただ、それだけの言葉だったけど、なぜか、そこから悲しみが感じられた。俺は泣きたくなった。精霊王の言葉が真実だと分かったから。リョウは誰にでも愛される良い息子だったから。
「で、どうする? リョウの復讐をする? それとも、勇者の遺産を探す?」
精霊王は、顔を歪める俺に、面白がるように聞いて来た。皮肉に歪んだ口元さえも、美貌に凄みを増す。精霊王の圧倒的な美を間近に見て、頭がぐらぐらしながらも、俺は答えた。
「いや、どちらでもない。俺は、息子の望みを叶えるだけだ」
「遺産を探すってこと? リョウの願いは、勇者の遺産だよね」
「ちがう。息子の願いは、いつも一つだ」
何でも知ってる口ぶりの精霊王に、勝てると思ったわけではない。でも、息子のことなら俺の方が良く分かっている。俺は自信をもって答えた。
「レティを守る。それだけがあいつの願いだ」
俺は最低の父親だ。俺が未熟だったせいで大事な息子を亡くした。でも、俺にはまだ娘がいる。たとえ書類上でも、血のつながった妹の子だ。俺に残されたただ一つの心だ。だから、俺は、レティシアのために生きよう。それが息子の願いだから。
「ふーん。でも、そんな必要ないよ。彼女は僕の契約者だからね」
自分さえいればいい。そう言いきった精霊王に俺は挑んだ。
「いや、俺は父親だ。だから、全ての者から娘を守る。その相手が精霊王だとしてもだ」
俺の言葉に、精霊王はつまらなそうな顔をして、そして、光を放って白猫の姿になった。
俺とはもう、話をしないということか。
リョウ、俺の大事な息子。おまえを守れなかった責任を取らせてくれ。俺はおまえの分まで、レティシアを守ると約束する。今度は絶対に逃げないから。これからは、それが俺の生きる目的だ。




