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34 誕生日

 自由登園になったので、貴族学園に来るのはタンポポ組だけになった。タンポポ組の中でも、アニータちゃんやポール君は領地に帰ってしまった。だから残りの少ない人数で、毎日一緒に遊んだ。

 勉強や体育の先生も、もう来ない。私達は、召使い先生が見守る中、園庭でひたすら遊びつくす。

 すべり台もブランコも遊び放題! それから、鬼ごっこやかくれんぼをして、朝から晩まで貴族学園最後の時間を楽しく過ごした。




 そして、今日はリョウ君の誕生日。貴族学園から帰った私達を上機嫌の母様が迎えてくれた。


「リョウ君! 誕生日おめでとう! はい、プレゼント! サザストン商会に注文してたの。勇者の召喚時の衣装よ。早く着てみて!」


 笑顔の母様が、リョウ君に紙袋を押し付けてくる。


「わぁ! ありがとう。すっごく欲しかったんだ。すぐに着替えるね」


 リョウ君はプレゼントを胸に抱いて、部屋まで走って行った。


「レティちゃんも着替えてらっしゃい。今日はごちそうを作ってもらったの。一緒に食べましょう。あなたの好きなケーキも用意してるわよ」


「ありがとう。母様」


 機嫌のよい母様に、私もうれしくなって、急いで自室に向かう。

 私のプレゼント? 残念。私の誕生日は夏休み前に終わってる。戸籍上はリョウ君と同じ日に生まれてるけど、本当はもっと前。その日は、リョウ君が似顔絵をプレゼントしてくれた。それから、私の口座にお金が振り込まれていた。プレゼントは現金でってお願いしてるから。将来の独立費用にするつもり。


 すばやく普段着のワンピースに着替えて、廊下に出ると、ぶかぶかの「学ラン」を身に着けたリョウ君がいた。


「姉さま。これ……」


 明らかにサイズが大きい。きっと、大人サイズだ。ああ、きっと母様が注文を間違ってる。


 私は困り顔のリョウ君の前でしゃがみこんで、引きずっているズボンのすそを何回も折った。それから立ち上がって、袖も何度も折り返した。

 ズボンのウェストはベルトでどうにか調整したらしい。でも、かなり不格好だ。長い上着は引きずっている。


「これでいいよ。ありがとう。ぼく、母様が誕生日にプレゼントをくれて、本当にうれしいんだ。さあ、行こう」


 にっこり笑うリョウ君は、本当に良い弟だ。

 二人で手をつないで食堂に行くと、母様も笑顔で迎えてくれた。テーブルの上には豪華な夕食と大きなケーキが乗っている。本音を言うと、まだ昼過ぎだから、ちょっと夕食には早いかなって思うけど、まあ、みんな幸せだから言わない。


「リョウ君すてきよ。あら、ちょっと大きいかしら? まあ、いいわ。さあ、お祝いしましょ! 6歳の誕生日おめでとう!」


 母様と私、そして執事とメイドもみんなで拍手した。

 リョウ君は喜びいっぱいの輝く笑顔を見せた。

 それから、ドアの方を見て、驚愕の表情を浮かべた。


「よう! 息子! おめでとう!」


 突然、声をかけて入ってきたのは、長い金髪に紫の瞳の男らしい顔立ちの超絶美形、クリストファー・ゴールドウィン。リョウ君の父様だった。


「父様!」

「クリス様!」


 歓喜の悲鳴を上げるリョウ君と母様。


「誕生日に間に合ったか。よかった。おい、息子、俺からもプレゼントだ。手を出せ」


 跳びはねながら寄ってきたリョウ君に、父様は鞄から小さい黒い石を出した。


「勇者が魔王を倒した洞窟で見つけたんだ。魔王の魔石だぞ! この世に存在するのはこれだけかもしれない。すごいだろ!」


「ええっ! すごい! すごいよ! 本物の魔王の石?!」


「クリス様! クリス様!」


「ああ、なんだ、ナタリーも悪いな。ずっと留守にして」


「私、クリス様に見てほしいものがあるの! 勇者の魔道具の設計図、成功したのよ。待ってて! すぐ持ってくるから!」


 大騒ぎしてはしゃぐ父と息子。そして母は、魔道具を取りに廊下に走った。


「レティシアも元気にしてたか?」


 魔王の魔石を光にかざしてじっと見つめるリョウ君に、優しい視線を送ってから、父様は隣にいる私の方を向いた。そして、大きな手で私の頭をなでた。


 あ。


「父様、その腕は?」


 父様の上着の袖口から長い緑色のひもが見えた。でも、紐じゃないよね。これって、前に見たことある。


「おお、よく気が付いたな。これは魔物蔦っていうそうだ。なんか、なつかれて、ついてきてしまったんだよな」


「魔物蔦?」


 くねくねした緑色の蔦は、父様の袖口から私に挨拶するようにクルクル先端を回した。


「父様はなぜか魔物に好かれるんだよね。それよりも、この魔石、もう魔王の力は残ってないのかな?」


「聖女が全部浄化したって話だからな」


 仲の良い親子の会話を聞いていると、母様が魔道具を手に持って戻ってきた。お菓子の箱も持ってる。


「クリス様! 見て、私、すごいものを作ったのよ。『いんすたんとかめら』っていうの! 魔道写真機と違って、すぐに写真が撮れるのよ。ほら、見て!」


 母様が父様に嬉しそうに仕組みを説明する間、私は母様が持ってきたお菓子の箱を見た。有名店の高級チョコレートだ。


「ああ、それ、貴族学園から来てたの。誕生日に送られてくるのよ。私達の時代もあったわね。リョウ君、食べていいわよ」


「なつかしいな。それ、うまいぞ」


「うん!」


 リョウ君は手に持っていた魔石を上着のポケットに入れて、菓子箱の中の薔薇の形をしたチョコレートを一つ取って、口に入れた。


「わあ! おいしい」


 私も、チョコレートに向けて手を伸ばすと、代わりに母様に透明な魔石を渡された。


「レティちゃんはこっち、いそいで補充して。これに使うから」


 仕方なく、おいしそうなチョコレートはお預けで、私は魔石に魔力を補充して母様に渡した。


「じゃあ、みんなで写真を撮るわよ! さあ、並んで!」


 テーブルの前で、リョウ君を真ん中にして一列に並ぶ。


「じゃあ、撮るわよ! はいっ!」


 母様の声と同時に魔道具がピカッと光った。

 リョウ君の咳き込む声。そして、次の瞬間、黒い炎が上がった。


「!」


 学ランのポケットから上がった黒い炎が、リョウ君の全身を包む。


「きゃあ! 何?!」


「リョウ!」


 一瞬のことだった。勢い良く燃える黒い炎を前に、私は呆然と突っ立っていた。真っ黒な炎の中で燃えるリョウ君と目が合った。


 驚愕に見開かれたリョウ君の目を見たその直後、黒い炎がしゅっと消滅した。

 そして、炎と一緒に、リョウ君も消えてしまった。


「リョウ君?」


 何が起きたのか分からない。いったい、リョウ君はどこに行ったの?


「リョウ君、どこ?」


 リョウ君を探して、きょろきょろと歩く私。

 父様は信じられないといった表情で立ちすくんでいた。


「いやぁー!!」


 母様の悲鳴が聞こえた。


「いや! いや! リョウ君! どうして!? 魔王の炎! 全てを消滅させる黒い炎! 魔石のせいだわ! どうして、リョウ君!」


 大声で泣き喚く母様。


 魔王の炎って言った?

 全てを焼き尽くす、何も残さない黒い炎?


 まさか、そんな。まさか。それじゃあ、だって、リョウ君は?


「どうして?! リョウ君を返して! クリス様! どうしてリョウ君にそんなもの渡したの! 魔王の魔石なんて! クリス様のせいだわ! あなたがあの子を殺したのよ! 人殺し!!」


 母様が父様をののしりながら泣き叫んだ。

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