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33 しばらくお別れ

  契約獣が見つかるまで、ずいぶん時間がかかった。きっとみんなを待たせてるって思ったけど、まだ帰ってこない人がたくさんいた。白壁の迷路のせいで、みんな帰り道は迷ってしまうんだって。

 でも、うちのリョウ君は「こっちだよ」と先導して、一番近い道をまっすぐに通って帰った。すごい空間認知力と記憶力だ。天才か?


  タンポポ組のみんなは、ダンジョン入り口で待っていた両親に、自分の契約獣を見せていた。


「レティシアちゃん! 見て! 私、ハチドリなの! ちっちゃくて色がきれいでかわいい鳥さん!」


 ちっちゃくて色がきれいでかわいい鳥が、ルビアナちゃんのまわりをぶんぶん飛び回った。


「やったわ。子爵家で鳥形の契約獣なんて。上級貴族に嫁げるわね」


 テーブルで子爵夫人は、上機嫌で紅茶を飲んでいる。


「ねえ、レティシアちゃんのは? なんだったの? 見せて」


「いいよ」


 私は両手を出して、さっき契約したばかりの猫ちゃんを呼び出した。契約獣は普段は姿を見せないけど、呼びかけに答えてくれるのだ。


 手のひらの上に小さな白猫が現れた。


「うわぁ! かわいい! ねえ、なでていい?」


 私の手の上であくびをしている白猫に、ルビアナちゃんが手を伸ばした。そのとたん、猫ちゃんは「シャーッ」とうなり、牙をむけた。


「ルビアナ。他人の契約獣には触れることはできないのよ」


 夫人がたしなめた。


「それにしても、猫型だなんて大物ね。薔薇組で連れ帰った今年の動物型契約獣は、イタチ型と馬型とコウモリ型だったそうだけど。タンポポ組で動物形態の契約獣なんて、学園始まって以来の快挙じゃないかしら」


「そうだな。さすがは紫眼だ。ゴールドウィン公爵家の血筋か。クリス様が白狼を連れ帰った時も驚いたが、魔力の高さはすさまじいな」


 子爵夫妻の話し声をよそに、私はかわいくてたまらない白猫を撫でまわした。


「あなたの名前は何にしよう? 綺麗な白色だからスノウ・プリンセスとかどう? え? いや?」


 契約獣に雄雌はないっていうけど、プリンセスって呼ぶと、ものすごく嫌そうに甘噛みされた。


「じゃあ、ただのスノウにしよう。雪みたいに真っ白だから。ん? 白?」


 ダンジョン前広場の明るい中で見る白猫は、白色っていうよりも銀色に近くて、しかも、光を反射して虹色に光っていた。


 でも、私は、スノウのあまりのかわいらしさに、何にも気が付かないふりをした。

 こんなかわいい猫ちゃんがいたら、余計なことは考えなくていいよね。この子は白猫。誰が何と言おうと白猫。


 しばらくお菓子を食べながら待っていると、タンポポ組さんは全員帰還した。


「見て見て! 私の契約獣! かっこいいでしょ!」


 アニータちゃんが見せてくれたのは、大きなカマキリだった。


「この鎌の形が強そうでいいの。眼も、くりんってしてて、かわいい!」


 む、虫……。でも、男爵家では虫の契約獣がポピュラーだとか。私の猫ちゃんは、めちゃくちゃ目立ってるよ。もしかして、やっちゃった?


「はい! 全員、契約獣が見つけられてよかったですわ。今年は、連れて帰れない落ちこぼれな子もいるかと心配してましたけど」


 マーガレット先生が大声でみんなに語りながら、私の方をちらっと見た。そして、私の手の上で毛づくろいをしている子猫を見て、頭を横に振った。


「まあ、全員無事に帰ってきて良かったです。では、本年度、貴族学園親子遠足はこれで終了といたします。保護者の方々、ごきげんよう」


 終了の合図で、みんなは両親と手をつないで家に帰って行った。私も、護衛騎士さんと一緒に、オスカー様の家に寄ってから帰ることになっている。


 いつも行っているオスカー様の家の門の前には、たくさんの馬車が止まっていた。なにかあるのかな?


「リョウ君! レティシアちゃん!」

「二人とも久しぶりね」


 騎士さんが帰宅を告げると、玄関にオスカー様と辺境伯夫人がやってきた。


「今日は騎士さんを、ありがとうございました」


 二人でお礼を告げると、にこにこした辺境伯夫人に、契約獣を見せるように請われた。


「かわいい緑色のトカゲだね。それと、レティシアちゃんは、猫?!」


「まあ! 素晴らしいわ」


 上機嫌の夫人は、オスカー様にも契約獣を呼ぶように言った。

 オスカー様の契約獣は、運動会のぬいぐるみと同じ、真っ黒な馬だった。でも、手のひらサイズ。


「真っ黒でかっこいい馬だ」


「今はまだ小さいけど、俺の魔力次第で成長するんだって」


「じゃあ、僕のトカゲ君も大きくなるかな?」


「うん、きっとすぐ大きくなるよ。今、名前を何にしようか考えてるんだ。リョウ君は?」


「僕は、クロ。勇者リョウのブラックドラゴンとおんなじ名前にしたよ」


 話をしながら応接室に案内される途中で、大きな荷物を抱えた騎士さんたちとすれ違う。


「あの、私達はお邪魔じゃないですか?」


 忙しそうな雰囲気を感じて、辺境伯夫人に聞くと、


「オスカーは明日の朝、領地に帰るのよ。ほら、貴族学園はこの後、卒園式まで自由登園でしょ。だから、薔薇組の子供たちは皆、登園しなくなるの」


「え!? オスカー様、いっちゃうの?」


「うん、俺も君たちと遊べなくなるのは嫌だけど、でも、俺、早くダンジョンで修行したいから」


「そっか。寂しくなるね」


 しばらく会えなくなるから。そう言ってオスカー様は私達を夜遅くまで館に引き留めた。私たちはいつものように、勇者の話をしたり、今日のダンジョンの話をしたりして楽しく過ごした。


「オスカー様、じゃあ、卒業式にね」


「うん。レティシアちゃん。俺、絶対強くなるから。その時はリョウ君、約束だよ」


「僕と勝負しようね。僕に負けちゃ、あげないからね」


 リョウ君とオスカー様は、二人で勝負をする約束をしているようだ。なんの勝負だろう? 剣術とかかな?

 うちの家には剣を教えてくれる人はいないから、執事に頼んで、どこか通える道場を教えてもらおうかな。リョウ君、スポーツ万能だから、剣術もきっと才能あるよね。


「レティシアちゃん、またすぐ会えるよね」


「うん。卒業式までたった2か月だよ」


 私達は握手して別れた。空には星がキラキラ光っていた。そして、すっかり夜が更けたころ、ようやく家にたどり着いた。あんまり遅くなったので、母様はもう寝ていた。

貴族学園は二学期制です。三学期はありません。


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