30 手紙
その夜、私は熱を出した。ベッドから起き上がれなくなった私のために、リョウ君はずっと側にいてくれた。昼過ぎまで寝ている私の横で、リョウ君は魔道具の本を読み、それから一緒に昼食を食べる。そしてまた、私はベッドでごろごろして、リョウ君は読書する。そして、夕食。
そんな怠惰な生活を一週間続けて、ゆっくりと私は回復した。
王太子と婚約なんてできない。絶対にできない。
私は伯父に手紙を書いた。彼は私の出生の秘密を知る数少ない人だ。実母の出産に力を貸して、私をこの家の子供にした。力になってもらおう。
だって、異母弟との結婚だなんて、最低最悪の気持ち悪いことは、絶対に阻止しないと。
返事はその日のうちに来た。執事が持ってきた封筒には一言だけ。「了承した」と。
安心した私は、翌日からまた貴族学園に行くことにした。私のために、リョウ君まで園を休むのが、かわいそうだったから。
「レティシアちゃん。大丈夫? お遊戯会の後で熱が出ちゃったんでしょ」
「もう、お熱は下がりましたの?」
貴族学園側は、私は病気で早退、そのまま休暇と説明したようだ。でも、近衛騎士が私を連れて行くところをみんなが見ていた。そこには触れないのは、さすがは小さくても貴族だ。
「うん、もうだいじょうぶ。心配かけてごめんね」
「そうだよ。レティシアちゃんがいないと、つまんないんだからね」
「そうですわ。またいっしょに、勉強しましょうね。でも、今日はまだ心配だから、モンスター訓練はお休みした方がいいかしら?」
「モンスター訓練?」
「契約獣ダンジョンに行くまで、後2か月だから、今までよりもっと本格的な訓練が始まってるのよ。レティシアちゃんは体力つけないとね」
ああ、また、地獄の訓練が始まってるんだ。契約獣……。
もし、私が契約獣を得られなかったら、そしたら、私を婚約者にって話はなくなるかな? 貴族なのに契約獣がいないなんて、魔力が相当低いってことだから。
一瞬そう思ったけど、一生懸命訓練している友達を見て恥ずかしくなった。
ちゃんとしよう。サボるのはやめよう。きっと、婚約の話は、伯父様が止めてくれる。だって、ありえないから。
だから、今は、目の前の訓練をちゃんとやろう。
って思ってたけど、超ハード! もう、死にそう!
走り込みから、のぼり棒、それから迷路に障害物競走。
タンポポ組は二つのチームに分かれて、鬼ごっこのように対戦する。
「もうっ! レティシアちゃん! そんなに早く捕まらないでよ!」
「ごめんね。でも、もう、体力が」
ああ、敵チームにいるリョウ君が、簡単にうちのチームの子を次々捕まえている。たぐいまれな運動神経と疲れを知らない体力。なんで? ここに入る前はおとなしい性格の普通の子だったのに。なんか、訓練を重ねるうちに覚醒した? 運動会の時も動きがおかしかったけど。
私にも、眠ってる力があるんだったら、早く目覚めてほしい。とくに体力。
くたくたになって、私のチームは弟チームに惨敗した。
「!」
アニータちゃんたちと話しながら教室に戻っていたら、薔薇組とすれ違った。王太子もいる。
「いやだわ。たんぽぽ組さんは大変ね。汗だくになって訓練するなんて、ばかみたい」
こっちを見下して話をするのは、スカラ・マッキントン。
「おい、よせよ」
ロレンスがそれをたしなめる。後ろにいるダニエルは面白そうに笑っている。そして、王太子は、
「どけよ!」
私達にぶつかりながら、ブランコの方に走って行った。
相変わらず感じ悪い。
「ごめんね」
ロレンスだけが私達に謝ってから追いかけた。
貴族学園のハードな訓練の中で、私は悩みをしばらく忘れることにした。
訓練、勉強、訓練、訓練……。
何も考えることができないくらい、私は疲れ切った日々を過ごした。




