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26 お茶会

 サザストン子爵家のお茶会に招待された。


 サザストン家は鎖国政策をとるわが国で唯一、帝国との貿易を許されている。王都一の大きな商会を持っているお金持ちなので、招かれたお屋敷はお城みたいに大きくて豪華だった。


「ここに座って、レティシアちゃん。リョウ君。辺境伯領での話を聞かせてね」


 私達はラビアナちゃんと同じ席に案内された。

 テーブルについていた子供たちが、私たちの瞳の色を見て、驚いている。


「ごきげんよう。ゴールドウィン男爵の娘、レティシアです」

「弟のリョウです」


 私達の挨拶を聞いて、王族ではなく、男爵の子供だと知ってから、子供たちはほっとしたように笑みを浮かべた。


「紹介しますわね。こちらが侯爵令嬢のサーラ様。6歳ですの。それから伯爵令息のトムソン様は7歳、あ、伯爵令息のロレンス様は知ってますわね。幼稚園が一緒の同じ5歳。伯爵令嬢のコーデリア様もおなじですわ」


 ルビアナちゃんが私達に紹介してくれたのは、上級貴族ばかりだった。私達、遅刻してきたうえに、下級貴族なのに、この席に座っていいのかな? もっと向こうの下座の席に移動しちゃダメ?


「レティシアちゃんとリョウ君は、わたしの大切な友達なの。それにね、両親はSランク冒険者と天才魔道具士なのよ」


 ルビアナちゃんが、しなくてもいい紹介をした。

 ああ、うん。みんなの私達を見る目が変わった。

 そんなに、いい親じゃないよ。私生活ではめちゃくちゃだよ。


「夏休みは辺境伯の所に行ったんだってね。どうだった?」


「うん! 勇者様の剣をみせてもらった。それから、魔物も見たよ」


「ええっ! そんな恐ろしいものを見たの? 平気だったの?」


「そんなの、俺が大きくなったらやっつけてやるよ。俺の契約獣はカワウソなんだぞ!」


 リョウ君は、隣に座る侯爵令嬢と伯爵令息にすっかり気に入られて、にこにこしながら話が弾んでいる。


 年上の子は契約獣を見つけた時のことを話してくれた。


「護衛騎士と迷路を進んでたらさ、『キュルキュル』って鳴き声が聞こえて、見たら、岩の上にカワウソがいたんだ。俺の手をなめて、契約できたんだ」


「私の契約獣はフクロウよ。私のもとに飛んできたの。かわいい子よ。それに、私が嫌いな虫をやっつけてくれるの。まだ、私の魔力が安定しないから、いつも一緒にはいられないけど、呼んだら来てくれるのよ」


 魔力を増やしてくれるけど、大量に魔力を消費する契約獣は、いつでも一緒にいられるわけではないみたい。普段はどこかに消えていて、呼んだら出てくるみたいなもの?


 みんなの話を聞きながら、テーブルに並んだお菓子を食べた。プリンみたいなものがあって、とてもおいしかった。

 とりあえず、男爵令嬢らしく、出しゃばらずに、みんなに気に入られてるリョウ君の横でにこにこしていた。

 貴族の令嬢として、うまく社交できたかな?



 ルビアナちゃんのお茶会も終わり、そして、楽しい夏休みもあと少しで終わってしまう。

 私とリョウ君は残された宿題を片付けていた。

 って、主に、私。


「姉さま。この字は間違ってるよ。ほら、よく見て。葉っぱの角度が全然違う。こっちの歴史の問題も、文字が違ってるから、別の意味になるよ。あ、地名も違う。全部やり直しだよ」


 もうっ。キィーって言いたい!!


 ちょっとくらい間違えても良くない? 5歳児の宿題なんだよ。小学校受験するわけじゃないんだから。成績なんて関係ないじゃん。


「リョウくぅーん!」


 突然、ノックもなしに扉が開いた。宿題をしている私たちが顔をあげると、上機嫌の母様がいた。ライトゴールドのくせのある髪は頭の上でくるくるとまとめられているけど、テカってる。多分、何日もお風呂に入ってないんじゃないかな。しわしわのワンピース姿で、嬉しそうに紙の束を握りしめている母様は、リョウ君に抱き付いた。


「新しい魔道具ができたの! 魔道写真機の改造版よ。いんすたんとかめらっていう勇者の書に書かれてたのを、ようやく実現できたの。写真がすぐにできるのよ! 執事のジョンが絶対に売れるっていうから、母様がんばって作ったのよ」


「わー、すごいね。母様。それ、設計図? 見せて」


「いいわよ。でも、難しいから、見てもリョウ君にはきっとわからないわよ。そうよ、私以外に理解できる人なんていないのよ。私は一番の天才なんだから! 学生時代、私をいじめていた人たち、見てらっしゃい! あんたたちなんかには、絶対売ってあげないんだから。ふふふ、土下座して私に売ってくださいって言えば? ふふ、ぐふふ、ああ、気持ちいい! 私のことをみじめだって言ってたヤツ、あんたらのみじめな姿を写真に撮ってやるわ!」


 母様がまた、自分の世界に入ってしまった。リョウ君は母様の腕からするりと抜けて、設計図を広げて無言でじっくり見つめた。


「ふふ、リョウくぅん。これがお金になったら、何でも好きなもの買ってあげる。何が欲しい? リョウ君のためなら、何でも買ってあげるわ。だって、母様の大事な子供だもの。ああ、そうだ。クリス様にも新しい服を買ってあげなきゃね。クリス様の衣装代は高いのよ。何しろ、防御の魔石をたくさんつけないといけないから。そうそう、この前なんてね……」


「母様、ぼく、勇者様が召喚時に着ていた服が欲しい。今度、王都のサザストン商会が売るって言ってた」


 先日のお茶会で、子爵婦人にリョウ君が提案したのだ。勇者好きの男の子には売れると思う。


「勇者様の服? いいわよ。何着でも買ってあげるわ」


「一着だけでいい」


「ふふふふ。そんなに遠慮しないで。あなたは母様とクリス様の愛の結晶の宝物なんだから、ね」


 母様は、ぺったりとリョウ君にくっついた。

 リョウ君はちょっと困った顔をして、少しだけ横にずれた。


 母様の機嫌には波がある。機嫌がいい時は、ずっとリョウ君にくっついて甘やかそうとする。そして、母様自身もリョウ君にべったり甘える。でも、そうでない時は、部屋にこもって、誰にも顔を見せない。唯一、昔から家にいる執事のジョンと、母様の侍女のキャサリンだけが部屋に入れる。私たちは母様の邪魔にならないように、家の中では音を立てずに過ごす。私たちの声を聞くと、母様は神経質に叫びだすからだ。


 とても難しい人だ。

 でも、魔道具作りは天才的。他の誰にもまねできない才能がある。私も、将来は魔道具士になるって思ってたけど、母様を見ていると、自信がなくなってきた。前世の記憶があるから、きっと便利な道具が作れるはずっていう考えは甘い。アイデアだけじゃ製品にならない。勇者のアイデアメモだけで、実物を作ってしまえる母様は、本当にすごい人だと思う。まあ、子育てには向いてないけどね。

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