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25 我が家へ

 久しぶりに家に帰ってきた。

 家の中は物音もなく静まり返っている。

 物音過敏症な母様がいるので、うちの使用人は基本、おしゃべり禁止で静かに音を立てずに過ごす。

 私とリョウ君も部屋の中で本を読んだりして、おとなしく遊ぶように言われている。

 夏休みの間過ごした辺境伯家やグリーデン家のようなにぎやかな音が、我が家にはなかった。


「静かだね」


「なんだか寂しいね」


 留守にしている間に、ルビアナちゃんから手紙が来ていた。

 お茶会の招待状だ。私は急いで返事の手紙をメイドに届けさせた。


「姉さま、勇者の遺産の研究をしようよ」


「うん、でも、全然成果はなかったよ」


 辺境伯家で見せてもらった勇者の書は、和食のレシピばかりだった。カタカナのメモはなかった。遺産の手掛かりは、以前オスカー様が見せてくれたメモにあった、火山のカルデラ湖ってことだけだ。


「絶対、二人だけの秘密。誰にも言っちゃダメだからね」


 ってリョウ君が言ったので、遺産を探す両親にも、このことは黙っている。一生をかけて遺産探しをしている父様には悪いなって思うんだけどね。


「うーん。『カザンノ カルデラコ ウキシマ』?」


 以前書いたメモを見ながら、リョウ君は首を傾げた。


「火山がある場所を調べたら、すぐ分かると思ったんだけど、地図には書いてないよね」


「カザンって何?」


 私の言葉にリョウ君は首を傾げた。もしかして、この世界には火山ってないのかな?


「炎が出る山のこと。山が噴火するの」


「なんで? なんで山から炎が出るの?」


 なんでだろう。前世で習ったと思うけど、わかんないや。


「それは……説明できない。この国に、大昔に噴火した山ってなかったのかな? カルデラ湖は火山が噴火したらできるし、そもそも山脈も、噴火が原因じゃなかったっけ?」


 私達は地図を広げた。やっぱり火山はない。過去に噴火した山も書かれていない……。


「……姉さまは、やっぱり特別なんだって思うよ」


 地図から顔をあげたリョウ君は、ちょっとすねたように言った。


「その、カザンっていうのは勇者様の国にしかないんだよね。それを手がかりにしてるのなら、やっぱり勇者様は姉さまに遺産を残そうとしたんだ。僕みたいに、この世界の知識しかない人には絶対に探せやしないんだから。……だから、勇者様の遺産は、きっと光の精霊王に関係しているんだと思う。だって、姉さまは、予言の……金髪紫眼の王女だから」


 小さい声だったけど、リョウ君の言葉は、はっきり聞こえた。


 王女って……。それって、私のこと?……リョウ君は知ってたの? 私が国王の娘だってこと。リョウ君の本当の姉じゃないってことを。


「え、なんで、どうして、そんなこと言うの?」


 泣きそうになって、うつむいて聞いた。こわくて、リョウ君の顔が見れない。リョウ君は、ぼそぼそと質問に答えた。


「おじさんが母様と話しているのを聞いた。……前は、その言葉の意味がよく分からなかったけど、今は分かる。姉さまは、本当の姉さまじゃなくて、王女なんだ。……僕とは、ぜんぜん違うんだ」


「リョウ君!」


 そんなこと、聞きたくない。そんなこと、言わないで。


「違う! 違うよ。わたし、リョウ君の姉さまでいちゃだめなの? リョウ君の姉さまになれないの?」


 ぽたぽたと涙が落ちた。知られたくなかった。わたしのたった一人の家族なのに。もう、家族じゃなくなるの?


「! ごめんなさい! 姉さまは姉さまだよ! ぜったいに、ぼくのたった1人の家族だよ! 泣かないで、姉さま。ぼくは、姉さまとずっと家族でいたい! ぼくには、姉さまだけだから! 本当に、ごめんなさい!」


 ばっとリョウ君が私にしがみついてきた。背中に回った手が私の体を締め付けた。この半年でリョウ君の体はすっかり大きくなった。私の全身を抱きしめられるほど。


「うわーん、リョウ君〜」


 大声をあげて、私達は泣いた。意味のない言葉を叫びながら。二人で、抱きしめ合って泣きさけんだ。

 母様に命じられたメイドが、私たちの口をふさぎに来るまで。


 メイドがたくさんのお菓子を置いて部屋から出て行った後、私達はいっぱい泣いて、すっきりした気持ちで、一緒に勇者文字のメモを眺めた。


「でも、勇者の遺産って何なのかな? お宝だといいな」


「僕は、便利な魔道具がいい」


 リョウ君は腕を組んで、勇者メモを見た。


「勇者様は、すごい魔道具が作れて、魔王を倒せるほど強いんだ。きっと祖国では有名人だったんじゃない? 本当に勇者様に心当たりないの? 黒髪黒目のリョウって名前を聞いたことない?」


「うーん、日本人は1億人以上もいたし、ほとんどの人が黒髪黒目だよ。リョウって名前も良くあるし」


 それに、同じ時代から来たとも限らない。

 勇者が召喚時に着ていた服を思い出した。


「きっと昭和の人だよね。不良全盛期の。少なくとも江戸時代とかじゃないよね」


 私達は、また地図を眺めた。それから、家にある勇者の絵本も全て取り出してきて読んだ。昔の歴史の本も調べた。

 そして、勇者について些細なことでも語り合った。


 でも、


 光の精霊王の契約者についてとか、予言の王女についてとか、


 そんな話題には、二人とも、もう二度と触れなかった。


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