14 ブラーク辺境騎士団
オスカー様はさわやかイケメン(5歳児)ってだけじゃなくて、めちゃくちゃ良い子だった。
なんと、運動会の護衛役がいないって話をしたら、ブラーク騎士団の騎士を貸してもらえることになった。
「領地にいる父には手紙を送るけど、執事は良いって言ってくれたよ。王都の館には、俺の護衛として第5部隊が住んでいるけど、みんなが運動会を見たがって大変だったんだ。俺の友達の護衛役として運動会に行けるなら、きっと喜ぶよ」
オスカー様の言った通り、第5部隊員は、大喜びして、誰が護衛役になるかを決める対戦を始めた。
敷地内の広い訓練場所で、私たちは果汁飲料片手に、戦う騎士たちを鑑賞した。
「俺の護衛役を決める時には、3日間も武道大会が行われたからね。ごめん、ちょっとうちの騎士団は変わってるよね」
「ううん。僕は強い男の人にあこがれてるんだ。だって、勇者様は最強の男だったんでしょ。うちの父様も、たまに帰ってきた時には、筋トレと木刀の素振りを欠かさないし。僕も強くなって、冒険者になるんだ」
「ああ、うん。騎士団も訓練でダンジョンに行くことがあるよ。俺も契約獣を見つけて魔力が増えたら、うちのダンジョンで修行するつもりだよ」
「ブラーク辺境伯領にも、ダンジョンがあるんだね」
ん? ダンジョン?!
「そのダンジョンの名前は何ですか?! もしかして、火山にあります?」
思わず聞いてしまった。勇者が私に残したお宝の眠るダンジョンはどこ?
「いや、うちの領地のダンジョンは、修行者のダンジョンっていうんだ。高い塔のようなダンジョンで、強くなるための場所なんだ。カザンダンジョン? 聞いたことないな」
「そうですか」
やっぱり、そんなに簡単には見つからないよね。
「姉さま、どうしたの?」
ずっと考え込んでいる私に、リョウ君が不思議そうに聞いてきた。
「ううん、なんでもないよ。それより、勝敗が決まったみたいだよ」
木の柵をたくさん立てた訓練所で、筒に入れたペンキ砲を撃ち合っていた騎士たちが、カラフルな格好になって整列した。
「オスカー様、勝者が決まりました!」
「うん、ペンキがかかってないその6人だね。よろしく頼むね。この子たちは俺の大切な友達なんだ」
「はい!」
「優勝目指します!」
黄色やピンクのペンキが全くついていない真っ黒な騎士服の6人の騎士が、私とリョウ君に敬礼してくれた。
よかった。ブラーク辺境騎士っていい人! 勇者の末裔のオスカー様に感謝!
私に遺産を残してくれる日本人の勇者様も、ありがとう!
家に帰ってからも私はずっとご機嫌で、鼻歌を歌いながら、メモ帳を眺めた。
オスカー様からお土産にもらった塩味の芋菓子をパリポリかじる。ブラーク辺境伯家に代々伝わる勇者開発のお菓子だ。名前は塩ケンピーというそうだ。
甘味と塩味が一度に味わえて、食べる手が止まらなくなる。
「うふふふふ」
遺産、お宝。何が残されたんだろう。私にしか分からない勇者文字って最高!
ここしばらくの悩みだった運動会の護衛役の問題も解決して、私はすごく浮かれてた。だから、リョウ君が私に不審な視線を向けたのに、気が付かなかった。
「で、勇者文字にはカザンダンジョンって書かれてたの?」
突然、後ろからメモを覗き込まれて、びくっとする。
「え?」
「姉さまは小さい時から、不思議な言語をしゃべってたよね。それって、勇者様の国の言葉だったんだ」
私が前世の記憶を持ってるってことは家族には告げてある。いつも一緒にいるリョウ君は、この国の言葉よりも先に、私から聞いた日本語をしゃべったぐらいだ。母様は子供放置系の親だったんで、私達はずっと二人だけでいたから。異国語で会話する私達を、メイドは気味悪そうに見てたっけ。
前世の記憶があるってことをリョウ君は信じてくれたけど、母様は夢でも見たんでしょって相手にしてくれなかったから、最近は日本語を使わないようにしてたけど。そういえば、日本語を書いたことはなかったな。
「姉さま、隠さないでね。勇者文字を書き写した筆使いが、その文字を知っている人にしかできない速さだったよ」
するどい。いつも優しくて素直なリョウ君は、勇者がらみだと人格が変わる。正直に話すまで、絶対あきらめないって顔をして私をじっと見てくる。
私は両手を上にあげて、お手上げポーズをした。
「うん、読めたよ。日本語だった。勇者は日本から召喚されてたみたい」
「! 教えて!」
リョウくんは私の手を両手でがしっとつかんだ。
「ぼくに、勇者文字を教えて! ぼくも勇者文字を読みたい! 書きたい! 勇者様と同じ言葉で会話したい!」
「ええっ? でも、日本語って難しいよ。文法も発音もこの国の言葉と全然違うし、文字だって、いや、カタカナだとまだ簡単かな? この世界の、葉っぱが蔦に絡んだような文字よりも、シンプルだから……」
『日本語、少し、話せる。姉さま、話す、聞いて、覚えた』
リョウ君は日本語で返事してきた。すごい。賢いとは思ってたけど、こんなにも?! うちの弟、言語学の天才だよ!
この日から私は、勇者文字の弟専用家庭教師になった。




