12 貴族学園の一日
護衛役をどうするか。何のアイデアも浮かばないまま、時は過ぎていった。運動会を来月に控えた今日の体育は、木の衝立がいくつも設置され、迷路のようになった体育館をひたすら走ることだった。
「本番のダンジョンもこれと同じなんだって。でも、迷路は入るたびに変わるから、覚えても意味がないって」
リョウ君が残念そうに、ポール君から聞いた話を教えてくれた。
ポール君のお兄さんは、3年前にダンジョンで契約獣を見つけて来たそうだ。
そうか。運動会はどうにかなっても、本番のダンジョンは護衛が絶対に必要なんだよね。母様はどうやったんだろう? 母様の契約獣はモグラで、いつも姿を見せないから気にしたことはなかったけど。
「すごいね、リョウ君。迷路得意なの?」
早期脱落して見学中の私とは違い、リョウ君は5回目の迷路攻略を済ませた。
「うん、ありがとう。アニータちゃんもがんばってるね」
「リョウ君。次は俺も負けないからな」
「うん。また勝負しようね」
リョウ君はすっかりクラスの人気者。体育も勉強も芸術も全て優等生だ。うんうん、良かった。でも、一方で私はすっかり落ちこぼれているんだけどね。まあ、気にしない、気にしない。
それよりも気にしなきゃいけないのは、貴族学園がお休みの明日のことだ。
辺境伯爵家のオスカー様の王都の家に、およばれしているのだ。
ブラーク辺境伯は、この国と帝国との境の結界付近に広い領土を持つ。精霊王によって結界が張られたこの国では、魔物はダンジョンの中でのみ、モンスターとして出現する。でも、結界に近い辺境伯の領地には、たまに魔物が出没するそうだ。
それをブラーク辺境騎士団が討伐する。
「鎖国をしている我が国は、他国からの侵略の恐れがないため、軍隊を持たない。そのため、ブラーク辺境騎士団は我が国で最強の戦力と言ってもいい。
ブラーク辺境騎士団の初代団長は、勇者パーティの女騎士だった」
体育後の眠気をごまかすために、地理の教科書をながめた。この世界の文字を見ると、ますます眠気に襲われる。くねくねしたシダ植物の模様にしか見えない。
「次は、レティシアさん。王家の所有する領地を一つ答えてください」
あ、当てられちゃった。
心配そうにこっちを振り向いたリョウ君にうなずいて、先生に答える。
「勇者が魔王を倒した最終決戦の闇の洞窟です」
今、父様が探索しているって言ってた。王家の許可がないと入れないんだって。ってことは、王家の領地だよね。
「ああ、うーん。まあ、正解かな。模範回答としては、穀倉地帯で有名なイエール領や魔石鉱山のあるストダ領と言ってほしいところですが」
先生は、あきれたように私に言った。
そんなの知らないもんね。私、まだ5歳だよ。もうっ。
「まあいいでしょう。その勇者の話から派生しますが、王家の所領の一つの、穀倉地帯イエール領の南の端にあるリシア湖。そのほとりには、何があるか分かる人はいますか?」
「はい!」
「はいっ! はい!」
みんなが一斉に手をあげた。リシア湖ってことはあれか。
リョウ君が大好きな絵本に書かれている聖女リシア生誕の地。そして、
「はい! 勇者リョウの召喚された光の聖協会があります!」
「正解です。みんな、勇者の話は大好きですね。勇者の活躍した場所をたどって、地図を説明しましょう」
地理の先生は魔法学校を卒業したばかりだそうだけど、教え方がうまい。体育で疲れた子たちを、勇者の話で上手に釣り上げている。
私も、眠気を忘れて、先生の話に聞き入ってしまった。




