魔法少女仕事を探す
「仕事……仕事ってなにすればいいの?」
小学六年生のショコラにとって生きるために働くという感覚も考えもまったくない。知識として知ってはいるが自分で生きるという意味をよく理解していなかった。
「んー……人に聞いてみる?」
ショコラは路地裏からひょこっと顔を出す。みんなが何かしらの目的の為に歩き、行動し、生きるために働いている。とりあえず道歩く人に聞いてみた。
「あの……仕事ってどうすればいいですか?」
「おや。お母さんのお手伝いかい?」
「ち、違うんですおばあさん! 私は生きるために」
「そんな事言われてもねぇ。子供が働ける場所なんてないよ」
「うぅ……飢え死んじゃう」
「ごはんに困ってるのかい? ならこれでも食べな」
「え? これ、サンドイッチ? パンはフランスパンっぽいけど」
「どんなパンだいフランスパンって。これはミデラ・トッフィっていうサンドイッチさ。外側は固く、中はやわらかい。そんなパンの中に旬の食材を詰め込んで詰め込みまくった腹を満たすのには最高のサンドイッチさ」
「あ、ありがとぉ!」
「そんな涙目になって……困窮しているんだねぇ。うちじゃ面倒は見れないからご両親がいい仕事見つけられるよう祈っておくよ」
「……あ、うん。言っておくね」
「じゃあね。お大事にね。元気にね」
「は、はーい」
おばあさんと別れた後、ショコラは路地裏に戻った。
「伝わらなかった……ごはんはもらえたけどいつまでももらえるわけじゃないし……
ママ……もう、帰れないのかな」
パンを一口食べると涙が溢れてくる。
「おいしいっ、おいしいよ」
腹が満たされていく。
「ママのご飯、食べたいな。パパ、もう腰良くなったよ。ミカ、会いたいよ」
あっという間にたいらげる。そしてあの惨状が脳裏に浮かぶ。胃の中に入った食べ物を戻しそうになる。
「おえっっ……」
きっとあの子達は死んだんだろう。他のみんなは大丈夫かなとショコラはずっと心配していた。
「前に進まなきゃ。いつまでも座ってたって仕方ない!」
「よぉよぉ嬢ちゃんなーにしてるんだい?」
「え、えっとどちら様?」
「どちらもこちらもないただの通りすがりのおにいさんさ」
「おにいさん?」
「ちょっと仕事してもらおうか」
「仕事!! します!」
「えっ」
「えっ?」
「へっへっへ。話がはやいぜ」
ズボンをスルリと下ろすおにいさんに硬直するショコラ。
「パ、パンツ?! ゴム緩んじゃったんですか? ベルトですか?!」
「あ、理解してないのね」
さらにパンツを下ろそうとした瞬間。
「教育に悪いわ! このロリコンがぁ!」
どこからともなく現れたローブの人。その人によっておにいさんは壁にめり込み、さらにそこからローブの人に引きずり出されて空に飛ばされた。
「おにーさぁーん! 仕事ぉぉぉ!」
「君はバカなのか? バカなんだな。あれは……いや、あの反応を見る限り知らないか」
「あ、あなたは?」
「私は……あー、通りすがりのお姉さんだ」
「”通りすがりのお姉さんッ!”」
「仕事なら君はギルドにでも行けばいい。実力さえあれば雇ってもらえる。ただ、この街はやめておけ。少し離れたところに同規模の街がある。ここから太陽が登る方向に向かって進めばたどり着けるさ」
「親切に……ありがとうございます!」
「じゃあ私はこれで」
「えっ、あの」
「私はここにとどまれない。またいつか会おうね。
”魔法少女”」
「ッッ! なんでそれを」
路地に消えた通りすがりのお姉さんを探したが、見つけることは出来なかった。
「……隣の街。えーっと太陽が昇る方だから……」
東に向かって歩き続けるショコラは文句を叫んだ。
「近く無くない?! 一日歩いたよ?!」
一人ハイテンションで歩いても疲れるだけだった。
「もういいや。誰もいないしここ。変身」
変身した状態でショコラは空を飛ぶ。遠くに街を見つけ、中に降り立った。変身を解除し通行人にギルドはどこにあるのかと尋ねる。
「あぁ、それならあっちだよ。でっかい建物だからすぐに分かると思うよ」
「ありがとうございます!」
ショコラは一日何も食べていないので足早に向かった。学校くらいあるんじゃないかという巨大な建物を前に足がすくむショコラ。
「いや、行くんだ私っ! じゃないと、このお腹は鳴り止まない!」
扉を開けると喫茶店のように鈴が鳴った。
「こ、こんにちわ」
女、子供がそうとう珍しいのだろう。注目を浴びて仕方ない。どきどきしながら受付らしき場所に向かう。そこで話しかけるがなんとカウンターが高く、おでこまでしか出ない。
「あ、あの」
ショコラが話しかけると受付の女性はこう返す。
「あら。ここは遊びにくるところじゃないわよ? どうかしたの? 迷子かしら」
「ち、違います! お仕事、ほしくて」
「あらぁ偉いのねぇ」
「うっ、あのおばあさんと同じものを感じる」
「あ? 今なんつった?」
「独り言ですッ! すみません!」
「そうよね。私まだ二十七ですものぉ」
「……お仕事、ください」
「そうは言ってもねぇ……年齢制限はないけど子供はちょっと」
「戦えればオーケーですか?!」
「いや、それもちょっと。親御さんの許可とかないと……あってもちょっとね……」
「うう……」
「私が父親ですよ」
黒いスーツのようなものを着た男性。マントをつけ、帽子は円柱型でマジシャンのような姿をしている。片目をつむった隻眼。
受付のおば、お姉さんはその男性に話しかける。
「あなたが? ちゃんと面倒みなきゃだめですよ?」
「お金が無くてね。それでこんな事を言い始めたのさ。私もすぐに仕事に行かなきゃならない。妻はいないんだ。亡くなったよ」
「そうでしたか……ですがそう簡単に子供を働かせるわけには」
「奴隷ならいいのかい?」
「…………悪しき風習です」
「そうか。強ければいいんだろう? たとえばそこにいる冒険者より強ければ問題はないっていうことだね?」
「ええ、まぁそういうことにはなりますが」
「君、ちょっとうちの娘と戦ってくれないか? 手加減なしで」
大男が戸惑いながら言った。
「あ、ああいいけどあんた親なのに容赦ないな。いや親だからか? 俺ぁ子供いねーからわかんねーけどよ。いいのか?」
「ああ。思いっきりやってしまえ」
ショコラは口を開けて残念そうな顔で黒スーツの男性を見る。
「おっとっと。そんな顔でみないでくれたまえ娘よ。恥ずかしい」
「あなたは……というか随分勝手では」
小声で黒スーツの男性は言った。
「助け舟を出したんだ。感謝してくれてもいいだろう?」
「勝てるように見えますか? というか誰ですか」
「私かい? 私は通りすがりのおに……なにかだめな気がする。
そうだね。通りすがりの父親さ」
「”通りすがりの父親!”」
「ああ。それと勝てるかどうかだけど勝てるよ。君、強いでしょ。これつけときな」
渡されたのはネックレス。
「オシャレのためじゃない。服の内側に入れておくといいよ。通りすがりのお姉さんに頼まれたのさ」
「通りすがりのお姉さんってまさか……」
「そのまさか、かもね」
「あの、一応言っといてください。近くない!」
「っ、あはは。わかったよ。また会えるかは分からないけど言っておこう」