妖j小fl魔sm精の王
「お前には失望したぞ。ディア・ファルノス」
みるくは聞きたくもない名前に嫌悪感を示していた。
「そいつは俺のうちにある一匹の名前だ」
「そう名乗ったのはお前ではないか」
「今はみるくだ」
円形に広がるの建物。何階建てなのか数えるのも億劫な高さ。一階のみ中央に床がある。それより上、まるでくり抜かれたような円柱型の空洞が天井まで続いている。その先には多彩なガラスが絵を描くように配置されている。光がキラキラと照らしている。空洞を囲むようにフロアが何階層にも分けられている。
一番高い位置に複数のローブをかぶった者たちがイスに腰掛けている。
みるくの会話相手はその中央にいる人物だった。
「なるほど、貴様も人情というのを理解したのか。
信用した私たちがバカだったようだ。最初に魔法少女を連れてきたお前をな」
「結局失敗して廃棄しただろう」
「当然だ。使えないものは捨てる。
チョコはまだだったはずだ。マメがこちらに来る予定だったというのに」
「言うことを聞かなかったのさ」
「気を失わせることくらいは出来ただろ」
「いいチャンスだと思ったんでね」
「遺言はそれだけで十分か?」
「――チョコに手を出すな」
「そいつは無理だ。なんの為に魔法少女を育成していると思っている」
「交渉決裂か。”遺言は”それだけでいいのか? ギウス」
「嘘つきにふさわしい遺言だ」
ギウスは片手を上げる。その手を振り下ろすと同時に隠れていた魔術使いたちが詠唱を始めた。みるくを中心に魔法陣がいくつも重なっていく。
「死ぬといい。チョコは我らがもらう。
転移先を勝手に変えた罪、死で償え妖精の王よ」
「君こそ勘違いしているんじゃないかギウス。
王というものがどれだけ執念深いかをさ」
みるくは魔法陣から魔術使いに向かって疑似回路を生成。そこに電気を流し込んだ。電気は魔術使いの体を巡る。そして心臓は不可思議なリズムを取り持ち主を絶命させた。
「人間ってのは電気信号で心臓を止めることが出来るそうだ。本当だったな」
「……黙っていれば静かに死ねたものを」
ギウスの背後にいる者たちがみるくの前に降り立つ。みるくは鼻で笑った。
「勇者パーティーか。まだ成長しきっていないのに雇われたな。今の俺でも簡単に殺せそうだ」
みるくは、その姿を変えていく。みるくという器を捨てていった。四足歩行の白い獣となる。あのカヴィラモンスターと同じ、いや妖精王の姿へと。
「どんなに醜くともお前を殺す」
みるくが顔をあげるとギウスと目があった。みるくは感情に任せて自分を開放していく。
それは自我を失う暴走という形で現れた。
――――ショコラ。俺は醜いバケモノだ。君が想像してるような可愛らしいものじゃない。いくつもの種族が合成されてしまった妖精の王。あまりにも醜いんだ。この姿を見せないままで居られたのはうれしい。
――数刻後、建物は崩れ、ギウスは距離を取った位置に避難したまま。勇者パーティーの亡骸は瓦礫の下に埋まっている。
風前の灯。白き体毛、美しくも赤い目は光を失いかけている。地面を簡単にえぐるほどの爪は全て剥がされていた。流動体のように流れ続ける体。にもかかわらず一つの剣が背中に突き刺さっていた。
みるくの前に一人の男が立っていた。白きマントが風になびく。
「知っての通り私はイグシス。剣聖だ。
とりあえず死ぬ前に吐いてもらおうか。チョコはどこに転移させたんだい?」
「ふー、ふー……」
意識が朦朧とする。みるくは分かっていた。こうなることくらい。少しでも時間を稼いでショコラに時間を与えたい。きっとすぐに溶け込んで誰も追えなくなる。そう期待した。
「言えよ」
イグシスは何もない空間を掴む。すると白く輝く剣がその手には握られていた。剣がみるくの片目に突き刺さる。
「グァァアアア!」
それでもみるくは言わない。死ぬこともしない。
「騙してて……ごめんな」
「何を今更」
「楽しかったんだ。メルに謝りたいくらいキミといるのは楽しかった。
こんな親も、知り合いもいない世界に転移させてごめん。少しでも長く一緒に居たかった。俺は洗脳されている。唯一出来たことはある程度自由に会話すること、そして一瞬抗うことだけだった。
魔法少女になんてしなければ良かった。一度でも正式に契約してしまったら君の自由は完全になくなる。でも俺が死ねば話は別だ」
「ッッ! しまった……死ぬことが目的だったか。
――もう手遅れ、やられましたね」
ショコラは僕が守る。暴走している中、ずっとこの言葉を胸にみるくは戦った。
――結局俺は……「マモレナカッ」
生命を終えた妖精の鼻先を足で踏み潰すイグシス。軽い運動でも済ませたかのようにため息をついた。
「こんな獣如きにいいようにやられましたね。全く、第一こんな雑魚一匹の為に私を呼ばないでください。汚らわしい獣退治など私は好まない」
「そう言うなイグシスよ。よくやった。
だがいくつもの存在が混ぜられた妖精だと言うのに統一された自我を持ち、反逆までするとはな。驚いた」
「一緒に転移させられた娘たちは?」
「今頃廃棄だろう。一人器としての素質がある」
「一人だけですか。やわな者たちだ」
「うむ。まだ妖精や魔物のストックはある。新たな魔法少女を作るための妖精として合成する」
「哀れな。成功例が出来たにも関わらず、保険で魂に別の魂を混ぜ込まれるとは。器の素質など持たずそのまま廃棄された方が幸せでしょうに」
「お前が言うか。まぁよい。元の仕事に戻るが良い。英雄に最も近い剣聖よ」
「もちろん。あなたの為ではなく魔法帝の為に仕事に戻るとしましょう」
「ふん」
――その頃、ショコラは路地裏にうずくまっていた。
「どこにもいないじゃんみるく。どこ探せばいーのー? なんかお腹も空いてきたし……
んー、旅にでも出ようかな。あんな変な見た目してるんだから聞き込みしながら旅すればいつか見つかるよね!
ちゃんとお別れ言ってないもん。魔法少女を引退したわけじゃないし……変身できるならぜーったい生きてる! どこかにいる! 迷子のみるく捜索作戦開始!」
ぐーっとお腹がなる。
「その前に……お金稼がなきゃ……」