天使【カラー】
家に招いたはいいものの、自分の家がボロボロであることを忘れていた天使族の少女。
「えっと、その……すいません。ボロくて。驚きましたよね」
「お、驚きはしたけど……雨がしのげるだけ最高!」
「雲の上なんですが……」
「うぅ」
「気を使わせてすいません。中はきれいですのでこちらへどうぞ」
その言葉通り、中に入るときれいに掃除されていた。整理整頓、家具の配置まで気を使っているのがよく分かる。
家は二階建て、階段は側面に。木造の内部で窓は丸く位置は高い。広さとしては一人で暮らすにしては広すぎるほど。
机、イス、キッチンと一階だけで一通りの生活が出来る。
「寝室だけ上なのでそちらで寝泊まりをお願いします。
あ、申し遅れました私は天使族のエリィ。年齢も見た目通りです」
「私は雨未ショコラ! こっちはグランのポチグラ!」
「よろしくおねがいします。 ポチグラさんもよろしくおねがいします」
「わふっ!」
尻尾をぶん回しているポチグラ。エリィが気に入ったらしい。さっそくエリィは大きな箱の中から食材を取り出す。
ショコラは箱について聞いてみた。
「その箱はなに?」
「これですか? この白い箱は中が冷えているんです。魔法陣が書き込まれた箱で温度を一定に保っているんですよ。
だから食材が腐りづらいんです。ここは雲の上ですから食料の調達が難しいんです。
我々天使族は人をもてなし、手招きしますがそれは限られた数。私たちはあまり人前には出ないのです」
「え、どうして?
せっかく綺麗なのに……」
「そこが問題なんです。私たちは珍しいですから。
捕まって売られて悲惨な目に会うことがほとんどです」
「でも、背中さえ見せなければ……」
「……」
暗い表情をするエリィ。
「えっと、私は特別天使の羽が小さいんです。みんな翼が大きくて正面から見ても分かるほどで……しまうなんてそんなこと出来ないんです」
「そうなんだ。けどちっちゃいのかわいくていいね!」
「っ、いい、ですか? このちっこい羽が?」
「うん! かわいいよ!」
「褒められたの初めて……えへ」
ズバババババ! っと包丁で料理を手際よくこなしていくエリィ。
「で、できました……けど」
「……ありがとう。すごくうれしいんだけど……
――多くない? 大人三人前くらいあるよ」
「つ、ついっ! 一人分しか作ったことなくて……」
「ううん! がんばって食べる! ねっ! ポチグラ」
ポチグラは勇ましく立ち上がって吠えた。
「ワンッ!」
食後。
「わ、ふっ……」
ポチグラは震えながら歩いていた。そしてソファーの上に横たわると意識を失うように寝てしまった。なんとエリィは少食だったのだ。ショコラも一生懸命食べたのだがポチグラは男を見せることとなった。
満足そうにエリィもショコラもイスの背もたれにより掛かる。ショコラは食事の感想を述べた。
「すごくおいしかったよ! あの黄色いスープ! まろやかでコクがあっておいしかった!
料理上手なんだね」
「ずっと作ってましたから」
「えっと、パパとママは?」
「いません……
おそらく生きてないんじゃないかと……私は拾われの身なんです。みなさんの話では両親は共に地上で……」
「ご、ごめん……」
「両親の記憶なんてないので謝る必要はありませんよ!
結構楽しく生きてるんです!」
それから雑談をしていると満腹感が落ち着いてくる。ショコラはエリィと共にみるくの情報を探しに街をまわることにした。
「ポチグラはどうする?」
「がふっ」
「うん、無理そうだね。いい子にしてるんだよ?」
こくっと頷くポチグラ。
二人は道なりにそって歩く。点々としていた家が増え、人であふれかえるようになる。活気が溢れている。天使族だけに限らず他の種族も多数生活していた。
「あらエリィ。こんにちわ」
センター分けをしている女性の天使族が話しかけてくる。
「メリアさんこんにちわ。
耳が長くてしっぽが長いこんな感じの生き物を探してるんですけどご存知ないですか?」
「ごめんなさい……覚えがないわ。
天使会がこの後あるからそこで聞いてみるのはどうかしら」
「いいんですか?」
「ええ。私たちのかわいいエリィの頼みですもの。
そちらの方は?」
「転移術式に迷い込んでしまったらしく、街の外で出会った為、家に招き入れました」
「あらあらあら。大変だったわね。
何か不便や不憫はない? うちのエリィがご迷惑かけてないかしら」
ショコラは満面の笑みで言った。
「全く! おいしいごはんを作ってもらったし、おしゃべりも楽しかったよ」
「そう。なら良かったわ! あなたも天使会に来る?」
「よく分からないけど行きます!」
「ぜひぜひ! ごちそうを用意しておくわね」
「ごち……ありがとう!」
お腹空くかな……と心配になるショコラであった。
その後、ショコラとエリィは天使会の会場へと足を運んだ。柱は大人が手を回せないほど広く、高さは見上げるほど。それらが一定間隔に並べられ、その内側には机が円状に伸びており、下へ下へと階段のようになっている。ところどころちゃんと下に降りるための階段が用意されている。
中央には演説をするための長い机が用意されていた。
ショコラはそこを見て一言。
「ひっろーい……」
メリアは口元に手を当てて言った。
「多い時には千人ほど集まりますから。天使会と言ってもおしゃべりするだけですからね。
私たちは中立国。戦うことは致しませんし、それが可能な場所に住んでいます」
「へー……やっぱり戦いはあるんだ」
「ええ。無いことが一番ですけれどね。
私たち天使族についてはエリィから聞きましたか?」
「はい。背中に羽が生えてて、ここで暮らしてて、慎重に生きていると」
「そうです。
私たち天使族は神に最も近い種族。その為争い事は禁止、醜い行為を見られることも禁止。常に誇りを持って生きること。
そして私達は神になる為に高貴に生きるのです」
「神に、なる?」
「はい。そう信じられています。
元は神の子孫。いずれ天使の輪が現れ神へと帰る。そう言われてます。
あくまで迷信ですけれど……」
「すごーい! 神様になれるんだ!」
「確証はありませんけどね。けれど私たちはそう信じてます」
「じゃあエリィも神様になれる?」
「……どうでしょうね。私たち自身なれていませんから」
言葉に詰まっていたメリアだったが、エリィもショコラもそれには気づかない
ちょっと練習の為挿絵カラーです。