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双六を教えてしまいました 2

朝、起きたらベッドで寝ていたはずのアリスが隣にいた。

目が覚めたら目の前にアリスの顔があった。

お互いに目が合う。


「うわっ……。えっ……?」

「う……ううん……。……ん?」

「えっ……」

「きゃあああああ。なんでベッドに!?」

「違う違う。床だって。ベッドじゃない」

「ああ、そっか……。おはよう。私、寝相が悪いんだった。落ちたのか」


いや、ベッドから落ちてるの気づかずに寝てるのかよ。

まあ俺も案外、熟睡してたけど。

床で寝るのも悪くない。良い発見をした。

外を見ると、やはりまだ激しい雨が降っていた。


「やっぱ雨か。ああ、適当に俺の服、好きなの選んでいいよ」

「うん」


脱衣所に行って着替えを済ませ、皆で朝食を済ませた後、店の開店前に入り口の掃除をする。


「どうして店の前を掃除してるの?」

「ここは料理を出す店だからね。入り口が汚いと、お客さんは嫌な気分になって入りにくいだろう?だから奇麗にするんだ」

「そっかぁ」


店が始まってお客さんと話してる様子を見た時も……


「トムさん。いらっしゃいませ。今日は何にします?」

「フォーシュと酒」

「分かりました」

「アンナさん。こんにちは」

「ヒカルちゃん。こんにちは」

「アンナさん。ちょっと痩せたんじゃないですか?ダイエット効果が出てきたんじゃないですか?」

「えっ!?そうかなぁ?最近、頑張ってるから効果が出てきたのかな?」

「何にします?いつもの野菜メニュー?それともちょっと誘惑されて肉料理?」

「もう、ヒカルちゃん。ダイエットしてるのに、お肉を勧めないでよー。あはは。いつもの野菜でお願いね」

「あははは。ごめんなさい。野菜ですね。分かりました」


奥に行ったらアリスに話しかけられた。


「ねぇ、さっきより笑顔だね」

「明るい雰囲気でご飯を食べられる方が皆、楽しいだろう?」

「なんで人によって話し方とか変えてるの?」

「常連のお客さんとは、仲良くなってその人の事がいろいろ分かってくるようになるからだよ」

「そっかぁ」


一日中、アリスが疑問に思った事について聞かれ、その度、答えてあげた。


「お疲れさま。アリスも手伝ってくれてありがとう」

「お疲れさまでした。仕事、楽しかった」


その日の夜、寝る前にアリスが話しかけてきた。


「ヒカルにとって、ここは自分の居場所なの?」

「うん。そうだな」

「居場所ってどうやって見つけたの?」

「いいなって思った所にいたら、気が付いたら居場所になってたって感じかな」

「そっかぁ……。私もう少し、ここにいたら迷惑?」

「いいんじゃない?マリオさん達なら反対しないと思うけど」

「ヒカルは私がいたら迷惑?」

「別にいいよ。寝る場所が床になっただけで何も変わらないし。もう明かり、消すよ?おやすみ」

「おやすみ……」


次の日から雨は上がったけど、アリスはしばらく店にいる事になった。

アリスは店の事に興味を持ち、料理を運んだり接客したり掃除をするだけでなく、レインさんの調理場を手伝ったり、幅広い仕事をするようになった。

真面目に働いていて明るい性格な事もあり、レインさん達だけではなく、お客さん達からの評判も良い。

ある日の夜、寝る前にアリスが話しかけてきた。


「たこ焼きってヒカルが考えたの?オセロもトランプも」

「まあ考えたのは俺だけど、作ったのはマリオさんとレインさんだよ」

「たこ焼き誕生秘話も聞いちゃって……。私、感動して涙が出ちゃって……。家族皆で力を合わせて完成させたんだって……それであんな優しい味に……」


うっ、なんか罪悪感が……。

本当に初めてたこ焼きを作った偉大な人に全力で謝りたい……。

誕生秘話を勝手に塗り替えてしまって……本当にごめんなさい……。


「……あっ、いや……そ、そんな……」

「師匠って呼んでいいですか?」


なんで今までタメ語だったのに敬語になるんだよ。

順番が逆だよ。


「い、いや……今までどおりでいいよ」

「師匠。人生とは何ですか?師匠の考えるげえむで人生の答えって見つかりますか?」


何だろうな……。

アリスってなんか放っておけないんだよ……。

俺もアリスも倒れてて、目が覚めたら同じベッドに寝てて……。

俺は自分の居場所を失って目が覚めたら、この店にいて……。

アリスは自分の居場所を探してて気を失って目が覚めたら、この店にいて……。

似てるんだよな。

人生をゲームでか……。

んー……人生ゲーム……?

ん?……双六?


「双六なら……」

「すごろく……?」

「また近いうちに作ってあげるから待ってな」

「おお。さすがは師匠!!よろしくお願いします」


翌日、俺は双六を作った。

仕事が終わり、部屋でアリスに声をかけた。


「アリス。これが双六だ」

「これが……?」

「これがサイコロだ。これを使う」

「さいころ?」

「スタート地点はここ。サイコロには、1~6の出目がある。お互いにサイコロを振ってゴールを目指す」

「わかりました」


アリスの出目は4。

俺の出目は2。

続いてアリスが6。

俺の出目は3。


「私の方が早いですね。私が先にゴールしますね」

「まあそううまくいくかな?」


アリスの出目は1。

このマスには、5マス戻ると書いてある。


「ここに止まると5マス戻るんだ」

「ええ!?そんな、せっかく進んだのに」


俺の出目は2。

このマスには、10マス進むと書いてある。

「ここに止まったから、10マス進む。これは大きいな」

「ええ!?そんなー、ずるいですよ!!」


そして二人ともゴール直前。

アリス。残り3マスというところで6を出す。


「やった!ゴール!」

「違う。3マス多いからゴールから3マス戻す。ぴったりじゃないとダメだ」

「ええ!?」


そして先に俺がゴールし、アリスが続いてゴールする。


「やっとできた……。ゴールできそうで、なかなかうまくいかなかった……」

「サイコロは自分の人生の選択と同じだ。選んだ結果、過去を振り返る時もある。選んだ結果、一気に進める事もある。押し戻されたり進んだりしながら前を向いて生きていくしかない。ゴール直前、手が届きそうでなかなか届かない。そんな時もある。その選択が正しいかどうかは運次第。だけどサイコロを諦めずに振り続ければ、いつか必ずゴールする事ができる。これが双六だ。諦めずに頑張るんだよ」

「感動しました!!師匠、私一生付いていきます!」


……実は、ゴールしたらそれで終わりのつもりだったけど先にゴールされて、ちょっとムカついたから勝手に作っただけで後から付け加えたルールにしたなんて言えない。

師匠と呼ばれてちょっと良い気になって、16歳のくせに偉そうに人生を語ってみたかったのは内緒だ。


こうして俺にとって、初めての後輩従業員が出来た。


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