ジェンガを教えてしまいました 2
「………………」
ど、ど、ど、どうしよう。
何を喋ったらいいのか全然分からない。
頭が真っ白になって何も言葉が出てこない。
ケインのやつ……。
あいつが一目惚れとか変な事を言うから、余計に意識しちゃうじゃないか。
確かにこのベルナデッタって子、めちゃくちゃかわいいけど……。
俺、今初めて会ったんだぞ……。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。
妹のリコ以外の女の子と二人っきりなんて初めてだ。無理。
何も話題を思いつかない。
ふうっ。と、ベルナデッタが少し息を吐いて、口を開いた。
「とりあえず座りません?」
「そ、そうですね……」
二人で向かい合って椅子に座る。
「マリー様の件では、お兄様が大変お世話になりました。私もお兄様がいつまでもマリー様の所へ通う姿を見て心配していましたの。お兄様は、いつまでマリー様を追いかけ続けるのかと思っていましたから」
「まあ……そうですよね……」
「ヒカルには借りがあるし、親友になったのだから何か礼をしたいとお兄様は言いましたわ。そうしたらあなたは、以前私を見かけた事があって、その時に一目惚れしたから私を紹介して欲しいとお兄様に必死に頼み込んだそうですね」
いや、そんな事一言も言ってねえよ!!
あいつ何を言ってんの?
「えっ……いや……」
「お兄様としては、あなたに借りもあるし、あなたの事もとても気に入っています。自慢の親友だと私に説明してくれましたわ。私もお兄様が大変お世話になった人に対して、家族としてお礼を申し上げたかった事もあって、ヒカル様にお会いする事にしましたの」
「あ、いえいえ。それは……ご丁寧に……どうも……」
「ですが私も気になってお兄様に尋ねました。ヒカル様とは、どのような方なのですかと」
「はい」
「お兄様は答えました。ヒカルは、食堂の従業員として働いてる平民で、伝説の遊び人だよ。すごいやつだ。面白くて良いやつだから会ってみてくれと」
……ひどい。
食堂の従業員で平民なのは合ってるけど、伝説の遊び人って何……。
「…………」
「私は驚いて言葉が出ませんでしたわ」
俺も驚いて言葉が出ないよ。
「…………」
「お兄様の親友の方だと言うのですから、どこの貴族の殿方なのかと思っていましたの。平民であった事にも驚きましたが、伝説の遊び人だなんて……。あなたは、どれだけの女性をもてあそんで泣かせてきた最低な男性なのかしら」
「ああ……いや……」
「他の女性はもてあそぶ事ができても、私は騙されませんわ。どうせ私に近づいたのも貴族としての地位が欲しくて結婚したいとかなのかしら?それとも貴族の女をもてあそんでみたいだけなのかしら?お兄様は、あなたに騙されていますわ。もう金輪際、お兄様と会わないでください。縁を切ってください」
「あー……えっと……ちょ、ちょっといいですか?」
「言い訳ですか?どうぞ」
「俺からケインにベルナデッタさんを紹介してくれと頼んだ訳ではないんです。実は今、ベルナデッタさんに初めてお会いしました。ケインに妹がいる事も今初めて知ったんです」
「どういう事ですの?」
「えーと……まあ……。ケインが貴族の女の子を紹介してやるから会ってみろと言ったんです。まさかケインの妹を紹介されるとは思ってませんでした」
見る見る顔が真っ赤になっていくベルナデッタ。
「じゃ、じゃ、じゃあ……!!でもあなたが伝説の遊び人っていうのは、どう説明しますの!?」
「うーん……。そうですねぇ……。まあ詳しく話せばちょっと長くなるんですけど……」
オセロとトランプの遊び方を教えた事がきっかけで店が一気に繁盛し、その評判を聞いたケインが訪ねてきて福笑いにつながった経緯を説明した。
「つまり……あなたは、あなたが考えた……げえむ?の遊び方を教えただけ。そうおっしゃるのですか?」
「はい」
「それで伝説の遊び人……。わ、私は……とんでもない誤解を……恥ずかしい……。本当にごめんなさい!!」
さらに顔が真っ赤になるベルナデッタ。
「あ、いや……。悪いのはケインですよ。誤解するような言い方をして。ベルナデッタさんは何も悪くないです。謝らないでください。ほんと気にしてないですから。誤解がとけて良かったです」
「すみません……。ちょっと体が火照ってしまって……」
「だ、大丈夫ですか?休んでください。ベッドに移動しましょう。俺の肩に捕まってください」
俺は、ふらつくベルナデッタさんをベッドに移動させた。
「ちょっと水をもらって来ますね」
俺は部屋の外に出て、使用人に声をかけて水をもらってベルナデッタさんに渡した。
「ありがとうございます……。お客様にこんな失態を晒してしまうだなんて……」
「いいえ、体調が悪い時は、ゆっくり休んでください。結構長居しちゃったし俺、帰りますね。お大事に」
俺はそのまま帰ってきた。
後日、ベルナデッタさんから俺宛に手紙が届いた。
先日は、お会いしたにも関わらず、さまざまな失態を晒してしまって大変申し訳ありませんでした。体は何ともなく、無事に回復いたしました。ヒカル様の介抱のおかげです。ありがとうございました。お話している途中でしたのに、とても残念に思っています。ぜひまたお会いできないでしょうか?今度は、ヒカル様の考えた、げえむというものを教えていただきたいのです。私、暇を持て余して退屈していますの。何かドキドキするようなげえむがあれば、教えてくださると嬉しいです。
ドキドキするようなゲームか……。
そうだなー。ジェンガとかなら作りやすいかな。
あれはいつだってドキドキするだろう。
「おまえさん、手紙をもらったのかい?ラブレターか?なんてな、ははは」
手紙を読んでいる俺の姿をマリオさんが見つけて声をかけてきた。
「ああ、マリオさん。ベルナデッタさんからまた会いたいって来ました」
「ベ、ベルナデッタ様の方から会いたいだって!?」
「退屈だからドキドキするようなゲームをしてみたいそうです。だからジェンガでも作ろうかなと思って」
「ジェンガ?それは、どうやって作るんだ?」
「木をこれくらいの長さに切って、同じ物を54個作るだけです」
「随分簡単だな。作っといてやるよ」
「助かります。ありがとうございます」
マリオさんが作ってくれた木にいろいろな色を塗ってカラフルにしてジェンガを作った。
そして再び、ケインの屋敷に行った。
「ヒカル様、お越しくださってありがとうございます。先日は申し訳ありませんでした」
「いえ、元気になられたようでよかったです。ベルナデッタさんからの手紙で、ゲームしたいって書いてたので用意してきました」
「ありがとうございます。楽しみです」
椅子に座っていたら、使用人が紅茶とお菓子を運んできた。
紅茶とお菓子を食べた後、机の上にジェンガを出した。
「これは……何ですの?」
「ジェンガといいます」
「随分カラフルなんですね。これをどうするのですか?」
「まずは準備しますね。こうやって全部積んでいきます」
「ええ」
「交互にブロックを抜いて一番上に置きます。それで崩した方が負けです」
「なるほど。分かりやすいルールですわ」
「じゃあ先攻後攻どちらがいいですか?」
「先攻でいきますわ。……抜けましたわ。これを上に置くのですね?」
「はい」
「置けました」
「次は俺の番ですね。……よし」
「私の番ですね。……抜けましたわ」
「俺ですね。……これかな」
「私ですね。……うっ。今のはちょっと危なかったですわ」
「俺ですね。はい」
「ええ!?早いですわね。……これ。あっ、やっぱりこっちを……。はい」
「お、やりますね。はい」
「また!?……手が震えますわ……あっ……なんとかなりましたわ」
「きつくなってきたな。……よし。ふぅ……。」
「まだ耐えるのですか!?……きゃああああああ!!!!」
ガシャン!!
積み上がったジェンガは、一気に崩れた。
「ベルナデッタさんの負けです。これがジェンガです。どうですか?」
「とても面白いですわ!!悔しい!!もう一度やりませんか?」
「いいですよ。今度は先攻後攻どっちがいいですか?」
「次は後攻でいきますわ」
それから俺は、ベルナデッタさんとジェンガで盛り上がった。
「ねぇ、ヒカル様。もっと盛り上げるために私と賭けをしませんか?」
「ああ、罰ゲーム付きって事ですね。面白そうですね。いいですよ」
「勝ったら相手に一つだけ、何でも命令できる。どうですか?」
「いいですよ」
その勝負はめちゃくちゃ盛り上がった。
そして勝ったのは、俺だった。
「よしっ!あー、緊張した!俺の勝ちですね」
ベルナデッタの顔が急に真っ赤になった。
「や、約束ですからね……。何でも命令してくだされば……」
「うーん、考えてなかったなー。何にしよう……。ちょっとパッと思いつかないので保留にしておいて、すごく盛り上がったし、もう1回やりませんか?」
「う、受けて立ちますわ」
次の勝負、勝ったのはベルナデッタだった。
「うわああああ。負けたー」
「や、やりましたわ」
「ベルナデッタさんは、俺に何を命令したいんですか?」
「保留にしておいてくださいますか?お互い、1つずつ相手の命令を聞ける権利を持ってるという事で」
「ええー、あんまり意味がないじゃないですか。じゃあ俺、決めました」
「な、な、なんですの……!?」
なぜかまた顔が赤くなるベルナデッタ。
「今度ぜひ、うちの店にたこ焼きを食べに来てください。美味しいですよ」
「わ、わかりました……。命令なら……仕方ないです……。すみません、また体が火照ってきて……」
「ええ!?大変だ!!早くベッドへ行きましょう!俺の肩を持って」
また使用人に水をもらってきて、ベルナデッタさんに飲ませた。
「はしゃぎ過ぎたのかな……。ゆっくり休んでくださいね。お大事に」
体が弱い人なのかな……?
俺はケインの屋敷を後にした。