表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理想郷  作者: 金柑乃実
9/28

高尾明日香編②

「お、英雄様じゃねぇか」

屋上に行くと、誰かから話しかけられた。

あれは……北仲亮平か。あのゲームのキャラで唯一、わたしがおすすめできないキャラ。

「お前もゲームのプレイヤーか?」

「……は?」

こいつ、知ってるの?いやでも、東郷紗奈の言い方じゃ、ここの人の記憶にはわたしが英雄として入ってるって解釈したんだけど。

「あ、勘違いするなよ。オレは幹部でもなんでもない。だから、何が起こってるのかはまったく知らない」

「意味がわからない」

「お前の前に、オレが覚えているやつだけだと、1人、ここに連れてこられた奴がいる。まぁ、その後記憶操作とかされたけど、そんなもん、簡単に逆らえるってことに気づいてな」

「どうやって」

「日記」

日記に書いて、昨日あったことを確認するってことか。

男のくせに、そんな女々しいことやってたんだ。

「そいつ、この世界が偽物の世界じゃないかって言い出して、それからオレも調べるようになったんだよな。で、今は情報収集の段階ってことだ」

「それって、紗奈様に対する裏切りになるんじゃないの?」

「まぁ、バレればそうだな。退学と記憶消去は当然。最悪、追放」

「それでも、調べてるんだ」

「だってさぁ、おもしろいことねぇし。調べて、オレらが偽物かどうかも知りてぇしな」

「……おもしろい。いいね、協力してあげる」

「ハハッ。前のやつは、お前みたいに図々しくなかったと思うんだけどな」

「その前に、ひとつ聞いていい?」

「あぁ」

「どうして、わたしがあなたたちと同じ人間じゃないとわかったの?」

「まぁ、そうだな。オレの今の記憶の中では、お前は、紗奈様が使えない“転生能力”を使える英雄様だ。けど、日記を見てれば、別の人間も同じような立場でここで生活していたらしい。そいつは男だったし、お前とは全然違う。極めつけは、さっきのだ」

「さっきの?」

「長谷川リンに何か言ってただろ。『どうしたのじゃないでしょ!いきなりゲームの中に連れてこられて!なんなの?!』だったっけ?」

「……よく一言一句もらさずに覚えられるね」

「そういうの覚えるのは得意なもんで。日記書くようになって、さらに鍛えられたしな」

「というか、それ聞いてたんだ。わたしの記憶では、ここには長谷川リンとわたし以外、誰もいなかったと思うんだけど」

「あぁ。あそこ。誰にも見つからねぇんだよな。長谷川リンがそんな細かくチェックするわけねぇし」

北仲亮平は屋上のさらに高くなった場所を指して言った。

「あなたのこと、どう呼べばいい?」

「別に何でも」

「じゃあ、亮平で。わたしのことも、なんでもいいから」

そうして、亮平の“裏切り”に協力することにした。


1週間が経った。

ゲームなら、そろそろクリアするヒントとかアイテムとか出てきてもいい頃なんだけど…。

まさか、これはゲームじゃない……?

いや、それはない。東郷紗奈がゲームだって断言したし。

いやでも、現実の世界でもあるってことも言ってたっけ?

というか、未だにゲームマスターに会ったことないし。誰なんだろう。

「明日香ちゃ〜ん!」

教室に、元気な声が響いた。

「……どうかした?リン」

「これこれ!明日香ちゃんのおすすめのゲーム!なかなか見つからなかったから、お父様にお願いしたら、買ってきてもらえたの!」

そのゲーム、あっちの世界のもののはずなんだけど?こっちにもあるのかな?

「明日香ちゃん、やり方教えてよ!」

「いいよ」

ここでは、ゲーム廃人であることを隠す必要が無い。

なんだろう……。こんなの久しぶりで、なんとなく、居心地がいい。

「名前、なににするの?」

「う〜ん。“リン”!」

「あぁ、この名前、もう使われてるって」

「え〜!じゃあ、“鈴(*>ω<*)”で!」

「顔文字?!」

「えっ、ダメなの?」

「いや、別にいいけど……」

顔文字を名前に使う人、初めてだ……。

まぁ確かに、顔文字を使えば、ほかの人と被らないね。

「あ、紗奈様だぁ」

「ん?」

「ほら、あそこ」

リンは窓の外を指した。

「なんかさ、リンって、幹部っぽくないよね」

「えー!ひどい!」

「だって……ユイも黒滝紅蓮も、澤山和馬、様は知らないけど……、紗奈様を尊敬してるのはわかるけど、ファンみたいなものじゃないでしょ?」

「まぁね〜」

「でも、リンを見てると、紗奈様のファンの子たちと同じ反応に見える」

「明日香ちゃんって、周りの人のこと、よく見てるんだね!」

「あ、ごめん」

「え、なんで謝るの?明日香ちゃんに見られてるって、安心できるじゃん!」

「そ、そう?」

「うん!明日香ちゃん、英雄なんだから幹部になれると思うのに……もったいないよ!」

「紗奈様には考えがあるんでしょ」

「わたしにはわからないけど、おそらくね。紗奈様は、そんな無責任なことができる人じゃない」

この人、ほんとに東郷紗奈のファンみたい。というか、ファンにしか見えない。

なんでだろ?

「あれ?紗奈様、なにかあったなかな?」

「え?」

「ほら、紅蓮様と一緒にいる男の人、あの人も転生できる人だから。ゲームの世界に行って、ストーリーを変えたりしてるから、ゲームマスターって呼ばれてる人だよ」

ふぅん……あの人が……。

「明日香ちゃん!行くよ!」

「えっ、なんでわたしも?!」

「いいから!気になるじゃん!」

いや、それだけの理由で……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ