横田タクミ編エピローグ
目を開けると、見覚えがあるランドセルが、消えていくところが見えた。
……ここは、俺が、“転生”した場所?
慌ててスマホで時間を確認すると、5月15日の4時20分。
ちょうど転生した日の転生した瞬間だった。
ウソだろ……。数日はあっちにいたと思う。
アレは、全部俺の妄想か?
確かに、いろいろと都合が良すぎだった点もある。
じゃあ、北仲亮平と友達になったことも…?
Wi-Fiはないけど、慌ててゲームを開いた。お知らせが来ている。
『体験型シミュレーションゲームへのご参加、ありがとうございました』
というタイトル。まさか!慌てて開くと、
『この度は、体験型シミュレーションゲームへのご参加、誠にありがとうございました。ジュエル1万円分とチケット50枚をプレゼントします。このページよりお受け取りください』
体験型……?いや、あれだよな?あれしかない。
ご丁寧に、『⚠このお知らせは、一度閉じると自動で消えます⚠』って書いてあるし。
つまり、この体験のことは言うなってこと。
プレゼントを受け取って、その画面をスクショしようか迷った。
けど、ここでスクショしてしまえば、この注意書きは意味がなくなる。せっかくできた友達を困らせる事はできない。
せめて、このジュエルで、一生残るアイテムを買おう。
スマホを握りしめ、一歩踏み出すと、足は横断歩道の白い部分へ着地した。
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横田タクミがプログラムを終えてから、1ヶ月が経った。
横田タクミは、プログラムへ参加したことが、まるで夢のように思えてきていた。
しかし、毎日のように、転生した横断歩道を訪れていた。
いつものようにその場所を訪れた横田タクミは、横断歩道を渡っていると、前から走ってきた女性とぶつかった。
「……っ?!」
「あ、すいません」
女性は驚いてタクミを見たが、慌てて走っていった。女性?いや、高校生だ。
制服は……近くの私立高校。どうしたんだろう。
タクミは疑問に思いながらも、足を進めた。
いつも素通りする路地の奥で、珍しくカラスが鳴くのが聞こえた。
それだけなのに、なぜかタクミは興味が湧き、路地を入っていった。
その先で、視界に入った光景に、タクミは言葉を失った……。
人が倒れている。タクミは慌ててスマホで救急車を呼ぼうとした。
119を押して、あと通話ボタンを押すだけだった。
そこまでして、なぜ電話をかけなかったのか?
タクミは、気づいてしまった。倒れていたその男性を、タクミは知っていたのだ。
「……澤山、和馬……?」
途端に、薄れかかっていた記憶が、脳内を駆け巡った。
この男性は、確かにあっちの世界で出会った男性。しかも、東郷紗奈の婚約者だったはず。
「は?……え?ちょっ、待って……」
もうわけがわからない。なぜ、あっちの世界の人間が、しかも、かなりの権力を持っている人間が、こっちにいる?
転生能力があれば頷ける理由もあるが、あの学園で転生できるのは、自分だけだったことも聞いている。
なぜ?わからない。というか、救急車を呼ぶべきなのか?
こっちの世界に彼の戸籍があるわけがない。少なくともこちらでは、ゲームキャラなのだから。
どうする?あっちの世界と連絡の取りようがあるなら、なんとかなる。
でも、そんなものがあるはずもなく。
とりあえず、彼が生きているのかどうかが気になる。
腕をとって、脈を診た。もちろん医学の知識があるわけではないので、アニメの真似だ。
そして、脈が動いてないことがわかった。
死んでいる……。
その瞬間、タクミの思考は落ち着いた。
まず、冷静に現場を見る。周りに店や民家などはなく、人通りがあるとは思えない路地。
そして、彼のあちらでの立場。いなくなったことが長期間隠せるわけがない。
誰かが気づき、なんとかするはず。
タクミは罪悪感があったが、そこを後にするしかなかった。