横田タクミ編②
「てことは、今横田くんが覚えてるのは、名前だけ、ってこと?」
「まぁ、そうなる……ですね」
彼女達がタメだということはわかったが、女子と喋りなれてない俺は、敬語が抜けない。
「超能力のことも?」
「超能力?!」
どういう世界だ、ここは?!
「えっと……順番に説明するね?」
長谷川リンと名乗った女子が、話し始めた。
「横田くんは、この世界でもできる人が少ない“転生能力”が得意なの。自分を、未来とか過去とか異次元とかに転生させることができる超能力。“英雄”っていうのは、“転生能力”や人の行動や心が操れる“操縦能力”などの、“希少能力”を持っている人たちの肩書き」
ちょっと待て。いろいろぶっ飛びすぎてるだろ。
というか、いろいろ聞いたことがある単語が……。
「もしかして、ここって……」
「ん?イースト学園のこと?」
やっぱり……。これ、あれだろ。あのゲームの世界だろ……。
よく考えれば、長谷川リンという名前も、星川ユイという名前もきいたことがある。
星川ユイに至っては、俺の推しキャラだ。
とすると、あの偉そうなやつは……
「さっきの……東郷紗奈様のお父様で、東郷家ご当主の秋彦様が経営なさっている学校よ」
やっぱり、あいつ、東郷紗奈か。
「ちなみに、隣にある学校は……」
知ってる。ウェスト学園。
イーストは超能力者の貴族が通う学校、そしてウェストは一般庶民の超能力者のための学校。
あのゲームでも、どちらの生徒と恋愛をするか選べる。
でも、あのゲームでの俺の名前は、“横田タクミ”ではなかったはず。
……詳しくは言わない。ここで黒歴史を晒す理由もないしな。
しかも得意能力を決める欄では、“瞬間移動能力”にしたはず。
まぁ、あのゲームならやり込んでいるし、これから先うまく立ち回ることができそうだ。
細かいことまで考えると頭がおかしくなりそうだからとりあえず、俺はあのゲームの世界に、リアルの姿で入り込んだ、ということにしておこう。
「ねぇ、横田くん、聞いてる?」
「え、あ、はい?!」
「だから〜、2人もいたら邪魔でしょ?わたしとユイ、どちらについていてほしいか、決めてもらおうって」
ん?これは、あれか?
『星川唯依』のタブを押すか『長谷川リン』のタブを押すかで、この先の未来?が変わったりするやつか?『2人に守ってもらう』という選択肢はあるのか?
「ねぇ、横田くんってば!」
「あぁ、うん、ごめん、なさい」
「もうっ!というか、ユイはなんでこの任務を引き受けたの?!いつもめんどくさがるくせに!」
「別にあんたに関係ないでしょ」
「あっ!もしかして、ユイも横田くんのことが好きなの?!」
「はっ?!バカじゃないの?!誰がこんなやつ!好きなわけないじゃない!」
生ツンデレ……。
「ふ、2人とも、喧嘩はダメだ、です、よ…」
生ツンデレをもっと見たかったが、女の喧嘩は怖いと聞いたことがあるから、これ以上ヒートアップさせないために、止めに入った。
「それで、その件なんだけど、2人で、というのはどう、かな?さ、紗奈、様もそう言っていた、し」
「……横田くんがそれでいいなら…」
「ありがとう、リンちゃん」
小動物のようなリンちゃんの頭を撫でると、彼女はうれしそうに笑った。
ゲームキャラとしては、悪くはなかったけどありきたりすぎてつまらないと思っていた。
でも、実際に会うと、妹みたいでかわいい。
「ちょっと!リンばかりじゃなくて、わたしにもかまいなさいよ!」
「寂しい?」
「ちょっ、調子に乗らないで!別にあんたじゃなくていいのよ!今たまたまあんたが近くにいたから、あんたに言ってるだけなんだから!」
そしてやっぱり生ツンデレの星川ユイちゃんもいい。
とりあえず、なんとかなりそうだ。