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『拠点の不正な消滅を確認しました。二十四時間以内にボスモンスター、ミッドDドラゴンを討伐してください。出来なかった場合、半径百キロ以内の全ての拠点は奪回・獲得されていても元通りボスモンスターの拠点となります』
◇ ◇ ◇
「総理!緊急事態です!」
「イヤ、ここ一ヶ月ずっと緊急事態だぞ」
「そう言うことでは無くて、これを!」
目の前に滑ってきた紙を見るが、ため息しか出ない。
「これは……?」
「ある特定の地域の全員にこの警告が表示されたそうです」
「特定の地域?」
「名古屋市周辺。その説明文の通りですと百キロ圏内のようです」
内容といい、範囲といい、何かの異常事態が進行しているとしか思えない。
「ミッドDドラゴン……なんだこれは?」
◇ ◇ ◇
「もしかして:中○ドラ○ンズ」
「中=ミドル、ミッド、日=デイのD?」
「ありがちじゃない?」
「ネーミングセンス疑いたいが……可能性が高すぎる」
「でしょ?」
「そして……その原因を作ったのが俺たち?」
「はあ……司ちゃんの豪運はどうしちゃったんでしょう?」
「しっかり働いてると思うぞ?異常事態が発生する確率上昇を頑張ってるとか」
ちょっとは休んでほしいものだ。
「それで二十四時間以内にそのドラゴンを討伐しないと、半径百キロ以内の拠点が元に戻る」
「どこから百キロか示していないあたり、いつも通りね」
「普通に考えて、あのドーム球場だろうけど」
地図アプリを開いて半径百キロを確認すると……
「北は石川県にギリギリ到達。東は……県境を越えてあの湖を越える、南は三重県を越え、西は京都に届くのか」
「意外に広いわね。それだけ広いと他にもいくつか拠点奪回に成功しているところもありそう」
「どうだろうな。でも、奪回していたとしたら、相当苦労したと思うから、それが元に戻るのはちょっとな」
「そうね。場所によってボスモンスターの種類も違うから「せっかく苦労したのに!」ってなりそう」
「少しだけ責任を感じてる……なんてことは無いぞ」
「あら、意外」
「だってそうだろ。これって……スマホでゲームしてたらバグってすごいアイテムが手に入った!と思ったら運営がガチギレして「バグを利用したプレイヤーは謝れ!謝らないとリセットする!」って言ってるようなモンだろ」
「そうね……私たち、悪くないわね」
「勝手にバグって、変な動作しだしたから慌ててどうにかした結果がこれって、逆恨みに八つ当たり。俺たち何も悪くない!」
だが、放っておくのも気が引ける。
「仮に、仮にだよ?」
「うん」
「これでそのドラゴンって奴を倒したら、どうなるんだ?」
「現状維持、ってことよね……またなんか激怒されそう」
「で、倒せなかったら」
「あのタワーが拠点に戻る?」
「タワー、全壊してるんだけど」
「それはそれで何か起こりそう!」
勝手に壊しておいて、今度は「拠点となる場所が破壊されていた」とか言い出しそうだ。
「なんか……あの声の中の人が顔真っ赤にしてキーボード叩いてそう」
「成海さん!」
「な、何?!」
「中の人なんていない」
「はい……」
◇ ◇ ◇
「つまり、名古屋市のどこかにドラゴンがいて、それを倒さないと周辺百キロの拠点が元に戻る」
「該当しそうな拠点で奪回出来ているところはあるか?」
「確認中ですが、少なくとも自衛隊などの部隊による奪回は行われていません」
「実質被害ゼロの可能性があるが……それでも巨大な……ドラゴン?ワイ何とかだっけ?それが二ヶ所で確認出来たんだな?」
「はい」
「その二ヶ所……すぐに確認に行けるか?」
「すぐに手配を!」
「はいっ」
すぐに一人が外へ出て行った。
「しかし、そこに何があるんです?いえ、その……拠点になりそうな物があるのは確かですが」
「私の勝手な……希望的観測だが、どちらかに藤咲司が関わっていると思う」
「つまり!もしかして!」
「そうだ。拠点の奪回に成功している。だがその過程なのかその後なのかわからんが、何か想定外の事態、イレギュラーが起きた」
「イレギュラー?」
「そうだ」
「しかし、イレギュラーが……って、それでこんなことが起こりますかね?」
「それはあの声の主に言ってくれ」
それもそうかと全員が押し黙る。
「だが……藤咲司……一体、どれほどのことが出来るんだ?」
両親から聞いている情報とだいぶかけ離れている。
「総理、ランキング一位を見て下さい」
「ん?えーと……何?!」
◇ ◇ ◇
「アレは一体何だったんだ?」
「こっちに来なかったのは良かったが……もしかしたらこれからはあんなのが来るようになるのか?」
ワイバーンが城の天守閣を吹っ飛ばしたのはかなりの衝撃映像で、「それではこれで失礼しますね」が言いづらくなってしまった。いざとなったら強引に脱出してしまえばいいのだが、出来れば穏便に済ませたい。
「あ……雨だ」
「え?」
「まあ、梅雨時だからな」
異形騒動で窓ガラスが一部割れていたりするから、雨が降り出す前に片付けや部屋割りのやり直しをしなければならないと、何人かが声を掛け合って動き始めた。よし、ちょうどいいや。
「えっと……私はこれで失礼しますね」
「「「えっ?」」」
思った通りの反応が。
「その、先を急ぐので」
「イヤしかし、雨も降りそうですし」
「だ、大丈夫です!私、空が飛べるので!そのっ……く、雲の上に行けば濡れませんっ」
割と強引に説得して(?)校舎から出ると、すぐに飛び立つ。これ以上ここにいたらいつまで経っても出発出来ない。つまり、司と合流出来ない。
「おーい」
「おーい!」
声に思わず振り返ると、歩くに支障の無い者が十数名、並んでいた。
「ありがとう!」
「本当にありがとう!」
「君も頑張って!」
不覚にも、ちょっとうるっと来た。
さて、私の飛行能力は雲の上まで行けるのだろうか?
◇ ◇ ◇
「さて、そろそろいいか?」
「斉藤、長い付き合いだったけど、さすがにこれ以上は無理だ」
松下たち六人は斉藤につかず、中井と落合、村上が斉藤側に。
「わかった。さっさと行け」
斉藤の言葉に「え?」と斉藤から距離を置いている六人が拍子抜けしたような声を出す。
「お前らな……俺につかなかったら殺す、なんて言ってないだろ?」
「それは……そうだが」
「さっさと行け、俺の気が変わらないうちに」
「ああ。その……何だ」
「ん?」
「が……頑張れよ……」
「フン」
言いたいことだけ言うと、すぐに背を向ける。
「中井、車を出せ。とりあえずここから離れるぞ」
「え?あ、ああ」
中井がアイテムボックスから車を出して、エンジンをかける。
「どこへ行く?」
「さっきのミッドDドラゴン?アレも気になるが、まずは……ここのボスモンスターを確認だな……あのタワーに行け」
「あれか……上に展望台があるんだっけ?」
「拠点にするにはちょうどいいだろ」
「なるほど」
「それに……どうやら当たりだ。タワーの方からモンスターが来る」
「うげっ!」
「お前は運転に集中しろ!村上!落合!迎撃しろ!」
「えー、斉藤は?」
「ボスモンスター戦に温存」
「ハイハイ……」
やれやれ、と後部座席の窓を開けて攻撃準備にかかる。近づいてくるモンスターはどれもこれも動物園にいる動物がちょっと大きくなって凶暴になったような感じ。おそらく手近なところから調達した、とかそう言うことなのだろう。
「風の魔法レベル一、風刃!」
「火の魔法レベル一、火の矢!」
二人ともそれぞれの魔法レベルは十だが、単体相手にはレベル一で十分……と言うよりも消費MP的にコレが限界だ。
小説家になろうの書報にも載せていただきました。今月末に書店に並ぶ予定です。
なお、感想で「更新頻度が……」と戴きましたが、作者が書籍化のためにやれる作業は終わっておりますのでご安心ください。今頃は印刷所でガッチャンガッチャンやってるんだろうなぁ、という感じです。
あと、今後の更新頻度も変わる予定はありません。




