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  作者: ひじきとコロッケ
七月一日
97/176

(6)

あとがきにお知らせがあります。

  ◇  ◇  ◇




 アイテムボックスに「拠点コア(?)」と表示される何かを取り込んでみたが、周囲の状況に特に変化はない。ボスモンスターが倒されたから新しいモンスターが出ない、と言う状態のはずだけど、そもそもそこらを歩いている骨格標本の数が多すぎて増えてるのかどうかを数えるのは面倒。と言うことで、この場はこのまま放置して移動再開。晴れているうちに空を飛んで距離を稼ごう。

 天守閣の窓から飛び立ち、予定通り東へ向けて進もうとしたのだが、それ(・・)が視界に入ってしまった。

 比較的近くの避難所の惨状(・・)が。

 寿が知る由もなかったのだが、各避難所にはランキング赤の者を調査して移送するように指示が出ていた。だが、移送した後に何があるのか容易に予想できるため、「殺されてたまるか」という斜め下の発想をして、ランキングの申告を偽り、避難所に残った者が少数ではあるが、いた。

 その結果、時間と共に異形と化し、周囲の人々を襲うという悲劇が引き起こされているのである。


「……無理だよね」


 寿の言う「無理」とは……


「黙って見過ごすなんて……無理」


 世界中で起こっていることだから、そのまま見捨てたとしても誰も非難しないだろう。だが、すぐ目の前で起こっていることくらいなら、なんとかしたい。つくづく損な性格だが、それも寿の良いところと言える。

 すぐ近くの避難所は小学校で、校庭に異形の化け物が二匹。逃げ惑う人々に鋭い爪を振るっている一匹に、目一杯ジェットを吹かして飛び込み、右手の刃で首に斬りつける。


「やあっ!」


 手応え有り。そして、コレが元人間だという、イヤな感触に少し身震いする。


「ギャアアアッ」


 壊れた蛇口のように首から血を噴き、悲鳴と共に倒れたところに、バンッと左手の銃が火を噴くと動かなくなった。元人間、という嫌悪感は拭えないが……戦える。戦うしかない。


「もう一匹!」


 こちらを全く意に介さず、逃げ惑う人々を追い回していたもう一匹の背後に駆けて、斬りつける。


「ギャオッ」


 さすがに足を止めたが、振り向こうとする前に思い切り蹴り飛ばす。十メートルほど吹っ飛んでゴロゴロ転がったところを追いかけて頭に銃を一発。


「ふう」


 コレで片付いたかな……ん?

 負傷した警察官が足を引きずりながらこちらに来た。両手が武器だと色々アレなので後ろ手にして元に戻す。


「ありがとう。助かった」

「い、いえ……」

「その……まだ中にいるんだ」

「まだいるの?」

「そこの体育館……あと三に……三()

「わかりました」


 そこら中に倒れている人もいるので、走るより飛んだ方がいいと、体育館へ向けて飛び立つ。そのまま開いている扉から飛び込み、すぐ目についた一匹の首をはねる。

 噴き出した血に周囲から悲鳴が上がるが、それは仕方ない。残り二匹。

 すぐ近くで男性だった物(・・・・・・)に馬乗りになってメチャクチャにしているところを背後から。

 もう一匹はどこに……

 探知確認……真上?!

 見上げると同時に天井に張り付いていた一匹が飛び降りながら襲いかかってくる。

 爪を突き立て、鋭い牙で噛み付こうと飛びついた勢いで押し倒され、頭を床に打ち付けてしまったが……力任せに腕を突きつけ……ダン!ダン!銃声二発で動かなくなった。


「いてて……」


 後頭部が痛い……床に頭の形の穴が開いているところが乙女的にNGねと、反省しながら死体の下から抜け出す。


「助かった……」

「生きて……る……?」


 周りがようやく事態を把握し始めた頃、これまた重傷の警察官が二名、やって来た。


「あ、ありがとうございます」

「いえ、その……まあ、はい」


 とりあえず体育館内の片付けなどは任せて、避難所の運営事務所になっている職員室へ通された。


「えーと……ちょっといいですか?」

「ハイッ!」

「ちょっと着替えたくて」

「あ、ああ!どうぞ!」


 場所の確保が難しいのでトイレで着替えた。

 返り血と爪で引き裂かれてボロボロだったが、体は無傷。実に丈夫な体になったものだ。丈夫な体に産んでくれた両親に感謝?なんか違う?まあいいか。

 タオルを水で濡らして顔と手足を拭き、髪は……ざっと拭いて後で何とかしよう。

 何とか身繕いできたところでお話しタイム。だいたい予想通りの内容を教えてもらった。この避難所は約五百人が暮らしていたが、ランキング赤に約二百人該当。昨日のうちに移動していたのだが、五人が嘘の申告をしており、先ほどの状況に。

 元々、警察主体で運営していて、自衛隊は物資輸送のために数名いただけ。さっきの騒動でもちろん武器を手に戦ったが、全員が生死の境をさまよう重傷だと言う。

 そしてもちろん、警察官も含めて死傷者多数。

 ざっと見た限り、無傷の人は百名ほど。軽傷で済んだのが百名弱。即死、または重傷でおそらくこの状況下では助からないのが百名程と言ったところか。

 そして向けられているのが、期待のまなざし。そりゃそうだろう。アレ五匹を相手に無傷の勝利。これほど頼もしい戦力は無い。だが、


「私が出来るのはここまでです。その、通りかかっただけですので」


 寿の当面の目標は司との合流であって、モンスターがどうのとか、そう言うのはまだ何も考えていない。司と合流し、どうにかして両親の元へ。どうするかというのはそれから決める事、と優先順位をつけている。


「そう……ですか」

「すみません」

「いえ、あなたにも事情はあるでしょうし」


 理解してもらえたようで何より。

 それではコレで、と出ていこうとしたときに、それが起こった。




  ◇  ◇  ◇




 通常、ネットの掲示板にここまで具体性のあることを書き込むと、「嘘だろう」とか「デマを流すな」という情報と「確かにそうなってるな」という情報が飛び交い始めるのだが、

さすがに情報が情報なだけに、不気味なほどに動きが無い。イヤ、そもそも誰も彼もが大忙しの時間帯か。

 とは言え、何らかのレスがあったとしても、これ以上の情報を出す気は無い、と言うかこれ以上出せる情報が無い。


「とりあえず掲示板は昼過ぎにでも様子を見るとして、あと確認するのは」

「えーと」


 成海がステータスの一部を指して何かを言おうとした瞬間、タワーの上の方で爆発音がした。


「何だっ?!」

「今度は何よっ?!」


 轟音と共にタワーが揺れた直後、バリバリとタワーの鉄骨が折れて砕ける音。そして展望デッキの屋根に重量物が落ち、突き破ってくる音。


「うわっ!」

「こっち!」


 成海が司の腕をつかみ、地上へ瞬間移動。だが、まだ回復しきっていなかったため、着地と同時に倒れたので慌てて抱きとめる。

 周囲のゴブリンは……危険を察知して一斉に逃げている。

 そして上空にいたのは、


「ワイバーンって奴か?」


 西洋風ドラゴンから前足を除いた巨体が悠然と旋回し、上体を起こすと展望デッキへ向けて口を開く。


「マズいマズいマズい!」


 ぐったりした成海を肩に担ぎ上げて走り出す。

 直後、ワイバーンの口から炎の固まりが吹き出され、上部の無くなったタワーを直撃。

 展望デッキが映画のワンシーンのように爆発破裂。その後支えを失い、バランスの崩れたタワー下部がガラガラと崩れていくまであっという間だった。


「これ以上の追撃が無い?俺たちを狙っていたんじゃ無いのか?」


 近くのビルの陰から様子を見ていたが、意味がわからん。

 タワーの崩壊を見届けたワイバーンが去って行ったのを見送りながら、何が何だかさっぱりわからないので説明して欲しいと切に願い……その願いが届いたのか、唐突に目の前に半透明のウィンドウが現れた。

 そして大音量でブザー音が鳴り響き、「警告」と書かれた赤い文字が点滅する。


「なんだ……これ」

「うう……何よコレ、頭がガンガンする……」


 まだ回復しきらない成海が不満を口にする。


「えーっと……?」


 とりあえず触れてみたら、表示が切り替わった。




  ◇  ◇  ◇




 窓から見えた光景は……映画のワンシーンのようにしか見えなかった。

 巨大な……全長二十メートル弱のドラゴン……じゃないね、前足が無いからワイバーンね……って、ワイバーンが飛んできたってどういうこと?!


「何だあれは?」「ド、ドラゴン?」と周りが騒いでいる中、ワイバーンは……城に向けて火を吹き、燃え上がったのを確認すると去って行った。

 直後、けたたましく鳴り響くブザー音に「警告」の表示。

 頭の芯までガンガン鳴り響く音に顔をしかめならが「警告」に触れると、表示が変わった。

皆様の応援のお陰で……本作が書籍化されることになりました!


~~~~~~~~~

レーベル UGnovels

運~ハズレ99.99999995%ガチャから始める生存戦略サバイバル

発売日2022年3月30日

ISBN 978-4-8155-6027-0

~~~~~~~~~


イラストレーターは黄ばんだごはん先生。素敵なイラストを描いていただきました!

どんなイラストなのかは……見てのお楽しみと言うことで。




……原稿の校正よりもタイトルを考えるのに一番時間がかかったという、この作者ならではの斜め上な苦労のあった本作ですが、書店にて手に取っていただければと思います。






さらに……



コミカライズ企画も侵攻、もとい進行中です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍化おめでとうございます㊗️
[良い点] 書籍化&コミカライズ企画おめでとうございます。
[一言] なるほど、ワイバーン絡めての警告は書籍化とコミカライズか…流石『声』のやる事は一味もふた味も違う!!すごい!!(何かが違う)
感想一覧
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