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  作者: ひじきとコロッケ
七月一日
94/176

(3)

 とりあえず追撃に移ろうと、成海が司の腕をつかむ。

 そして、「行くよ!」の声と同時に二人の姿が消える。


「グガッ?!」


 距離があるとは言え、いきなり姿が消えたことにゴブリンキングが戸惑ったような声を上げ、負傷した足を両腕で押さえながら立ち上がる。そして、僅かな間に身を隠したと考え、次はどうするつもりだと首を(かし)げつつも警戒は怠らない。いや、怠ったつもりはなかったのである。

 瞬間移動はレベル×百メートルまでの移動が可能だが、レベル二からは同時に誰かを連れて移動することが可能になる。ただし、移動する人数分距離が縮む。ビルからタワーまでは約百五十メートル。高さの差を考慮すると、百五十メートルを少し超えるくらい。二人を移動させるためにはレベル四――二人だと二百メートルまで移動可能――が必要と言うことまで確認し、準備しておいた。

 そして今、ゴブリンキングの背後に移動した二人が同時に金属バットを振り下ろす。


「「おりゃあ!」」


 ゴブリンキングがどの程度の強さのモンスターかはわからないが、司の常時発動クリティカルにより、頭が粉砕された。


『最初のボスモンスター討伐を確認しました。称号『切り拓く者』を獲得しました』


 何か称号を得たようだが、まだ終わったわけでは無い。

 展望デッキ内には召喚されたままのゴブリンが大量。二人の姿を見ると、本能(・・)が刺激されたように襲いかかってくる。


「司ちゃん、ゴメン……」

「まかせろ!」


 やはり魔法系スキルの連打は、一時的に酔ったような気持ち悪さになるのは変わらず。だが、ゴブリン相手に司が苦戦するはずも無い。


「全部まとめてかかって来やがれ!」


 金属バット六代目がうなりを上げ、三分とかからずにデッキ内のゴブリンを全滅させた。そして念のために下へ降りる階段口の前に業務用冷蔵庫を出して蓋をして成海の元へ戻る。


「大丈夫?」

「うん、何とか……うえ」

「まだ無理っぽいな」

「えっとね」

「うん?」

「司ちゃんが抱きつかせてくれたらきっとすぐに「元気そうだな!」


 ブレないなと思う。寿も似たような傾向が見られたが……大丈夫だろうか?色々な意味で心配だが、まあその時はその時だ。




  ◇  ◇  ◇




「全く、アイツらどこに行ったんだ?」


 ブツクサ言いながら大統領が執務室に戻ると、そこには身の丈三メートルはありそうな何かが(たたず)んでいた。


「な、何だ貴様は?!」


 言葉を解しているわけでは無いのだろうが、ゆっくりとそれ(・・)が振り返る。


「貴様!ここをどこだと思


 大統領は最後まで言葉を発することは無かった。デコピン一発で首から上が無くなったからである。


「グルルル……」


 それは満足げに頷き、ゆっくりと一番立派な椅子に座る。


「グア……」


 大統領の椅子の座り心地は思いのほか良かったようだ。




  ◇  ◇  ◇




「無礼な……ここをどこだと思って?」


 目の前に現れたそれに、女王が毅然(きぜん)とした態度で問いかける。

 歴史ある宮殿にいきなり乗り込んでくるとは礼儀知らずにも程があると憤慨し、問い詰めた上で、(しか)るべき対処をすべきだと考えて。

 既に警備を呼ぶボタンは押してあり、数名が室内に入り銃を構えている。


「十数える!両手を頭の後ろに、膝をつけ!」


 警備の一人が叫ぶが、それは全く意に介さないようで、ずかずかと女王に向けて歩みを進める。


「なっ!」

「撃て!」


 惨劇の始まりから終わりまで、三十秒とかからなかった。

 生き残った者が誰かなど、あえて記す必要のないくらいに明確だった。




  ◇  ◇  ◇





「ほう……ここも拠点になるのか」


 目の前に突然現れたそれに対し、そう呟くとゆっくりと立ち上がり、ホルスターから愛用の銃を抜く。


「だが、場所も相手も悪かったな」


 そう言いながら、躊躇(ためら)うこと無く引き金を引く。

 現役時代から全く衰えることの無い腕前から発射された三発の弾丸は正確に眉間と胸部に命中するが、僅かにめり込み、少し血を(にじ)ませただけであった。


「何だと……」


 それが彼の最期の言葉となった。




  ◇  ◇  ◇




「総理、よろしいですか」

「ああ」

「全ての場所より、完了した旨、連絡が入りました」

「そうか」

「……自衛隊員の被害は……ゼロでした」

「わかった」


 穴の中には異形の死体が折り重なっている。

 そのうち数体を、研究のためとして引き上げた後、そのまま埋めてしまう予定だ。


「我ながら……」

「はい?」

「いや、何でも無い」


 考えを巡らせたが、これ以上の策が思い浮かばなかった。こうするしか無かったのが情けない、と続けようとしてやめた。

 姿形が変われども元は国民。

 国家とは国民の生命と財産を守るために成立しており、日本の場合、総理大臣というのはその行政の長であり、様々な責任を負う立場でもある。

 国家が守るべき国民に銃口を向け、引き金を引けと命ずる。そしてその責任を負うのは総理大臣だと告げる。

 言うだけなら簡単だが、言われた方はというと、いくら「責任を負う」と言われても、簡単に「ハイそうですか」と受け入れられるものではない。だからこそ、最初の一発、最初の一人を自らの手で行い、その信念を見せ、あとに続かせた。最も重い責任を負い、非難されるならまず自分を非難せよ、という確固たる意志を持って。

 もう少し時間があればもっと良い方法もあったかも知れないとの思いが頭を離れないが、ここで犠牲となった者たちのためにも、後悔は口にせず、前を向いて進むと決意し、引き金を引いて見せた。


「ここは任せる。すぐに戻るぞ!」

「は、はいっ」


 やるべきことは山ほどある。確認できる限りの拠点候補地の状況、各避難所の状況、他国の状況など。

 そして、藤咲司が動いたかどうか……




  ◇  ◇  ◇




「とりあえずアレは後回しだな」


 拠点となってボスモンスターが出現したと同時にタワー周辺はゴブリンだらけとなっていた。一斉に現れた後の追加は、ゴブリンキングがデッキ内で召喚して、外に追い出すつもりだったのだろうか?今となってはどうでもいいか。

 幸いなことにデッキに通じるエレベーターは電気が無いため動かないからそのまま放置。階段もドアを塞いだから安全は確保出来た。

 ゴブリンの死体だらけという、最悪な環境……イヤ、どういうわけかゴブリンたちの死体が光の粒子になって消えている。今までに無かった現象だ。


「さて、色々あるんだけど……まず、称号獲得してる」

「あ、私も」

「え?」

「え?」

「確か『最初(・・)のボスモンスター討伐』って聞こえたんだけど」

「同時に殴りつけたから同時判定ってことなのかな?」

「うーん……わからん」


 ステータスの称号の説明を読んでみる。


『最初のボスモンスター討伐の証。拠点の獲得が可能。拠点の獲得と同時に領主系スキル『開拓者』へ進化する』


「称号だけど、領主系スキルに進化するみたいだな」

「拠点の獲得……拠点って、これ?」

「だよなぁ」


 ゴブリンキングの倒れたそばに高さ二メートルほどの細長い、八面体が浮いている。ゆらゆらと揺れながら、キラキラと幻想的に光を反射させながら。


「クリスタル……?」

「かなぁ」


 二人とも鉱物の詳しい知識は無いし、そもそも宙に浮いている時点でファンタジーの結晶だ。


「多分これに触るのが『拠点の獲得』じゃないかな、と」

「触ってみる?」

「そうしよう」


 並んでそばに立ち、手を伸ばす。


「一、二の三、で」

「いいわ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 「非情の決断をする」とはまさにこの事。 百人のうち九九人を生かす為に一人を殺す決断をせねばならないのが為政者の役割。
[良い点] いつも楽しく読ませてもらってます [一言] 総理大臣有能すぎる
[一言] 大統領他色々な元首様おつおつー 生き残った国の元首かなり少なそうだなぁ…(笑) そして豪運の効果なのか2人とも称号、凄い!
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