(7)
新千歳空港管制室はさっきまでと違った意味で忙しくなった。
幸い、同じ機体を操縦できる無事なパイロットがおり、地上からのフォローが出来そうなのだが、操縦桿を握ったこともないような素人に操縦させるなど……無謀にも程がある。
「滑走路の状況は?」
「A滑走路なら何とか……先の方に墜落した機体が残っていて距離が厳しい状況ですが」
「真ん中が塞がっているB滑走路よりマシか。よし、消防を待機させろ」
「了解、手配します」
「フォローするパイロットは」
「今呼びに……来ました」
制服に身を包んだ男が一人入ってくる。
「ざっと状況は聞いたが、詳しいことを聞かせてくれ」
「それは今確認中です。こちらの席をどうぞ」
「わかりました……通信はこれで?」
「はい。その、航空機とか無線とか全く知らない方ですので、柔らかめに」
「ははっ、大丈夫さ」
ヘッドセットを付けると通信を開く。
「こんにちは、お嬢さん。私はあなたの乗っている航空会社のパイロットの森山です、どうぞ」
「あ、ど、どうも……はじめまして、こんにちは」
沈黙。
「……あ、どうぞ」
「ご丁寧にありがとうございます。着陸までのフォローを私が行います、どうぞ」
「よろしくお願いします……どうぞ」
どうしても「どうぞ」がぎこちないが仕方ないだろう。
「少しだけお待ちください。そちらの状況を整理しますので、どうぞ」
「はい」
一旦通信を切ると、集まっている管制官に問いかける。
「スマンが、今日の仙台行きのシフトは知らん。機長は誰だ?」
「機長は佐久間信之、副操縦士が内海勲です」
「そうか」
どちらもよく知った名だった。二人とも経験豊富なパイロットだが、いきなり目の前に化け物が出たのでは仕方ないか。パイロットの訓練は機体トラブルや悪天候のシミュレーションは行うが、目の前に化け物が現れたときにどうするかなんて対処方法は教えない。
機体の高度、速度、方角といった情報を確認したところで通信を開く。
「お待たせしました。早速ですが、一つずつ操作をお願いします、どうぞ」
「は、はい!……あ、どうぞ」
「いいですか、ゆっくりで大丈夫ですから……」
「ふう……」
自動操縦のセットをしたところで少し休憩となった。現在、機体はゆっくりとした旋回を終え、新千歳空港へ向かっている。
一息つけるのは五分ほどだが、少しは休みたい。
「大丈夫ですか?」
小倉さんが聞いてくるが、それはこっちの台詞だ。顔色が悪いなんてもんじゃない。
「大丈夫です……今のところは」
機長は……何とか息をしているが、時間の問題だろう。
一日三回更新はここまでです。
後は他の作品同様に週一更新します。
2021/9/19 会社名を消しました