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◇ ◇ ◇
「なんだか色々あるな」
「そうだな」
斉藤たちも声が聞こえた段階で移動を止め、説明の確認をしていたのだが、情報が多いように見えて大したことが書かれておらず、しかも曖昧というところに戸惑っていた。
「直也ぁ、私、どうなっちゃうの?」
斉藤の隣に座っていた村松智美が、肩をペシペシと叩きながら問いかける。
「あ?ああ、そうだったな」
「うんうん。どうなっちゃうのかな」
やや派手な外見に、若干馬鹿っぽい口調の村松は、一応斉藤の彼女である……と本人は思っているが、斉藤がどう思っているのかは疑問が残ると周囲は思っている。それなりに彼女扱いしているようで、かなりぞんざいに扱っているようにしか見えないからだ。
それは、戦闘に一切参加させず、結果として唯一経験値ゼロ、ランキング表示は赤と言う結果からも感じ取れる。何しろ下位一万人の情報が出てきてもそのままにさせているのだ。
「安心しろ」
「ふえ?」
「大丈夫だ。俺の予想では……何の問題も無い」
「そうなの?」
「ああ、大丈夫だ」
「本当に?本当の本当に?」
「俺が嘘を言ったことがあるか?」
「うーん……無いね」
「だろう?」
「うん、えへへ」
斉藤が寄り添う村松の頭をなでている様子だけなら、何か対策があるように見えるが、絶対嘘だな、と周りは思っている。思っていても、自分に被害が及ばなければいいや、と考えている時点でこの集まりがどの程度のものかがよくわかるというものか。
「ところで斉藤、どうするんだ?」
「ん?」
「下位一万人の件は、任せる。で、上位の方は……この中じゃお前くらいしか該当しないだろ?」
「そうだな」
「スキルの進化も明日にならないとわからん。だが、領地システムは?」
「そうだな……領主系スキルの該当者がいるかどうかわからんというのがな」
「ああ。仮に該当者がいた場合でも、どんなメリットがあるのか」
「安全が確保出来るってのはどうでもいいが、食料がどうのと言うのはいいな」
全員が頷きながら思う。安全第一にしたいと。
「狙ってみるか?」
「そうだな。この辺りだと拠点ってのはどこになりそうだ?」
「あの説明だと観光名所とかだよな……」
「観光名所って言うと……やっぱ城?」
「テーマパークはどうだ?」
「あたし、動物園行ってみたい」
「はいはい」
「神社とか有名なのがあったか?」
「博物館とか」
「おいおい、多いな」
「どうする?」
現在ここにいるのは十一人。それだけいると意見もバラバラでまとまらない。だが、あまり遠くに移動するのは面倒なので、程々の場所にしたいところではある。
◇ ◇ ◇
「この塔って、思ったほど高くないな」
関係者が聞いたら激怒しそうなことを話しながら遠目に塔を眺める。
「ボスモンスターが現れるとしたら」
「あの展望デッキ?」
「だろうなぁ」
九十メートルあるらしいから、エレベーターが止まっている現状では上るのはとても面倒くさそうだ。
「一応聞くけど」
「何かしら?」
「あそこで明日の九時を迎えたい?」
「お断りします」
「よし、じゃあ、どこで待ち構えるか……」
「そうですねぇ」
離れた位置からボスモンスターを確認できるビルがあるだろうかと探してみたら、幸いなことに近くにそこそこの高さのビルがあったので入ってみる。
「屋上でこんな感じか」
「うーん、何とか見える、って感じね」
やや見上げる形だが、ここでいいか。
「あとは」
「私、ですね」
赤畑成海 レベル21 (15001/21000)
HP 35/35
MP 63/63
力: 12
魔力: 24(+6)
素早さ: 16
頑丈: 14
運: 18
スキルポイント:7
スキル
追跡者 レベル1
瞬間移動 レベル4
アイテムボックス レベル6
火魔法 レベル5
水魔法 レベル5
「瞬間移動!」
声と同時に、シュンッと姿が消える。
「おお、さすがだな」
瞬間移動のレベルを上げた結果、移動可能な距離が四百メートルに伸びた。双眼鏡で見ると展望デッキから呑気に手を振っているので思わず振り返す。そして姿が消え、真横に現れた。
「ただいま」
「おかえり……さて、どうかな?」
「うん、これなら行けると思う」
火魔法と水魔法のレベルが五あるおかげか、いつの間にか魔力にボーナスが増えていて、MPの最大値が増えた。魔法の連打をするのはキツいが、間隔を開ければなんとかなると言うし、無理そうならボスモンスターとの直接対決は回避すればいい。
そして瞬間移動のレベルを上げて判明した能力も試しておく。この先起こることの予想が出来ているなら、ぶっつけ本番にならないように出来ることは何でもしておこう。
「さて、俺もこっちの準備をするか」
接近戦では金属バット一択だが、離れた位置からの攻撃手段も今回は用意しておこうと、アイテムボックスから色々と取り出す。
一応、野球のボールをバットで打ち出すという攻撃手段も考えたが、野球はおろかソフトボールの経験も無い司にとって、ノックの要領で狙い通りにボールを打つなど、無謀以外の何物でも無い。さすがの豪運補正も明後日の方向へ飛んでいったボールの軌道を変えるのは無理だろうし。
ホームセンター十軒分ほど溜め込んだ資材の中から長さ四十センチ、直径二センチ弱の鋼鉄の棒を取り出し、万力で挟んで固定してから無理矢理曲げていく。司の腕力でもなかなか曲がらないそれを百二十度に曲げたものを三本作り、ドイツの自動車メーカーのエンブレムのように重ね合わせたら幅二センチほどの薄い鉄板を巻き付けてがっちり固定する。そしてそこに荷物の固定用の堅いゴムバンドを束ねてくくり付け、さらに保護用に鉄板をつけて……
「完成!」
「何それ?」
「……多分行けると思うけど、まずは試そう」
外へ出てタワーの下へ向かい、タワー下の公園へ。そして、作ったばかりのそれを左手で握り、右手に直径三センチほどの鉄球を出し、ゴムで挟んでとグイッと引っ張る。
「パチンコ?」
「スリングショットとも言いますね……っと」
バチン!と弾くと鉄球が勢いよく射出される。同時に太いゴムが保護用につけていた鉄板を叩く。うん、コレが無かったら左手はミミズ腫れどころでは済まなかったな。
そして、ガンッという音のした方を見ると、狙いをつけていた道路標識の支柱がポッキリと折れて倒れていくところだった。
「うわぁ……」
「作った俺が言うのも何だけど、エグいものが出来た」
「司くんしか使えないあたり、安全性にも配慮してるわね」
くくり付けたゴムバンドは成海が引っ張ってもびくともしないほどの弾力。これを引っ張れるのは司くらい……イヤ、寿は楽々引っ張りそう……引きちぎりそうだな。
「威力はすごいけど、当たるかどうかと言うと……」
「うーん……司くんの場合、百発百中になりそうだけど」
「はは……でも、障害物があったら当たらないと思う」
それでも、あちこち跳ね返りながら当たりそうだと思ったが成海はあえて口にしなかった。それはそれで見てみたいし。




