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  作者: ひじきとコロッケ
六月三十日
87/176

(4)

「つまり……その……」

「わかった」


 平時であれば為政者として決して下してはならない苦渋の決断だ。


「本日中に……各地で場所(・・)を確保。まあ、各地の自衛隊駐屯地、演習場が候補だな。そして、避難所に逃げ込んでいる者の中で、順位表示が赤の者を明日の朝までに移送。その後、周囲を……武……武装した自衛隊により包囲……明日の午前八時までに全ての準備(・・)を整える」


 国民の生命と財産を守る責を負う者が、その生命を奪うことを指示する。

 前の総理が野党の突き上げとマスコミの集中砲火に会い、解散総選挙を経て新たな総理大臣となって二年。就任当初はぼやけた総理と言われていたが、この濃密な一ヶ月が彼に総理としてリーダーシップを発揮するだけの胆力と風格を与えていた。


「八時に……担当する(・・・・)自衛隊員全員へ私が話をする。それと私の方(・・・)の準備も」

「手配します」


 今までで一番重い空気の中、数人が各所への連絡のために動き出した。


「それと……上位一万人だが」

「議員、閣僚他、知事、市長に自衛隊員など確認出来る限り確認していますが、該当ゼロです」

「ま、それは仕方ない。称号、レベル十のスキル、ユニークスキルについても同じか」

「はい」

「わかった。で、領主だが」

「現在連絡が取れる首長はこちらに」

「結構生きている……そうか、下位一万人の該当者がいるか」

「はい」

「それも仕方ないな。拠点の候補は?」

「条件が曖昧なために何とも」

「世界遺産、国宝、重要文化財……」

「下手をすると渋谷駅前の犬の像すら」

「ありそうだな」


 こうして見ると東京だけ見ても観光スポット、ランドマークが非常に多いとわかる。


「候補になりそうな箇所に監視カメラ設置くらいが限界か」

「そうですね……ただ、今からではほとんど準備は出来ないかと」

「設置済みのカメラが動くならそのまま使う。時間が限られているからな、無理はしなくていい」

「はい」

「だが、モンスターが出ると言うことは……そこから(あふ)れてくるんだろうな」

「周辺の封鎖は無理でしょう。候補が多すぎます」

「さて、そうなるとまずは……」




 今後についての確認と指示出しを終えたところで一旦休憩とし、私室として用意されている部屋に入ると深くため息をついて天井を仰ぎ見る。


「藤咲司か……」


 わずかな時間しか会話が出来なかったが、あの両親の人となりは何となくわかった。そしてそんな二人に育てられた藤咲司は……それなりに……自分なりの正義感で、明日からの状況に立ち向かうだろう。それがどういう形なのか、そしてどんな結果をもたらすか。


「明日が正念場か」


 さて、私は……日本政府は何が出来るだろうか。




  ◇  ◇  ◇




「んー、色々難しいなぁ」


 道の駅で夜を明かし、移動しようとした矢先に知らされた情報をザッと見た寿の感想はいたってシンプルだった。

 寿もそれなりにゲームをやる方だが、今回示された情報は何かを推測するには判断材料が少なすぎる。与えられた情報からわかっていることがタダの悲劇を予告しているだけ。少なくとも司は何の心配も無いだろうし、両親も大丈夫だろうとは思うが……


「例えばあの避難所……どうなるんだろうな……」


 すぐ近くにある小学校が避難所になっているらしく、探知で見ると千人前後がいるようだが、当然そこには下位一万の該当者がいるだろう。見える範囲では自衛隊の車両があるが、どう見ても輸送用トラックで、完全武装した者などいないだろうから、あの映像のようなモンスター相手に戦えるかというと……


「無理だよねぇ」


 あの避難所がどうなるかはとても気になる。だけど、気にしだしたらキリがない。なにしろ世界中で起こることなのだ。そして、これから先もずっと起こるだろう。つまり、いちいち見かけた避難所に関わっていたら、いつまで経っても司のところに行けない。

 気持ちを切り替えて原付を発進させる。さて、今日中に日本一の湖の向こう側に行けるだろうか。




  ◇  ◇  ◇




「で、天守閣の最上階まで来たわけだが」

「今のところ何もなし、ね」

「ここにモンスターが出たとしたら……」

「そもそもお城って攻め込まれにくいように作ってるのよね」

「最初っから中にいた方が戦いやすい……か?」

「いきなりモンスターの群れの中とかイヤよ?」

「俺だってイヤです」


 ボスモンスターと言うからには相当強いはず。

 それがいきなり目の前に現れたら?いくら出てくることがわかっていてもこちらが有効打を与えられないタイプのモンスターだった場合、いきなり詰む。


「成海さん、色々考えよう、試してみよう」

「そうねえ……」


 現状、司のスキルは成長チートのみ。ステータスは人外レベルだが。

 その人外レベルのステータスおかげで、近接物理戦闘は余程巨大なモンスターでも無い限り、どうにか戦える。一方、成海のスキルは遠距離攻撃向き。魔法のレベルこそ上げていないが、レベルと共に上がったステータスにより、威力はかなりのものになっているし、MPも多くなってきていて、何発も撃てるようになってきている。

 短時間で撃ち過ぎると、かなりキツいようだが、そこはうまく立ち回ればいいだろう。


「なるほど……そうね……これなら……うーん」

「どうかな?」

「ああ、もう考えることが多すぎ!司くんもちゃんと考えてね!」

「もちろん」

「あと、一番大事なのは……」

「大事なのは?」

「ここにボスモンスターが出てくるとして、何が出てくるかよ!」

「そうなるよな」


 んー、と成海が少し考えてから口を開く。


「思ったんだけど……」

「何かな?」

「ここ、やめない?」

「え?」


 成海なりに考えた予想でしかなく、正しいかどうかは当然わからないと前置きされた、その予想を聞く。


「まず、ここが拠点になるかというと、多分なると思う」

「城だからな。領主がいるにはいい場所だし」


 観光地だから生活空間としてはイマイチだが。


「でもね、ボスモンスターって何が出るんだろう?って考えるとちょっとなぁって」

「フム」

「ほら、お城でしょ?」

「うん、城だね」

「何となくこう……魔王の城って感じしない?」

「魔王?」

「うん。ほら、織田信長って第六天魔王とか」

「ああ……」

「拠点に出るボスモンスターは、その拠点にゆかりのある人や物にちなんだモンスターになるんじゃないかって考えちゃって」

「なるほど。有りそうだな」

「ね?そうすると、拠点となった場所でも城とか戦場跡とかはちょっと危ないかなって」

「そうだな。モンスターの中でもアンデッド系、とか?」

「それも実体の無いゴーストとか、絶対いると思う」

「上位アンデッドのリッチとか出てきそうだな」

「そう考えたらちょっと……って」


 あり得ない話では無いだろう。

 あの()が何を考えてこんなことをしているのかは全くわからないが、希望を持たせつつ絶望も与えている……いや、むしろ絶望の方が多いくらいか。そうすると、ボスモンスターは特別サービスですとか言いながら、その場所に合わせたトンデモ系を出すくらいのことをやって来るだろう。

 そう考えると日本には危険地帯が多そうだな。戦国時代の城は結構あるし、合戦場の跡地なんてのもある。神社もヤバそうだな。神がかったモンスターとか出そうだ。


「ここは離れよう」

「うん、そうしよう」

「他に行くとしたら……ドーム球場?」

「絶対ダメだと思う」

「だよな」


 あそこをホームにしているチーム名にドラゴンが入ってると言うことは、ドラゴンが出そうだ。ドラゴンに対して振るう武器が金属バット。分が悪いというレベルではない。


「じゃ、この近くにあるテレビ塔にしようか」

「賛成」


 選んだ理由はとてもシンプルだ。周囲が公園になっていて外からよく見える。つまり、ボスモンスターが何かを確認できそうで、おまけに外から遠距離攻撃が出来そうだと言うこと。


「あ、でも」

「ん?」

「ああ言うのって、巨大なゴリラとかよじ登るイメージが」

「それは東京で消化して欲しいな」

「あはは。あ、あとね」

「まだ何か?」

「あの塔、最近名前が変わったらしいよ?」

「マジか」


 それは知らなかったよ。

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