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「それから……」
『ユニークスキルが強化されます。アクティブなユニークスキルで、一定の条件を満たした場合、強化されます』
「スキルレベルが無い代わりに、ってことか?」
「どうなんでしょう?」
「しかも、これ以上の詳細が無いという」
「相変わらずですね」
アクティブなユニークスキルというと……性別転換が該当するのだろうか?
「ま、明日になればわかるか」
「ですね」
全く情報が無いと言ってもいい情報……振り回されっぱなしだな。
「で、これか……」
『領地/領主システムが実装されます』
「実装とか言い出したぞ」
「もうね、何なのよこれ」
『各地にある、名所や遺跡などが領地の拠点として設定されます。拠点となった場所には最初はボスモンスターが配置されます。ボスモンスターは大変強力であると同時に、配下のモンスターを生み出す能力を持っていますので十分ご注意ください』
「ボスモンスターねぇ……」
「何とかリーダーとかキング何とかとかそう言うのかな?」
「多分な。今までそう言うのがいたって情報は見たことないからこそ、実装されるんだな」
『ボスモンスターを討伐すると拠点は奪回した状態になります。奪回した拠点に二十四時間以内に領主の資格を持った者が入り、拠点を獲得すると、その拠点周囲が領地として認定されます。領主が拠点にいる限り、領地内は安寧が保証されます。どのような安寧となるかは領主系スキルの種類、レベルなどの条件により変化します。主な安寧の内容としてはモンスターの発生抑制、食料を始めとする資源の供給です』
「シミュレーションゲームかよ!」
「あはは……」
「奪回まではわかる」
「うん」
「獲得って何だよ」
「何だろうねぇ」
「しかも、拠点にいる限りって」
「自由に動けないのか?」
不便極まりないだろうな。だが、領地内で安寧が保証されるというのは、今のこの世界ではありがたいだろう。
「問題はこの」
「領主の資格ね」
『領主となる資格は次の二つのいずれかとなります。一つ目は領主系スキルを持っている、あるいは相当する称号を得ていること。領主系スキルに該当するスキルは七月一日以降、スキルの説明に記載されますのでご確認ください。もう一つは五月三十一日時点で責任ある立場だった者。こちらは七月一日に領主系スキルが付与されます。どちらの場合もスキルの種類、レベルにより領地の広さ、安寧の内容、規模が変化します』
「領主系スキルねえ……」
「たくさんあるような雰囲気ね」
「スキルは七月一日以降に確認だな。そしてここでも称号」
「先駆者に期待ね?」
「いや、ユニークスキルに進化してしまうらしいんだが」
「あ……」
「進化して該当しなくなるとかありそうだよな」
「うわあ……ありそうだから何も言えないわ」
「で、もう一つの責任ある立場というと……」
「市長とか知事とかかしら?」
「どれだけ生きてんだろうね?」
そもそも生きていたとしても、ボスモンスターを倒すのは大変だろう。そして、誰かが倒したとしても、その連絡を受けて二十四時間以内に拠点に移動するというのも、連絡を取り合いづらい状況下ではなかなか難しそうだ。
「もしも拠点の奪回に成功しても二十四時間以内に領主が入らなかった場合はどうなるんだ?」
「何も書いてませんね」
「ということは……ボスモンスターが現れそうだな」
結局わかったことは……
「下位一万人がどうなるか、上位にボーナスがある、称号やスキルの進化、領地システム」
「しかも、比較的しっかりした情報になっているのが下位一万人だけ。しかも残り時間の間に新しくモンスターが出ない……って感じ?」
「全方位に不親切だが……愚痴を聞きそうに無いしな」
ではこれからどうするか、少ない情報を元に考える。
「ここから一番近い拠点は……」
「あのお城かな……あとはテレビ塔があったっけ?」
「ランドマークとか、観光スポットという意味では拠点候補だな」
領主が拠点から出られないということは一生、観光地となっている城で暮らすのだろうか?大変な人生だな。
「あとはドーム球場があったよね」
「歴史の長い神社もあるな」
「んー……多過ぎ!」
「それらが全部拠点になるとも限らないし……どうするか」
考えたところで正解がわかるわけでもない。
「とりあえず一番近い城に行ってみるか」
「そうね」
◇ ◇ ◇
「通信、繋がりました」
「ああ、ありがとう」
しばらくすると画面に男女二人が映る。
「どうも、こんにちは。はじめまして。内閣総理大臣、小倉健次です」
『は、はじめまして』
「はは……緊張しなくていいですよ。こんな状況ですから」
『そ、そう言われましても……総理大臣を前に緊張するのは、その……』
「ははは」
総理大臣自ら通話開始と同時にどうにか場を和ませようと試みてみたが、総理と直接話すのはさすがに典明も……ある程度想像していたが、当たって欲しくない想像だったので、かなり緊張している。
もっともその隣にいる碧は典明以上に緊張して、固まってしまい、通信遅延でも起きているのかと錯覚してしまうほどだ。
「では早速本題に。息子さんの件です」
『……ランキングの件ですね』
「ええ。まず、息子さんと連絡は取れますか?」
『すみません。無理ですね。どうも携帯を落としたらしくて』
「これですね」
総理がカメラに残骸の入ったビニール袋を見せる。
『……そりゃ無理ですね』
「他に何か手があるか確認したかっただけです。ま、これは仕方ないです。それで……難しい質問ですが、今どこにいるかわかりますか?」
『娘が迎えに行きました』
「はい?」
『娘は息子の居場所がわかる……そういうスキルっていうんですか、そう言うのを持っていまして』
「おお!と言うことは娘さんは息子さんの状況を知っている、と?」
『ええ。今月の頭に一度会っていると』
「なるほど。では……ランキング一位の秘訣というか、コツのようなものは聞いていますか?」
『コツ?』
「ええ。ご存じのようにあと十数時間で……」
『ああ、あれですね』
「完全に回避することは出来ないでしょう。ですが、あのランキングを見る限り、何かコツがあるのでは無いかと」
『えーと……』
典明が通話をミュートにして碧と言葉を交わし頷いてから答える。
『娘も詳しく知らないそうなのですが、レベルの上がりやすくなるスキルを得ていたということです』
「レベルが上がりやすくなる?」
『ええ。モンスターを倒したときの経験値が増えるとか。私たちもこういうのには疎いのでよくわからなかったのですが』
総理の周囲で話を聞いていた大臣や官僚たちから落胆のため息が聞こえてくる。偶然あのガチャで経験値が増えるボーナスを得ていただけとなると、コツも何もあった物ではないからだ。
「なるほどねぇ」
『お力になれず、申し訳ありません』
「いえいえ、ご協力ありがとうございました」
その後、少しばかり言葉を交わして、藤咲司の両親への聞き取り調査は終わった。
「結局収穫ゼロですね」
「全く、期待させておいて……」
そんなことを言い始めた者達を総理が窘めた。
「君たち……ここから出ていけ」
「え?」
「な……ええと……」
「我々が勝手に……そう、実に身勝手な憶測で期待していただけの状況で、こちらの期待通りでなかったからといって、彼らを批判することは許さん。今すぐ出ていけ」
静かに、しかし有無を言わさぬ雰囲気でそう言い放つと、数名が出ていく。それを総理は複雑な心境で見ていた。何か建設的な意見でも述べて反論するくらいの気概はないのか、と。
「さて、今の話も踏まえて、今後の件についてだが……」
「残りの時間で経験値がゼロだった者が死を回避するのはほぼ不可能です」
「だろうな」
新しくモンスターが出ない。それでも日本中探せばどこかにモンスターはいるだろうが、それを探し出して経験値ゼロの者達の前に連れてきて……など、出来るわけもない。




