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  作者: ひじきとコロッケ
六月二十九日
82/176

(2)

「行こう」

「あ、うん」

「では、俺たちはここで」


 ああでもない、こうでもないという無駄な問答を打ち切って、ロビーを通り、外に出たところに三人が追いかけてきていた。正確には殴りかかりそうな勢いの男性とそれを止めようとする女性、仕方なくついてくる若い男性、という感じだが。


「待て!」


 言われて待つ奴はいないと答えようとしたが、


「司くん、マズい」

「クソッ」


 時間には気をつけていたつもりだったが、何だかんだで十分も時間を食ったせいで、時計が八時五十七分を差している。この男の相手をしていなければさっさとヘルメットを被って回避できたはずの事態が……


「五匹出るのかよ!」

「全くもう!」


 五人それぞれの近くで空間がぐにゃりと(ゆが)み……人数分のモンスターが現れた。

 司と男性の前にトロール、成海の前にオーガ、若い男性の前にオーク、そして女性の真上からスライムが。


「くっそ!」


 互いの距離が近すぎる。この状態でトロールに燃料ぶっかけて火を点けたら自分たちも危ないし、燃え尽きる前での安全確保のためにもコンテナは積み上げたい。

 金属バット――六代目――を取り出し、ガツンと叩きつけて距離を取る。成海は……瞬間移動で距離を取っている。瞬間移動(スキル)を見られて大丈夫かと気になるが、今は戦闘に集中しよう。

 さて、コンテナで囲むためには十メートルは離れたいのだが、


「ま、待って……助けっ……」

「うわあ!」


 おっさんに服の裾をつかまれた。


「ひっ!」


 イヤな予感がして慌ててしゃがむと頭の上をブンッとトロールの太い腕が通過する。


「危ねえ!つか、離れろ!」

「イヤだ!死にたくない!」

「離せって!」


 振りほどこうとしたが、思ったよりも力が強く、簡単に振りほどけない。


「うおっ!」


 飛び退()いたそこをドスンと踏みつけてきた。ヤバい、このままじゃマジで死ぬ。おっさんに抱きつかれて死ぬとか絶対イヤだ。

 司のレベルでは、本気を出せば相当な力を出せる。だが、それを普通の人間相手に使ったら、無事では済まないと思って力をセーブしていたが、今はそんなことを言っていられない。


「離せ!」


 服をつかんでいる手首を握りしめる。折れてはいないと思うが、メキッと言う感触と「ぎゃあああああ!」という、あまり聞きたくない悲鳴。握る力が緩んだ隙に、ボスッと腹を蹴り、数メートル飛ばす。生きてる……な。うん、大丈夫みたいだ。

 そしてすぐにその場を飛び退くと、ブンッとトロールの持った棍棒がそこを通過する。さっきからギリギリの回避ばっかりだが、これも豪運のおかげか?


「どりゃあああ!」


 一歩踏み込んで脇腹をフルスイング。トロールが棍棒で受け止めるが、へし折りながら数メートル向こうへ飛ばす。そしてすぐに、近づいてきたオーガの顎に向けてバットを振り上げる。

 ゴキンという感触で崩れ落ちたところで距離を取り、


「コンテナ投下!」

「同じくコンテナ投下!」


 成海と共にコンテナを投下してとりあえずオーガとトロールを囲み、


「今回はガソリン!さっさと燃やす!」

「そこに火魔法……火の矢!」


 そこに襲いかかってくるもう一匹のトロール。だが、


「おりゃああああ!って、うわあああああ!」


 思い切りバットを振り抜いたら、いつも以上の手応えを感じ、何ごとかと思ったら、トロールがくの字に折れ曲がっていて、色々飛び出ていた。いきなり見せられた光景に司が悲鳴を上げるのも仕方ないだろう。豪運さん、抑えて!もうちょっと抑えて!まだスプラッタの耐性はイマイチなんだ!


「司くん!離れて!」

「お、おう!」


 成海の声に我に返ると距離を取り、ジタバタしている――完全にホラー映画の一シーンだ――ところに灯油をかけてコンテナで囲み、火を点ける。


「うわあああ!」


 声に振り向くと、オークにボコボコに殴られた若い男性が倒れたまま手足をバタつかせている。ニヤリと笑みを浮かべたようなオークがトドメとばかりに棍棒を振り下ろそうとしたところで、


「えいっ!」

「とりゃっ!」


 司と成海が同時に金属バットを振り下ろし、頭を叩き潰す。これで残っているのは……


「慶子!慶子ぉぉっ!」


 出来ればおっさんの悲鳴は聞きたくないのだが振り向くと、女性がスライムに覆われて酷い状態になっている。さっき蹴り飛ばされたというのに既に復活しているとはなかなかタフなようだ。


「離れて!」

「く……邪魔するなっ……ぐっ」


 引き剥がそうとすると暴れるので、ボディブローでフラつかせて引き剥がす。


「氷の矢!」


 成海の魔法でスライムが凍っていく。あとは核っぽい丸い物を探してバットの先ですりつぶせば討伐完了だ。


「はあ……はあ……疲れた」

「うん……さすがにちょっと……はあ……」


 どうにか対処できたが、モンスターそのものよりも、この三人の足の引っ張り具合が酷く、余計に疲れた。良く怪我をせずに倒せたものだと運の良さに感謝……って、これも豪運か?


「慶子……慶子、目を開けてくれ!慶子!」

「……」


 どうやらこの二人は夫婦で正解だったようだが、さすがにスライムに一分弱覆われていたせいで、全身が酷い状態だ。


「なんで……なんでこんな目に!なんでこんな目に遭わせた!」

「にらまれても困る。モンスターが出たのは俺たちのせいじゃない」


 時間帯と場所、そして確率。司は毎回確定だとしても一匹だけのはず……多分。残る四人全員分でたのは運が悪かったとしか言いようが無いが、それで納得するとは思えない。

 そしてもう一人の若い男性は……息はしているようだが動かない。


「……生きてるけど……酷いな」

「うん」


 オークに殴られた腕が曲がってはいけない箇所で曲がっているし、口から吐いた分だけではなさそうな量の血でシャツが真っ赤に染まっている。確認するつもりはないが、肋骨が腹を突き破っているとかだったら致命傷だろう。


「はあ……」


 こんなことをする義理はないのだが、仕方ないと腹を(くく)り、アイテムボックスから小瓶を二本取り出す。


「これを」

「なんだこれは?!」

「いつまでもケンカ腰だというなら渡しませんよ?HPを回復させる薬です」

「何?!」

「ですが、完全に治すわけではありません。そして、手持ちはこの二本だけです」


 完全回復薬を渡すつもりはないから、渡せるのは今までに出たHP十%回復薬二本だけだ。


「ただ、正直なところ……これを使っても助からないと思います。使う使わないの判断は任せます。もちろん誰に使うかも」

「司くん、いいの?」

「ああ。その代わり……俺たちに付いて来るな。それがコイツを渡す条件だ」

「本当にそれで治るんだろうな?」

「さあ?どの程度回復するかはよくわからないから、なんとも言えない」


 HP十%回復と言う言葉通りなら、HPの最大値の十%分。レベル一だとHPの最大は二十を超える程度。つまり回復量はたったの二。端数切り上げされるとしてもせいぜい三。これでどのくらい回復するのか……正直、ほとんど回復しないと思う。だが、回復薬であることは間違いないし、助からないと思うとも伝えた。昨日怪我をしていた一人とこの二人、誰にどう使うのかは勝手に判断すればいい。たとえその結果が残酷なものであったとしても。


「成海さん、行こう」

「うん」

「それじゃ、俺たちはこれで」


 コンテナを片付けると原付で走り出す。


「司くん、あれ……助からないよね?」

「まあね。でも、ああでもしないと……ね?」

「わかる」

注:ガチャの結果を全部書いていないのでわかると思いますが、書いてない日に回復薬が出たと言うことで

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで無視しないのかが分からない。 主人公は何に対して言い訳しているんだろう。
[一言] 服を掴まれて、死にそうになったんだから、全く無視でも良かったと思うよ。
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