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  作者: ひじきとコロッケ
六月二十九日
81/176

(1)

 警戒はしていたが、何ごとも無く朝を迎えた。

 インスタントスープにパンという簡単な朝食を摂りながら今日の予定を話し合う。


「今日中に……金の(しゃちほこ)のある城まで行きたいな」

「見ても面白いものではないと思うけど」

「まあね」


 このご時世に観光とかあり得んなと苦笑しながらも荷物を片付けると階段を下りていくと、一階ロビーに三人が並んでいた。昨日怪我をしていた一人はどこかで休ませているのだろう。


「あの、ちょっといいでしょうか」

「はい……」


 中年の男性が一歩前に出てくる。この中ではリーダーなのだろうか?詳しく知りたいとは思わないが。


「昨日の件です。その……昨日は気が動転していてキチンと言えなかったのですが……助けていただいてありがとうございました」

「「ありがとうございました」」

「いえ……その……まあ……はい」


 状況的になんと答えたらよいのやら。


「あの、重ね重ねで申し訳ないのですが……」


 イヤな予感がする。


「わ、我々も連れて行ってくれませんか?」

「お願いします!」


 もう一人の女性が頭を下げる……見た感じ、この二人は夫婦かな?だが、もう一人の若い男性はこの二人の考えに反対なのか、こちらと視線を合わせようとしない。


「連れて……俺たちと一緒に行きたいと?」

「はい」

「えーと……」


 成海が「断れ!」と視線で訴えてくる。いや、言われるまでも無く断るつもりだ。


「俺たち、結構遠くまで移動する予定ですので、すぐ近くの避難所とかならともかく、ずっと行動を共にするのは無理です」

「しかし!あなたたちなら」

「俺たちなら?」

「モンスターと戦えるでしょう!あなたたちの力なら我々を守るくらい簡単に!いや、あれだけの力があるならもっと多くの人を守るべきだ!」

「そうです!力がある者は弱い者を守るべきです!」

「お断りします」

「き……君たちは!そうやって自分の都合だけで!」

「そうです。俺たちの都合だけで行動してます」

「そ、そんなだから!」

「言っておきますが」


 語気を強めて少し詰め寄る。


「俺たちはあなたたちが思っているほど強くない。昨日のは、偶然モンスターが近づいてくるのに気づくのが早かったのと、高い位置から攻撃できたから勝てただけ。地の利って奴です。もしも、ここにいる状態だったら、苦戦するのは間違いなし。下手すりゃ勝てなかったかも。その程度ですよ」

「そんなことはないはずだ!」

「何を根拠に?俺たちが何が出来るか(・・・・・・)も知らないくせに」

「ぐ……」


 高い位置から相手を見下ろす位置というのは、戦いにおいて有利に働くことが多い。重力がある以上、低い位置から高い位置を攻撃するのは不利になることが多いし、高い位置からは相手の動きがよく見えるからだ。

 そして、あえて言わないが、昨日の戦いでは、モンスターたちは一階にいた彼らのことしか見ていなかった。だから上からの攻撃は完全に不意打ちになったのだ。

 それに司と成海の二人が連携出来るから勝てたのだ。司だけではどうしようもないのは明らか。そして成海も一人でコンテナを大量に降らせながら燃料をばら撒いて火を点けて、などはとても手が回らない。そして、ここに人を追加して……も有効性は低い。


「それでもだ!」

「え?」

「君たちは戦う力を持っているんだろう?」

「ま、まあ……多少は……」

「それなら、その力を困っている者のために使うべきだ!違うかね?!」


 力の強い者は力の弱い者を守るべきだ。一般的にはそうだろうが、司たちの状況は違う。ある程度の余裕があることは確かだが、今日を生き抜くための努力をし続けなければならない。相当な力……例えばトロールの集団を軽く吹き飛ばすような攻撃を連射しても息一つ乱さないというのなら他人のことを考えてもいいだろう。この間見たような、モンスターを瞬殺しているような連中なら出来そうだが、今のところは無理。現状では司も成海も、レベル的な意味ではそれなりに強いが、あくまでもそれなり、だ。

 男性が、やれ最近の若い者はとか、責任感がとか言い始めたが、彼の目に二人はどう映っているのだろうか?いい加減うんざりしてきた。


「ちょっといいですか?」

「な、何だ?!」

「俺たちだって必死に生きているんです。あなたたちが俺たちと一緒に行くとして、俺たちのために何が出来ますか?」

「な、何を言っているんだ!さっきから言ってるだろ!力のある者はと!」

「あなたたちを守れと?」

「そうだ!」

「それはいつまで?」

「こ、この状況が落ち着くまでだ!」

「話になりませんね」

「何?!」

「では、お尋ねしますが、この状況はいつ落ち着くんでしょうか?」

「知るか!」

「ということはひょっとしたら十年とか二十年とか?冗談じゃない」

「何だと?!」


 話がかみ合わない時点でこれ以上話すだけ無駄だな。

 感情的に「俺たちを守れ」しか言っていないが、どうせ次は「原付をよこせ」で、その次は「俺たちの分のメシはないのか」、その次が「キャンピングカーで寝させろ」になる。その先はどこまで?考えたくないな。

 昨日の戦闘とか、片付けを見られているだろうからアイテムボックスのことはバレてるだろう。だが、ガチャのことも知られたりした日には、何を言われるか。


「話になりません。俺たちだってここまで必死に生きていて、余裕が有るわけじゃないのに、自分たちは何もしないが守れとか勝手すぎです」

「こ、この野郎!」


 今にもつかみかかってきそうなところを最後の理性で踏みとどまっているような感じになってしまった。が、これ以上付き合う気はない。

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― 新着の感想 ―
[一言] あるある展開
[一言]  もしこれで守ってもらえたとしても、その内やって来ますね。  あのアナウンスの宣言が。  ランキング特定位以下は命が……っての。  守られるだけじゃあ命が無いの、完全に頭から放り捨ててます…
[一言] こういう古いタイプの嫌な奴なら見捨てるのは簡単 子供だけでも助けてタイプを切り捨てることができないとね
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