(3)
ビルの正面に向かって走ってくる一人がアイテムボックスの効果範囲内に入ったところで、
「コンテナ投下!」
コンテナを二つ並べて落とし、さらにその上にもう二つ重ねる。
「こっちも投下!」
左右に一つずつ二段に重ねる。
「後ろも塞ぐ!」
前後左右を二段重ねのコンテナで囲んだところで、
「ガソリン投下!成海さん、火を!」
「火魔法レベル1!火矢!」
恐ろしく重低音の悲鳴を上げながら燃えていくトロールに追撃で工事現場から回収してきた鉄骨を落として叩き潰し、火の通りを良くしてやる。コレで多分、囲んだトロール一匹とオーガ二匹は何とかなるだろう。
そして、囲みきれなかった四匹のトロールとオーガが左右から回り込んできたところに
「もう一回!コンテナ投下!」
さらにもう二つのコンテナ囲みを作って火を放つ。二発目のコンテナ囲みは少し位置がずれ、外にも火が燃え広がってしまったが、周りに燃えそうな物もないし、降り始めた雨ですぐに火が消えることを期待しつつ、
「さらに追加!」
「はいっ!」
残り一匹となったトロールをコンテナで囲んで火を放つ。
「はあっ、はあっ……」
「成海さん、大丈夫?」
「なんとか……それより、倒せたかな?」
魔法連発はさすがにキツかったようで、座り込んでしまう。アレかな、MP切れが近いとこうなるとか、魔法酔いとかそう言うのか?
「んー、よし、倒せたみたいだ」
「よかった……」
今までこんなに魔法を連発したことはなかったのだが、なんだかすごい疲労感に襲われた、と言う。うん、俺が使えるのは偽装くらいで、消費MPが少ないからな、よくわからん。
とりあえず心配なさそうだし、コンテナなんかを回収したい。あとは怪我人も気になる。
「ここで休んでて。ちょっと見てくる」
「うん」
時間的にモンスターの出現タイミングではないし、ヘルメットを被っておけば大丈夫だろうとその場に残して、下りていく。
階段を下りて陰から様子を窺うと、他に仲間がいたらしく、男二人がグッタリしている一人をビルの中に引きずり込んでいるところだった。その後ろから女性がひとり心配そうに見ているが、モンスターが倒されること前提で動いているというのは……こちらがビルに入ってきたことに気付いていたのか?それともあの程度、三人のうち誰かひとりが軽く倒せるレベルだから気にしていなかったのか……無いな。それならさっさと倒していたはずだ。
ま、隠れていてもしょうがないので出るか。
「大丈夫ですか?」
「「「!」」」
そりゃ警戒するよな。でも、モンスターを倒すのに派手にコンテナ落として火を放っているからこちらの存在には気付いているはずだけど。
「失礼ですが、どなたですか?」
「あー、えーと……上、上にいた者です。その……モンスターが来ていたので取り急ぎ退治を」
「そうですか。ありがとうございます」
「いえ。どういたしまして」
「コイツの手当てをしたいので失礼します」
「あ、ハイ」
そのまま階段を上っていくのを見送る。足音からすると、二階のどこかに行ったようだ。
「はあ……」
見知らぬ他人とのコミュニケーションの難しさだな。ご近所さんでもないのに気軽に声をかけるなんて、普通の生活でも難しかったが、この状況下ではさらに難度が上がるか。ヘルメット被ったままとか、見た目が怪しいもんな。
あの四人がこちらをどう思っているかは気になる。と言うか、普通に考えて……反応薄くないか?普通ならもっとこう……な?俺たちが手を出さなかったら四人全員……なんだかモヤモヤするが、指摘して逆ギレされても困る。
もしかして、こちらがモンスターを倒した見返りを要求してくると思っていたとか?ありがちと言えばありがちだが、そう思っている感じでもないし。
なんだか考えがまとまらないまま、コンテナや鉄骨を回収して五階に戻る。
「ただいま。大丈夫?」
「なんとか復活したわ。おかえりなさい。ご飯にする?」
「成海さんや、ご飯はさっき食べたでしょ?」
「あらあらそうでしたっけ?じゃあお風呂?」
「ここでどうやって風呂に入るのさ?」
「じゃあ……私?」
「しょうもないネタが出来る程度には回復したってことか」
「あははは……下、どうでした?」
「うん……」
イマイチだったことを伝える。
「うーん、まあ仕方ないと言えば仕方かも知れないけど……もう少し感謝してくれてもいいわよね」
「やっぱりそう思う?」
「となると、実はとっても強い……無いわね」
「なんでもっと早く助けてくれなかったんだ!とか逆恨みとかされてもイヤなので、警戒だけしておこうかなと」
「賛成」
部屋のドアの鍵も念のためかけておき、外から見えない位置で寝ることにしよう。
◇ ◇ ◇
「今日はそろそろ休みたいけど、どこがいいかなぁ」
季節に文句を言っても仕方ないが、雨のせいで飛ぶ意味が無いため、地上を移動。そして車を使ってみたが、免許取り立てが事故車両の間をすり抜けるのは難度が高く、盛大にこすった。正確には削った、か。
そんなわけで寿の移動手段は原付。某ピザデリバリーが使っている屋根付きのアレなので、雨が降っても濡れないから重宝する。
機械の体でも暗くなると視界は制限されてくる。ライトが内蔵されているわけではないから。それに、一日中移動し続けてさすがに疲れたので、どこかに休めそうなところは……
「ん?またいた」
通常モードの探知にモンスターが引っかかった。二十メートル先にオークが二体。動き的に……誰かを殺した直後のようだ。あまり死体を見たくないが、エンジン音でこちらに気付いてこちらに向かってくる。頼むから獲物を持ったままこちらに来ないで欲しい。
「むー」
左手を構え、シャコンと手首を折ると黒い銃身がススッと数センチせり出してくる。
「食らえー」
ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ
マシンガンほどではないが、拳銃よりはるかに早い連射で撃ち出された四十五口径弾はオークの頭と腹を貫通した。数発外れたがそれは仕方ない。そもそも銃身の長いマシンガンタイプの銃で拳銃弾を撃ちだす時点で色々おかしいし。
現状、自衛隊も警察も拳銃はほとんど使わない。拳銃自体が射程十メートル程度の近距離戦の武器であるため、一撃で仕留められなかったら、すぐに接近戦となる。そもそも人間以上の速度で動くモンスターには、パン!パン!程度の射撃速度ではほとんど当たらないし、目を撃ち抜くくらいでもないと効果が無い。結果、自動小銃を中心とした連射性に優れた銃が中心で、拳銃はほぼ使われていない。だが、試しに寿の武装に使ってみたら装弾数は数百発で、秒間数発程度であるが連射が出来ることが判明。ならば使わないともったいないと、大量にもらった。駐屯地を出るときに返すべきだったかな?今更だけど。
ともあれ、自分で作った弾より威力は落ちるが、数が用意出来ているのはありがたい。その他の欠点は……
「いちいち薬莢が顔に当たるのが鬱陶しい……」
どちらに向けて撃っても当たるという芸の細かさ。何というか、細かいところの嫌がらせが多い気がする。
「はあ……これ……いつ終わるのかな」
世界中の誰もが思うことを口にする。
もちろん、答える者はいない。




