(6)
「お客様、その……」
「まともに歩けるのは私くらいしかいないみたいよ?」
「そう……ですか」
そっと近寄り、機長の様子を見る。かろうじてこちらに視線を向けてくるがその瞳の光はとても弱い。
「あの……これ、どうにか出来そうですか?」
小倉が力なく首を振る。そりゃそうだろう。
だが、だからと言って、ただ指をくわえてみているわけにはいかない。今は何とか飛んでいる飛行機もいずれは燃料切れで落ちる。
必死で生き残った十数人なんだ、最後の最後まで足掻いてみようじゃないか。
「失礼します……よいしょっと」
一礼し、副操縦士を抱え上げる。
成人男性の体重を抱え上げるのは大変だが、ガチャで手に入れた能力のおかげか、なんとか抱え上げて客室まで運んで寝かせる。通路で申し訳ないと一礼してコックピットに戻る。
「小倉さん、私……まだ死にたくないんです」
「それは……私も同じです」
「頑張りましょう!手伝って下さい!」
そう言って副操縦席に座り、ヘッドセットを付ける。血がべっとりとついてくるが気にしていられない。
「あー、えーと、聞こえますか。あれ?どうすればいいんだ?」
通信をオンにしていないので、誰が答えるでもなかった。すぐ横で「これを」と、小倉がスイッチを指さす。
「これ?あ、これで通信をオンにするんですね……あー、あー、聞こえますか?えーとこちらは……何便でしたっけ?」
「2231便です」
「2231便です。誰か聞いてたら答えてください。あ、私は乗客です」
無線通信の手順など一切無視だがそこは勘弁いただこう。この状況で文句を言われる筋合いはない。
「こちら新千歳空港、管制官の中川です。2231便の乗客と仰いましたが、どういうことでしょうか?どうぞ」
どうやら柔軟に対応してくれたようだ。
「えーと、信じられないかも知れませんが、なんか人型のモンスター?がたくさん出てきて大暴れ。死者多数で、その……副操縦士さんは亡くなりました。機長さんは重傷で動けません。まともに動けるのは私だけでして」
返事を待つ……アレ?
「どうぞ、を最後に付けてください」
小倉さんのフォローが入った。仕方ないでしょ、そういうの知らないんだから。
「あ、はいはい。そういう状況です。どうぞ」
「わかりました。もう少し詳しい状況を確認させてください。まずあなたのお名前を。どうぞ」
2021/9/14 会社名を消して便名だけに修正