(2)
◇ ◇ ◇
「色んな会社が入ってるオフィスビル……かな」
「そうね。営業所とか総務とかそういうのだけ集まってそうな感じかしら」
「つまりここにあるのは……オフィス用品だけ。物資回収は意味ないか」
「机とかもそこそこ重量あるけど、モンスターにぶつけるにはちょっと軽いかな」
給湯室にある冷蔵庫なんかは重そうだが、それだって鉄製のコンテナに比べればはるかに軽い。アイテムボックスに余裕はあるが、持っていく必要も無いから放置する。
「どの階もこんな感じだろうな」
「じゃ、五階に行きましょ」
「五階?」
「見晴らしが良いから周りから何か来たときも気付きやすいでしょ?」
「了解」
良かった。ナントカと煙は高いところが好きとかそう言うので無くて。
◇ ◇ ◇
「五階に入ったな」
彼らがいるのは二階。これだけ離れていれば、少々の音を立てても大丈夫だろうという程度には遮音性もあるのでまずはひと安心。
「何者だろうな」
「うーん……この状況下で、外から……つまり移動してきているってのが気になるな」
「外、だもんな」
「もしかして、ヘルメットしていればモンスターが出てこないってのを実践してるとか?」
「どうだろうな。あの情報、その後に検証したって報告が書かれてないし」
「そうだけど……検証中かも」
「あるいは書き込んだ本人とか?」
うーん、と考え込んでしまうが、直接本人たちに問いたださない限り、真相はわからない。
「とりあえず……五階の階段付近の監視を怠らないようにしようか」
「そうだな」
単純に今夜一晩明かす程度なら影響は少ないだろう。
「なあ、そろそろ……」
「あ、そうだな。それじゃ頼む」
「おう」
「気をつけてな」
◇ ◇ ◇
「ん?」
雨が止んできたので少し空気を入れ換えておこうと窓を開けに行った成海が手を止める。
「どうした?」
「あれ……」
成海が指す先を見ると、男女二人がこのビルから出てどこかへ歩いて行くのが見えた。
「このビルにいたのかな」
「気付きませんでしたね」
鉄筋コンクリートのビルでは別の階にいたらそうそう気付かないか。ま、積極的に関わるつもりはないからそっとしておこう。
「どこへ行くんだろう?実はここにちょっと用事があって立ち寄っただけとか」
「んー、何となくですけど、戻ってくると思いますよ?」
「どうして?」
「荷物らしい荷物持ってませんから。多分、どこかで物資の調達をして持って帰ってくるのかなって」
「俺たちみたいにアイテムボックス持ちの可能性は?」
「ありますけどね」
どちらでもいいことなのだが、あの二人以外に仲間がこのビルに残っている可能性もあるし、不意に五階に上ってくる可能性もある。簡単だが警戒のため、階段の足元付近に釣り糸を数本張り、誰かが通過したら派手に空き缶がカラカラと音を立てるようにしておこう。
時計を見ると四時半を少し回ったところ。あの二人がどこに行ったかはわからないが、モンスターに襲われないことを祈っておくか。
「さて、それでは……」
「焼き肉パーティですねっ!」
カセット式コンロの上に鉄板を乗せ、野菜や肉を焼いていく。ジュウジュウと焼ける音とほのかに立ち上るいい香りが食欲をそそる。
「この状況下で何という贅沢!」
「だが、それがいい!」
アイテムボックス内の食材は充分すぎるほどあるので、肉と野菜を焼き、さらに普通なら手の出ない高いタレを付ける。高けりゃいいだろという実にわかりやすい贅沢の仕方だ。もっとも、肉もタレも三割引シールが貼られているものから使っているのは何とも微笑ましくもある。
「今後を考えると、焼き肉ばっかりというわけにはいかないよなあ」
「もう少しこう……いろいろと」
「白い米!米が食いたい!」
炊飯器を出してセットすればいいのではあるが、吸水から炊き上がりまで一時間以上かかるため、近くに他人がいる状況ではちょっと避けておきたい。あと、意外に片付けが面倒だった。アイテムボックスに入れるときに汚れを落とすと言うのが出来ず、水道の無いところで洗うのがなかなか大変だった。何とも謎の多い能力だ。
「ごちそうさまでした、と」
本当なら鉄板を綺麗に洗い流したいのだが、そのままアイテムボックスへ放り込む。アツアツの状態にしておけば次もそのまま使える。油と肉汁の勝利だ。
「さて、情報収集でも」
モンスター討伐スレッド 三十匹目
181 名無しさん
前スレの>>391が言ってたヘルメットの件、検証してみた。
182 名無しさん
>>181勇者現る
183 名無しさん
>>181kwsk
190 181
>>182-189と言ってもあんまり試せなかったんだけどな
それでもトータル十時間くらいやってみた結果だ
結論
確かにヘルメットのシールドを下ろしているとモンスターは出ない
上げていると二十%くらいの確率で出る感じだな
試行回数が少ないが、ヘルメットのシールドしてるだけで出なくなるってのは多分あってる
191 名無しさん
>>181が前スレの>>391と同一人物という可能性
193 名無しさん
>>191それは無いと信じたい
199 名無しさん
>>191乙
バイク用品の店が近くにあったからヘルメット調達してきた
コレで少しは安心かな
201 名無しさん
俺、「安全第一」って書いてあるヘルメットしか持ってないんだけど
202 名無しさん
>>201「ヘルメットのシールド確認」
203 名無しさん
>>201「ヨシ!」
204 名無しさん
>>201「ヨシ!」
205 名無しさん
>>201「ヨシ!」
206 名無しさん
>>201-205 お前ら、仲いいな
「ちょっと降ってきましたね」
「梅雨時だからな」
「窓、閉めましょ」
「じゃ、俺はあっちの窓を」
開けていた窓を二人で閉め始めると、成海が声を上げた。
「あ!アレ!」
「どうした?」
「マズいかも!」
慌てて駆け寄ると、その指さす先にはさっき出ていった二人のうち、男性だけが全身血まみれでモンスターに追われて必死に走っている姿だった。
「何がどうしてああなった?!」
「二人で出ていって、トロール五匹にオーガ三匹……」
「時間!……もうすぐ六時。つまり五時と五時半の二回、出てきた……にしては多い気が」
「野良でうろついてた奴も合流したとか?」
「二人出ていったのに一人と言うことは」
「さすがに二人であの数相手は……」
「クソッマズいな。このビルに入られたら」
「どうする?下に降りる?」
「いや」
屋内で火を使った戦いは避けたい。オマケに今回は相手が八匹。数的不利のある接近戦はもっとやりたくない。
「ここから戦う!」
「了解!」
「俺が正面にコンテナを積む。成海さんは側面を」
「二段重ねよね?」
「もちろん……行くぞ!」
「了解!」




