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「うーん……なんとも言えない感じがする」
「だよねぇ」
本格的な梅雨に入り、かなりの大雨。こんな天候で走るのは二人とも御免被りたいと意見が一致。避難所になっていない小学校に入り込み、昼間は体育館でモンスター出現の検証、夜は教室で過ごすようにしていた。
「体育館の広さは『広い』と認識されるのは間違い無し」
「そうなんですよね」
そこまでは今までに言われてきたままだったのだが、
「ヘルメットのシールドが何ともな……」
「不思議ですね」
二人ともシールドを下ろしていると出てこない。二人ともシールドを上げていると一匹か二匹出てくる。片方だけがシールドを上げていると何も出てこないか、一匹だけ出てくる。
ここまではいい。シールドを下ろしていることが『狭い』と判定されているのだろう。だが、
「俺がシールドを上げていると毎回出てくる」
「私が上げているときは5~6回に一回くらいかな」
偏りがひどいのだ。
「司ちゃん、私、ちょっと怖いことに気付いちゃった」
「え?」
「もしかして豪運スキルの影響なんじゃない?」
「まさ……か……」
成海の仮説はこうだ。
豪運スキルは確かに運をMAXにしている。だが、その運はどこに影響しているのだろうか?攻撃が毎回クリティカルヒットになるのは間違いなく運の影響なのだが……
「ガチャで★1、2が出ないのは豪運の影響ってのは多分あってると思う」
「それは……そうだな。そうかも」
「で、仮説なんだけど、運ってあらゆる確率に影響を与えてるんじゃない?」
「まさか」
仮に豪運が確率を千万倍にするとしたら……
「ガチャの確率は……★5が0.5%、★4が10%、★3は100%越えるから★1、★2が出ることは無いか……ガチャの確率が一番最初のガチャと同じかどうかわからんけど」
「で、モンスターが出る確率が、私の場合で言うと15~20%くらい?」
「俺だと確実に出るってわけか」
今までは何となくヘルメットを防具として常に被っていて、外すのはキャンピングカーの中とか、建物の中と言った『狭い』場所のみ。たまたまそうだったのか、そうなったのも運なのか。
「モンスターの出現条件の変更を要求したい!」
「誰に?」
「うーん……あの声の主?」
豪運さん、いつもご苦労様です。たまには休んでもいいんですよ?
「もしかして……豪運の確率への影響って……」
「ん?」
成海が怖いことを言い出した。
ガチャは、★5、★4、とそれぞれのレアリティごとに出る確率が設定されている。逆に言うと出ない確率を設定しているわけではない。
戦闘時も、クリティカルが出る確率が設定されている。多分、クリティカルの出ない確率は設定されていないだろう。
ではモンスターの出現は?おそらく出現する確率は設定されているが、出現しない確率は設定されていない。
「つまり、確率が設定されているとその確率に影響を与える。コレが運のステータスで、豪運によって最大に設定されるから……」
「モンスターが出現する確率が上昇する」
「そうです!きっとそうですよ!」
「豪運スキルに有休取ってもらえないのかな……早めの夏休みでもいいけど」
やや納得行かない部分もあるが、逆に考えると「必ず出る」と言うのなら「必ず出ないようにする」事も可能と言うことになる……のか?
「モンスターの出る時間帯に広い場所にいるときはヘルメット被ってシールド下ろしていればいいって事だな」
「それがわかっただけでも収穫ありましたね」
掲示板にどうやって情報を流すか悩ましいところだが、何となく流れを読んでノリを合わせて書き込めばいいかな。
ここ数日、泊まり込みに使っている教室に戻り、昼食。そして
「ガチャ実行」
いつものようにカプセルが出てきて、レアリティは★3なのだが、「注意書き:カプセルを開ける前にお読み下さい」という紙も一緒に出てきた。
「なんだ?」
いつぞやの「危険についてのお知らせ」とは違うようだが……
「えーと、カプセルから比較的大きな物が出てきます。広いところで開けてください」
「大きな物?」
「何だろう?」
ガチャから出る★3以上の中には、入手困難だったり高価だったりという物もあるので、大きな物が出るのもあり得るが……
「とりあえず外で開けましょう」
「そうね」
「ヘルメットを忘れずに」
「はーい」
シールドを下ろしていればいいのなら、時間を気にせず外に出られるというのがわかっただけでもありがたい。
「ではカプセルを開けますか」
宣言して、カプセルをぐりっと捻って開けると、ボンッと煙が吹き出して、目の前にズンッと少し重量感のある物が現れた。
「車」
「だな……」
「んー?こんな車、見たこと無いんだけど?」
「だろうなぁ」
ナンバープレートもついているので普通に公道走行可能な状態か。この状況下で車検がどうのこうのいう人はいないと思うけど。
そう思いながら車と一緒に手の中に落ちてきた鍵を眺める。
「何年前の車なのか覚えてないけど、かなり古い車」
「結構綺麗で新車っぽいですけどねぇ」
「その辺がレア、って事なのか?」
レアと言えばレアだけど、コレを今このタイミングで出されてもなと呟きながら、キーを差し込んでガチャリとやると軽いモーター音とともにドアが持ち上がる。
「うわ!何ですかコレ!」
真上に上がったドアに成海が驚きの声を上げる。
「俺も実物見るのは初めてなんだけど……映画でタイムマシンに改造された、レアなアメ車です」
「映画?」
「シリーズで三作も作られた名作ですよ」
反対側のドアも開けるとその特徴がよくわかる。
「この車の特徴、ガルウィングドア」
「うわぁ……初めて見た」
成海が興味深げにあちこち見ているが、
「このタイミングで出てきても困る物のランキングをつくったら間違いなく上位だな」
「それはまあ……そうね」
「オマケに左ハンドルでかなりデカい、取り回しの悪い車」
だが、車の運転自体になれていない二人にとって、役に立つとはちょっと言い難いし、もう少し取り回しやすい車がアイテムボックスに大量に入っている。
と言うことで、アイテムボックスへの死蔵決定。
一昨日は小回復ポーション、昨日は中回復ポーションといい感じのアイテムが続いていたというのに、レアの方向性がおかしいぞ。
最近はデザインだけでワクワクさせてくれる車が少なくなりましたね……




