(3)
「どこだ?!」
「こっちにはいないぞ!」
「こっちもいない!」
そんな声がかすかに聞こえる。
「仕方ない」
こう言う状況こそ……豪運さん、出番ですよ!
「ガチャ実行!」
転がり出たのは……「★4:時間停止ボックス」
「何だこりゃ」
五十センチ四方の箱に取扱説明書付き。
「えーと、中に物を入れてスイッチを入れると中の物の時間経過が一定の間停止します。停止させる時間は三秒から一時間まで設定出来ます。蓋をして指定の時間経過後、箱は消滅します」
初めてマジックアイテムっぽいのが出たが、アイテムボックスの超絶劣化版どころか、かなり微妙なアイテムだった。
「クソ、使い道がない!」
豪運さん!仕事を!仕事をして下さい!……って待てよ?
なに司?時間停止ボックスがアイテムボックスの劣化版で使い道がない?
司、それはアイテムボックスを基準に見ているからだよ。
逆に考えるんだ。「アイテムボックスと違う使い方をするんだ」と考えるんだ。
こう言う使い方はどうだろうかと一つ思いついたので、今のうちに事前の仕込みをしておこうと蓋を開く。空間拡張とかそう言うのは無いようだな。
アイテムボックスから目的の物を取り出して詰め込み、蓋のタイマーを操作。多分十秒でいいな。最後にもう一工夫してから蓋をしてすぐにアイテムボックスへ。これで時間停止ボックスの十秒後はアイテムボックスから取り出すまで訪れない。
そして、仕込み終えたと同時に、近くのエスカレーターのあたりからコレが人間の声かと思うレベルの声が響いた。
「藤咲司!いるのはわかってるんだぞ!大人しく出てこい!」
出てこいと言われて出て行く奴がいるのかね。
「出てこないなら!」
虱潰しに探すのかな。それなら時間がかかるだろうからその間に逃げられるかも。
「手始めに三階のフロアを消す!そのあとは二階だ!」
はい?フロアを消す?どうやって?
そう思っていたら、隅の方でミシミシという音がし始めた。
「まさか……」
思わず伸び上がってそちらを見て数秒。あの大声の宣言通り、三階の隅十メートル四方ほどの床が消え、上にあった物が落下していった。
「どんどん行くぞ!早く出てこい!」
何だ?何が起きているんだ?
司は建築関係には詳しいわけではないが、この規模のショッピングモールは鉄骨とコンクリートをベースに建てられているはず。そしてその床が綺麗さっぱり抜け落ちて、鉄骨がむき出しになっている。手抜き工事でもこうはなるまいと言うほどに。
床は壊されたのではなく、細かく砕かれて落ちているように見えるが、目の前で起きていることなのに、意味がわからない。
そして、驚いている間にもさらにその横の床が消え、上に乗っていた物がそのまま落下する。このままでは本当に三階の床が全部消えそうだ。
「アイテムボックスの回収では床を消すことは出来ない。明らかに違う能力……マズいな」
あの車に乗っていた連中は三階にはいないようだ。そりゃそうか。ここから二階までは結構な高さ。いきなり床が消えて落下したい奴はいないはず。
「とにかく、逃げる一択」
細長い構造のショッピングモールを反対方向へ走り出す。
藤咲司 レベル58 (138/580)
HP 60/60
MP 47/47
力: 53
魔力: 28
素早さ: 48
頑丈: 38
運:MAX
スキルポイント:57
称号
先駆者★★★★★★★★★
スキル
豪運
成長促進
アイテムボックス レベル10
性別転換
ガチャ
偽装 レベル4
解錠 レベル1
ステータスのおかげで完全に人外レベルの速さで駆け抜けるが、
「ヤバい……吹き抜けがあるのかよ……」
アレじゃ階下から丸見えだ。
「いたぞ!」
「あっちだ!」
「バイクを出せ!」
走って逃げれば何とかなるか、と思ったがバイクのエンジン音が聞こえる。こりゃ逃げ切れないか?
「逃がさねえぞ!」
相変わらずの馬鹿でかい声と共に足元の床がぐらつき、駆け抜けたあとに消えていく。
壊しているのではなく……何だろうか、細かい粉末のようになっているようで、下をバイクで走るぶんには邪魔にならないようだ。物を粉砕する能力?だが、その割には鉄骨は残っている。どうなってるんだ?
ええい!今はそんなことより逃げる方法だ!
「アイテムボックスオープン……水投下!」
「うおっ!」
吹抜の下、二階の通路のバイクの目の前にいきなりドスンと数百リットルの水を投下する。ただの水だがいきなり突っ込んだら壁と同じ。一、二秒は障害物として立ち塞がってくれるはず。さすがに一瞬怯んだようだが、
「効くかこんなモン!」
あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!
俺は奴の目の前に水を投下して障害物にしたと思ったら水が消えていた。
な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのか、わからなかった。
頭がどうにかなりそうだった……アイテムボックスだとか高温で蒸発だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。




