(5)
生きているのは十数名。しかも、だいたい重傷を負っている。
ほぼ無傷なのは私だけみたい。血まみれでとても無傷に見えないけど。まあ、無傷と言っても……スマホが踏み潰されてしまったのは痛い。買い換えたばかりなのに。
「これから一体どうなるんだ」
「しっかりして!目を開けて!」
ホント、どうなるんだろう。
傷がひどくて立ち上がることも出来ない状態のCAに聞いて、タオルを手に席に戻る。
「お帰り~」
「うん、ただいま。濡れタオルがあったから拭いてあげる」
「ん、ありがとう」
顔を拭いてやるといくらかマシになったが、首や腹の傷はどうにも出来ない。
「ねえ、スズ」
「ん?」
「どこにいるの?」
「ここにいるよ?」
「どこ?」
ここに、と言い掛けて気づいた。目の焦点が合っていない。出血のせいで意識もはっきりしないんだろう。
「寒いよ……ねえ、お母さん……どこ?……これ……あ……」
ヒュッと細い息を吐き……それきりだった。
そっとまぶたを閉じてやり、手を合わせる。何だかひどい最期だけど、せめて天国とか極楽とかそういうところに行かせてやってくださいと、何かに祈る。神様?仏様?何でもいいから、お願いします。
気を取り直して立ち上がり、機内を前に進む。さっき声をかけたCAは……もう動かなくなっていた。
どんどん命が奪われていくこの理不尽。一体何が始まったんだろうか。途中、洗面台があったので鏡を確認。うわ、髪も顔も血まみれ。タオルを数枚持って行こう。
やがて先頭……コックピットの前までたどり着いた。
普通ならあり得ないことだが、ドアが開かれていて、声が微かに聞こえるのでそっとのぞき込む。
一人の男性CAが機長に手を添え、必死に何かをしている。
「回復……回復……全然効かないじゃないか……機長、しっかりしてください!」
「あの……」
「あ、ああお客様、えと……これは……」
小倉英司と名乗ったこのCAは、例のガチャで「回復レベル一」が出たのだそうで、負傷した機長に必死に使っていた。
使う前に落ち着いて確認すれば良かったのだが、「回復」は麻痺や毒などの状態異常を直すスキルで、傷を治す効果はない。それでも多少は「負傷」という状態異常が癒やされるのか、機長の表情は少しだけ和らいでいる。
その機長はと言うと、左腕はあり得ない方向にねじ曲がり、完全に動かない。そして、胸から腹にかけて大きく切られていてひどい状態だ。
小倉も右腕と右足が折れているが、今のところ命に別状はない。だが、重傷なのは間違いなく、痛みで顔が引きつったままだ。機長はかろうじて生きているが、副操縦士はほぼ即死。まったく、命が簡単に奪われる場所だ。