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◇ ◇ ◇
「ランキング表示が変わったな」
「ここにいるのはほぼ全員が赤、ですね」
戦闘はSP頼みだから大半の大臣たちは経験値ゼロのまま。だが、そのSPも今回のスライムでかなりの犠牲が出ていて、治療のために席を外している。もちろん犠牲はSPだけに留まらず、今後のことも考えなければならない。
「ランキングの表示、右上を見てみろ」
「右上?あ……」
「追加されたな」
声が聞こえる前までは自分の順位が表示されていただけだが、そこに分母がついた。
4356182943/4521983264
「この分母が生きている人数だとして……俺が赤表示と言うことは」
「まさか……」
下位一万人というのをどうやって決めるのかと言う答えが多分これだ。
単純にランキングを逆向きに並べたとき、モンスターを一切倒していない経験値ゼロが一万人以上いた場合、二つのパターンが考えられる。
一つ目は経験値ゼロの中から一万人をランダムに選ぶ。そしてもう一つは……
「逆順ランキングで一万位までの全員が対象……」
「つまり、経験値ゼロは逆順ランキングで全員一位だから、全員が対象か」
「だとしたら、このままでは億単位の人間が……」
「この懸念、すぐに流せ」
「わかりました!」
全世界で一万人の犠牲は受け入れざるを得ないのだろうが、それ以上の犠牲は一人でも減らさなければならないと、あわてて情報を流し始める者達を見ながらもう一つの事実には今は触れないでおく。
こうしている間にも分母がすごい勢いで減っていることには。
◇ ◇ ◇
「フン、この程度か」
斉藤の足元でスライムが煙を上げながら縮んでいく。
「斉藤、無敵だな」
「まあな」
言われて悪い気はしないらしく、顔を背けた。照れてるのだろう。
「そっちはどうだ?」
「ダメだな」
立ち位置が悪かったのか、とっさの判断を誤ったのか、三人がスライムに包まれ、どうすることも出来なかった。全身くまなく覆われたせいで、まともな皮膚が見当たらないし、口や鼻から侵入されたらしく、呼吸が出来ておらず、ガクガクと震えている。意識があるかどうかは微妙だ。
「……助からん奴を待ってても仕方ないな」
「え?」
「ちょ、ちょっと待て斉藤!」
「待たん」
倒れたままの三人がゴフッと血を吐き、動かなくなった。
「おい!いくら何でも!」
「うるせえ!お前も死ぬか?!」
全員が黙ったままの中、「行くぞ」と斉藤が車に乗り込むと、他の者も仕方なく続いた。絶対的強者である上に、どういう能力なのかわからない以上、機嫌を損ねるのも逆らうのも得策ではないと、諦めて。
◇ ◇ ◇
「百万単位で分母が減ってるな」
「スライムの犠牲者が次々に、って感じでしょうか?」
「多分ね」
確認できていないが、日本の正午に合わせて世界中で一斉に起こっているとしたら、地域によっては深夜帯。寝ているところにスライムが降ってきたらひとたまりも無いだろう。
「日本が恵まれているんだろうか」
「これが司くんの豪運の効果だったらすごいと思います」
そこまで仕事熱心かね、このスキルは。
「スライムか……金属バットで叩くのもギリギリっぽいな」
「地面に落ちたスライムならいいですけどねぇ」
「そうなんだよな。いきなり頭の上から降ってきたらどうにもならな……イヤ、それこそ豪運で回避出来るのかな?」
「試してみます?」
「やめとく」
「そうですか……ところで」
「何でしょう?」
「私はいつまで正座していればいいのかな?かなーり足が痛いんだけど……」
「表情が反省してませんよね」
「うぐ……」
改めてランキング表示を眺める。確か世界の人口は七十億以上だったはず。現時点で四十億以上生きているというのはちょっと意外だ。
「結構生き残っている人が多いな」
「それはアレでしょ」
「ん?」
「ほら、国によっては銃の所持が認められている国もあるし」
「あ、そうか」
銃器の所持が認められているどころか、各家庭に常備することが義務づけられている国もあったように記憶しているし、国民に兵役の義務を課している国もある。そうした国はモンスターが出たときに冷静に対処出来る者が多いのだろう。そして、トロールのように厄介なモンスターも、ファンタジー……というかTRPGの本場ヨーロッパなんかでは弱点については有名で、対策しやすかったのかも知れない。
だが、さすがに今回のスライムは銃をぶっ放しても簡単には倒せない。今までとは違う対策を立てなければならないため、苦戦しているのだろう。
「金属バットで片付くなんて、豪運に感謝しかない」
つくづく、このスキルを手に入れて良かったと思う。時々仕事をしていないような気もするが。
今回ちょっと短いですが、話の区切りがちょうどこの辺なので……




