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十一時五十分の時点で原付を止め、少し距離をおいて立つ。
「二十日目になったとか、三十日まであと十日とか、そういう理由で何かありそう」
十五日に何も無かった分、二十日は何かやってきそうだと警戒する。そして、予想通り声が聞こえた。
『いよいよ七月一日まで十日となりました。最下位一万人に該当する方の名前は赤く表示されますので、参考にしながら励んでください。また、モンスターの種類を増やします。出現タイミングも変更しましたので、頑張って生き延びてください』
目の前にでてきた物が何かを確認するより早く、司は金属バットを振り下ろす。
ガキンと地面をバットで叩く音と、ジュッという音のあとにいつものアナウンスが入った。
『最初の討伐を確認しました。称号『先駆者』を獲得しました』
そろそろ誰か他の人が獲得しそうだと思ったのだが、そうそう簡単なことでは無いらしい。
「今回はスライムか……」
「スライムって物理攻撃が効きにくいって、事典に書いてありましたけど」
「そうなんだよな」
司としては適当に振り下ろしているだけなのだが、それが正確にスライムの急所、核の中心を捉え、正確に叩き潰していた。
「こう言うところは豪運が仕事してるんだな」
「え?何か言いました?」
「独り言です」
成海はスライムに氷の矢を撃って固めてから叩き割っていた。
危なげない戦いだが、司より一手多くなる。この辺りが先駆者を獲得出来るかどうかの違いだろう。
「種類が増えるで、スライムか」
「スライムにも色々いますからねぇ」
某国民的RPGによって、日本人の多くがスライム=雑魚という認識を持っているが、実際にはアメーバを思わせる粘液の体で、物理攻撃がほとんど通用しないというのが一般的――ファンタジーと言う想像の産物に一般的も何もあったものではないのだが――と言われる。そして、天井などに張り付いていていきなり上から覆い被さるように襲う上に、毒や酸などを分泌したり、呼吸器官を塞いだりして相手を仕留める、実に厄介なモンスターである。
コレは、避難所とか地獄絵図になってるんじゃ無いかと司が少し不安に感じていたところに成海が声を上げた。
「あ!」
「どうした?!」
「もしかして……」
「も、もしかして?」
「服だけ溶かすスライうがっ」
デコピンでのたうち回る姿を見ながら、今日は男の姿で良かったと心の底からそう思った。




