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  作者: ひじきとコロッケ
六月十九日
65/176

(2)

「いやはや、すごい物を見せられたな」

「ええ」


 南棟に現れたゴブリンは複数と言うよりも群れ。誰も数えなかったが三十以上はいたはずだ。


「ゴブリン相手に後れを取るような事は無い、そう思っていたんだがあの状況はな……」


 避難している住民たちの中でも負傷していて満足に動けない者が多い場所に現れたこともあり、大勢の人の間をゴブリンが駆け回ってやりたい放題では、銃も刃物も気軽に使えない。

 だが、寿は床から二メートルほどの高さで飛び回り、正確にゴブリンの頭だけを切り裂いて回った。飛行スキル無しでは出来ない芸当だ。


「そして強敵トロールとオーガ……」


 建物内ではむやみに火が使えないこともあり、銃と警棒にポリカーボネートの盾でなんとかしのいでいたところに、寿が飛び込み、素早くオーガの首を()ね、トロールを体当たりで窓の外へ吹き飛ばした。

 外に出してしまえば火を使うのも自由。後の始末は自衛隊と警察に任せたが、終わってみれば、軽傷者が数名出ただけで、死者ゼロで片付いた。

 一方、その立役者たる寿の戦闘力は屈強な自衛隊員たちが「マジか……」と自信を喪失しかけつつ、「あんな小さな子に出来ることが俺たちに出来ない道理がない」と妙な方向で奮起させる結果となった。寿が既に十八の大学生であることを伝え忘れた典明は、言い出すタイミングを失したと反省したが、別に言わなくてもいいかと思い直した。伝えても伝えなくても何も変わらないし、奮起するのは悪いことではない。




 だが、モンスターの死体を片付け終えたところで、避難住民を代表して、数名が事務所にやって来た。


「わかりました。配慮します」


 その場をなんとか取りなしたが、面倒な事になったと佐々木とその部下たちが頭を抱えることになった。


「ゴブリン程度なら私たちでも倒せます」

「私たち、このままでは最下位一万人に含まれてしまいます」

「そのあたり、配慮いただけませんか?」


 生き延びる術を得たと同時に、死に至る一歩を踏み出させてしまったというわけだ。


「これからは、モンスターの種類、数と状況の見極めが必要か……」


 寿の戦闘力が自衛隊の一個小隊を軽く上回るのは間違いない。だが、強すぎる力は時として問題を引き起こすのは歴史が色々と証明している。とりあえず本人にきちんと説明しておこうと、藤咲一家の元へ向かった。




「そうですか。そんなことが」

「はい。お嬢さんの戦力は十分理解出来ました。今後はモンスターが出たとしても……その、そうですね。目の前に出たとき以外は我々の指示に従って下さい」

「寿、いいか?」

「いいよ」


 そもそも、こんなことになる前の寿は、ホンの少し司に対する愛情が深い点を除けば、ごく普通の大学生女子。モンスターと戦うなんて荒事は好まず、友人たちとスイーツ巡りをしては体重を気にする生活の方を好むタイプだ。

 だから「無理に戦わなくていい」という申し出は、願ってもないこと。二つ返事で了承した。



「ところで、話は変わりますが、藤咲さん」

「ん?何でしょうか?」

「息子さんがいらっしゃるとか」

「ああ、司ですか」

「今どこに?」

「こちらへ向かって移動中としか」

「そうですか」


 上からは藤咲司の情報を何でもいいから、と言われているが、移動中で居場所不明。壊れたスマホが見つかっているから連絡の取りようもない。せいぜい、目的地がこの避難所らしい、と言う情報を流すくらいか。

文字数が少なすぎるので、今日は二話投稿にします

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