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◇ ◇ ◇
「ようやく県を越えましたねぇ」
「長かったな……新幹線でも長いけど、道を走るともっと長く感じる」
「でもこれで」
「これで?」
「エビフライと味噌と喫茶店のモーニングに妙なこだわりのある県ですよ!ちょっとだけ期待しちゃいます!」
この状況で営業している店があるとは思えないんだが。
「それ、全部他県から見た勝手なイメージだから」
「え?そうなの?」
ちなみにエビの消費量日本一は、パンダの飼育数日本一の県である。近いと言えば近い……のか?
「あと、どうしても言いたいことが。俺、味噌カツ丼って許せないんですよ」
「どうして?」
「ご飯の上に直接キャベツが乗ってるってのがなんかイヤで」
「へえ」
※個人の感想です。
道路には相変わらず潰れた車が並んでいた。一応中を確認したのだが、ゴブリンすら餓死していた。どういう仕組みでモンスターをこの世界によび出しているのかわからないが、モンスターにとってもなかなか厳しい生活環境らしい。
そして、走りづらいなら、車道を走らず歩道を進めばいい。さすが一桁国道、歩道もなかなか立派で走りやすい。
「普段なら通報されてもおかしくないな」
「あはは。ドラレコ映像が全国ニュースで流れちゃいますね」
もっとも、原付で高速走ったり逆走したりと結構やりたい放題なので今更だ。
「ん?何だあれ」
「え……自衛隊?」
「っぽいな」
深緑色した特徴的な形の車が五台、ゆっくりと移動しているのが見えた。その周囲を武装して歩いている者がいる。
「大型の……トラックというか何というか……まあ、自衛隊の輸送用トラック?」
「荷台は人……?」
「んー、見た感じ……避難した人たちかな?」
「周囲を警戒しながら避難所へ移動中、って感じでしょうか」
「多分ね。でもアレだと」
「モンスターが出てしまうかも?」
時計をみると三時を過ぎたところ。モンスターが出現すると言われている時間を少し過ぎているので、いきなり目の前に現れる危険への対処より、どこかで現れたモンスターが近づいてくる方を警戒しているのだろう。司たちの金属バットに成海の魔法、使いこなせない日本刀に弾のない拳銃という構成に比べると、なかなかにゴツい感じの銃。ガチの武器を構えている分、頼もしく見える。
「離れよう」
「そうね」
見つかった場合、彼らは国民を守るという責任感に基づいて保護しようとするだろう。ありがたい申し出だが、今のところ司たちは生きていく上で困っていない。彼らの負担を増やさないために、その場を離れた。
「えーと、こっちですね。で、あの交差点を右に」
「了解」
地図を確認した成海の誘導で移動を始めて少し、
「何か聞こえません?」
「銃声?」
「それに、悲鳴……」
「数が多いような……」
慌てて時計を見ると、午後三時五分になるところ。司たちが離れてすぐに聞こえたと言うことは、どこかで現れたモンスターに襲われたと言うより、いきなり目の前に現れたのだろうか。
「まさか」
「え……」
司たちも外にいるというのにそこには現れず、移動中のトラックの周囲に現れたとすると、やはりあのモンスター出現条件はまだ足りない。少なくとも0分ちょうどに出るというのは不正確な条件とみていい。
すぐ目の前の五階建てビルを見上げる。
「ここから状況確認を」
「え?」
「助けに行くかどうかは決めてないけど、様子を見て……場合によっては助けに入ることも考える……かな」
「そうね」
仮にあのトラック隊が全滅した場合、それなりの数のモンスターが野に放たれた状態になる。そのまま夜を迎えるのはマズい。
「うわ……」
「あれは……」
ビルの五階からトラックの様子が見えた。
トロールとオーガの混成で十匹程がトラックを囲んでおり、武装した自衛隊員が必死に排除しようと戦っている。オーガにはある程度銃弾が通用しているが倒すには至らず、トロールはいくら撃ってもすぐに回復してしまう。
「まさか弱点を知らないとか?」
「確かに知ってたらもう少し色々と……あ」
「マズいな」
見ている間に二人倒された。ギリギリで押されていたところが一気に崩れていく。
「助けに行きましょう、と言いたいが……」
「さすがにアレは」
「さすがにアレは無理」
「だな」
単純にモンスターの数が多すぎる。二人が今までに戦ったのは最大で三匹まで。司の金属バットと成海の魔法二種にコンテナinアイテムボックスの組み合わせは少数相手には強いが、十匹相手となるとさすがに厳しい。ゴブリン程度なら十匹でも何とかなるだろうがオーガとトロールはさすがに無理だ。
そして崩れ始めるとあっという間で、数匹がトラックを破壊し始めている。運転席の自衛隊員が必死に銃を撃っているが、それも数秒。銃弾にいらだったオーガに引きずり出され、踏み潰された。
どうすることも出来ない状況に絶望し、目を背けて壁を背に座り込む。出来ることなら助けたいが、助ける方法がない。司の豪運も成海の魔法も、無敵の能力ではないのだ。
二人が目を背けて、わずか数秒で銃声が止み、そしてすぐに悲鳴も止んだ。
終わった。
そう思って十数秒。車のエンジン音が近づき、モンスターの吠える声が聞こえ……静かになった。
「「え?」」
殺戮の音が鳴りやんだそこには、予想もしなかった光景が広がっていた。
◇ ◇ ◇
「おい、あれ……」
「そのまま突っ込め!」
斉藤の指示のまま、モンスターたちがトラックを破壊している現場へ車が飛び込んでいく。
「死ね!」
斉藤の言葉と共にバタバタとモンスターが倒れていく。相変わらず何をしているのかわからないが、頼もしい限りだ。
「ほいっと……これで全部か?」
「そうみたいだな」
トラックを襲っていたモンスターは全滅。だが、トラックに乗っていた人間も、その周囲でトラックを守ろうとしていた人間も、一人として生きていない。
「俺らが来たときには全部死んでたってことか」
「みたいッスね」
「行くぞ」
「え?」
「ここにいたってしょうが無いだろうが」
斉藤がそう言って車に乗り込み、フン、とふんぞり返るので、他の者もそれぞれ車に乗り込んだ。これでトラックに何か食料でものせていたら頂いたのだが、その様子も無いのでこれ以上ここにいても意味が無い。
◇ ◇ ◇
「何だあれ」
「何をやったのか全くわかりませんでしたね」
二人が見たときには既に戦いが終わっていた。トロールが燃やされたり酸をかけられたわけでもないのに死んでいるし、オーガのような強靱なモンスターもあっさり倒れている。司たちが視線をそらしてからわずかな間にあの車の連中がやったのは明らかだが、何をしたのかわからない。
「味方に付けたら心強いけど」
「何か、ちょっと怖い感じですね」
「隠れていよう」
「賛成」
とりあえずこのビルの一室で夜を過ごすことに決めた。




